逝の章-5
朝七時。
ルカは早く起きたので、家を早めに出ることにした。
するといつもより早い時間だというのに、シランが家の前にいた。
「おはよう、ルカ」
「おはよう、シラン。早いね」
シランの表情が微かに翳る。ルカは嫌に鼓動が高く鳴るのを感じた。
シランは手にしていた携帯電話をぱかりと開く。いくつかボタンを押し、ルカに画面を見せた。
「朝早く、アオハからメールが来た。ルカにも読んでほしくて来た」
ルカは嫌な予感しかしなかった。メールを見たくなかった。けれど、アオハからのメッセージだ。震える手で携帯電話を受け取り、中を見る。
「もうすぐ、"七つの子"の悲劇は終わる。止められたわけじゃない。もう止めるにも遅すぎるんだ。終わってしまうから。残るは、最後の一人……後は、頼んだよ」
そんな文面。
文章全体から漂う諦めの雰囲気。
"七つの子"事件はもうすぐ終わる。
残るは一人。
後は頼んだよ──
ルカは事態を察した。察してしまった。
「ルカ」
シランが静かに彼女の名を呼ぶ。
「アオハはその前のメールで図書館にいると言っていた。……行ってみるか?」
その台詞に躊躇いがあったのは仕方のないことだろう。そこに何が待っているのか、シランは悟っていたのだ。
そして、ルカも。
けれど、行かなければならない。そう思って、ルカは力強く頷いた。
それにシランは仄かに悲しげな笑みを浮かべる。
「どうせ、通学路だものね」
言い訳のようにシランは呟いた。
黙々と歩く二人。今日は週に二回のごみの日だからか、生ごみの腐臭が鼻についた。
久遠地区を抜け、生染地区に入ると、生ごみ臭以外のものが混じっているのがわかった。
それは学校に近づくほど──正確には図書館に近づくほど強くなっていく。
学校に一番近いごみ捨て場は例の木造アパートの脇にある。
鉄錆に似た独特の臭い。
シランは臭いがきつくなっていくほどに眼鏡の奥の目を細める。ごみ捨て場が見えてきたところで、そっとルカの耳を塞いだ。
しかし、それは無意味だった。
もう逃れることのできない呪詛であるかのようにあの歌がルカの鼓膜を震わす。
「からすなぜなくの」
澄んだ女性の声。
もう何度も聴いているせいか、そこに漂う悲しみがルカにもなんとなくわかった。
だからといって、嬉しいわけはない。
目の前に現れる現実はいつも残酷だ。
図書館の門に座り込んでいる男の子が一人いた。目を閉じて、左足を立て、俯いて──ただ眠っているように見える。
右足が欠けていなければ。
触れようとしたルカをシランはそっと手を引いて止める。彼は別な方に視線をそらしていた。
そちらを見やると、例の木造アパート脇のごみ捨て場だった。いくつかごみ袋が重ねられた中に何か棒のような物が突き立っている。
先には靴。
図書館の門に目を戻す。男の子はそれと同じ靴を履いていた。
そう、片倉アオハはもう、物言わぬ骸と化していた。




