始の章-5
警察に駆け込み、三人は無事保護された。シランとルカで塔藤夫妻のことを説明する。少し躊躇われたが、シオンの身体中の傷を見せたことで、信用してもらった。
「わかった。児童相談所に連絡しよう」
「ありがとうございます。俺も、自宅に電話をかけたいのですが、いいですか?」
「ああ」
ルカとシオンは待ってて、とシランは刑事についていく。ルカはシオンを連れ立って近くの椅子に腰掛けた。
「シオンくん、大丈夫だよ」
ルカが声をかけるがシオンは黙り込んだまま。触れると、肩が小刻みに震えていた。
「しばらくシランかわたしのうちにいよう? シランもわたしも家は鮮美地区で、塔藤さんのうちから遠いし。シランのうちの市瀬さんは二人ともいい人よ?」
遠くでシランが電話口に話しかけるのをルカは聞き取っていた。「前から話してたシオンって子、やっと連れ出せたから、しばらくうちにいさせて」──シランは前々からこうすることを考えていたらしい。
その後、二言三言交わし、シランは電話を切る。そこまで聞いたところで、新しい足音が入口からこちらへ近づいてくるのが聞こえた。え、と思いルカが顔を上げ、凍りつく。隣にいるシオンもそちらを見て固まった。
「ああ、シオンったらこんなところまで来てたのね。心配したのよ」
どの口が言うのだ、とルカが唇を噛みしめて睨み付けた先には塔藤夫妻がいた。
タイミングがいいのか悪いのか、刑事とシランが戻ってくる。シランが敵意を剥き出しに塔藤夫妻を見る。
「何しに来たんですか?」
低い声で語りかけながら、シランはルカたちの前に出る。
「アタシたちはシオンを探していたのよ? この子ったら、目を離すとすぐやんちゃするから。ねぇ、あなた」
「ああ。でもよかった、無事で」
あまりもの白々しさにルカとシランは呆れる。そんなものはないとばかりに完全無視し、塔藤夫妻はシオンを抱きしめた。瞬間、シオンがひっと声にならない悲鳴を上げたのを、ルカはしっかり聞き取っていた。
それでもシオンはされるがままだ。声一つ上げない。きつく抱きしめられ、全身の傷が痛んでいるはずなのに。
刑事はその姿に首を傾げる。
「何か、お話と違うようですが」
思わずといった体で刑事が呟く。
「違う、とは?」
「いえ、今、お子さんたちからあなた方がその子に暴力を働いていると聞いたものですから」
「とんでもない! 里子とはいえようやくできた息子ですよ? それを苦しめるわけがないじゃないですか!」
「何か勘違いしてしまったようね。この子たちは同じ孤児院の出の子なので、とてもシオンを気にかけてくれるのです」
「そ、そうなんですか」
「な、何言って」
シランが反論しようとするが、途中でぱたりと倒れる。ルカが慌てて抱き起こすと、酷い脂汗が流れていた。
「あら、大変! 随分疲れていたのかしら? 救急車を呼びましょう」
そう言って塔藤夫人が電話をかける。刑事も慌てて対応した。