逝の章-4
アオハは虹の瀬に今起こっていることを簡単に説明した。
アオハは塔藤シオンから続く不審死事件を"七つの子事件"とひとまとめにしていた。
「そう……あなたはそう考えているのですね」
虹の瀬は悲しげに眉根を寄せていた。
アオハはしっかりと頷く。虹の瀬は顔を伏せた。
「染崎遥さんと貴女は古くからの友人だと聞きます」
黙して答えない虹の瀬にアオハは更に続ける。
「そして、加賀美彼方さんとも」
びくんと虹の瀬の肩が跳ねる。唇をきゅと引き結んだ。
「染崎ハルカの住所はこの町の古びた木造アパートの二階になっています。加賀美カナタは十年近く前に亡くなっている。元々染崎ハルカは体が弱く、病気がちで、子どもを七人も生めたのは奇跡といっていいでしょう。けれどさすがに育てることはできなかった。加賀美カナタもシングルファザーをやるには忙しかった。それで、もう一人の幼なじみだった貴女を頼った」
虹の瀬はアオハの推測を肯定も否定もしない。ただ黙って俯いているだけである。
アオハは淡々と続ける。
「申し訳ないですが、色々と貴女やカナタさん、ハルカさんのことを調べさせていただきました。家の権力振りかざして物を調べたのは初めてです。もう二度とやりたくはありませんね」
渋い顔をしつつもつらつらと続ける。
「貴女はかなり若いときに癌を患い、子どもを生めない体になりました。ハルカさんもカナタさんもそのことは知っていました。けれど子ども好きな貴女。それを思って、子育てに手の回らない彼らは貴女の開いたこの"虹の瀬孤児院"に子どもたちを預けることにした。……つまり、その子どもたちは本当は捨て子ではなかった」
「……ええ」
そこでようやく虹の瀬が口を開いた。
「確かにカナタとハルカとは幼なじみよ。彼ら以上の存在は私にはない。でも……だからこそ、あなたの言うことが信じられない。まさか、彼女がそんなことをしているなんて」
虹の瀬の頬をぽろぽろと雨滴が伝い落ちていく。雨滴は膝の上で握られた手の上で次々と弾けた。
「まだ、推測ですよ。けれど、ほとんど事実に近いでしょう。もう、終わりは近い。だからもう彼女には誰の声も届かない。止められやしないんです。それは彼女の意思が固いとか、そういうレベルじゃない。だから──終わったときのために、貴女に伝えに来たんです。頼みたいこともあって」
「頼みたいこと?」
聞き返し、虹の瀬はぱっとアオハを見た。
「僕はもうすぐ死ぬでしょう」
言葉の割にはその目に宿る光に諦めはなく、むしろ確固たる意思が感じられた。
「そうしたら次はあいつです。けれど、そこで終わりではありません。だから、最後の最後、本当に取り返しがつかなくなる前に、彼女を止めてください。それができないならせめて──」
アオハは一拍置き、頭を下げる。
「ルカだけは助けてあげてください」
虹の瀬はしばらく沈黙していた。
頭を下げたままのアオハを見つめる。そこにふと、懐かしい面影が重なった。
「あの人の家族、だなんて、ずるいわ」
本当に小さく小さく、苦笑混じりで呟いた。
「わかったわ、アオハくん。私もできる限りのことはする。彼女にまでいなくなってほしくないもの。ありがとう」
その声には少し何かが滲んでいた。




