逝の章-2
少しの間、アオハ視点になります。
きついことを言ってしまった。
ルカと図書館で別れた後、アオハは後悔に苛まれながら歩いていた。
自分は知らないふりをしていればいいだけなのに、ルカを煙に巻くためにいらぬ本音をぶちまけてしまった、と。
ルカはシランから借りて"七つの子"の内容を知ったらしい。となると、これまでの事件との共通点に気づいたにちがいない。
ルカは目撃者に選ばれたのだ、と以前シランは言っていた。
そのことにやるせない思いが押し寄せてくる。シランはどこまで話しただろうか。そういえばルカは最近よくトウコとも二人で行動していた。トウコが何か告げたのだろうか。
おそらくこの事件の真相にある程度近づいているのはもうアオハとシランだけだ。真相──経緯を知っているからこそ、ルカには隠しておきたかったというのに。
市瀬のやつ、とアオハは心中でシランを罵った。
あいつも、ルカには気づかれたくなかったはずだ。まだ完全に気づいたわけではないようだが、そこにルカが辿り着くのは時間の問題だろう。
何故ヒントを与えるような真似をしたのか。
──いいや。
アオハは首を横に振った。考えるのは無駄な徒労だ。それに、シランが浅はかなことを考えるような人間ではないことはアオハが一番よく知っていた。
そうでなければ、アオハとシランの立場は逆だったはずなのだから。
もうどうしようもない過去を振り返り、自嘲する。そうしているうちにアオハは目的地に到着した。
暗い中にぽつんと灯る暖かな光。比灘町久遠地区にあるこの施設の名は"虹の瀬孤児院"。
アオハは懐かしげに目を細め、中に足を踏み入れた。
「こんばんは」
アオハが声を上げるとばたばたと騒がしい足音が複数。
「誰か来たぞーっ!」
「って、あれ? シラン兄ちゃん」
「……じゃない?」
「眼鏡ないよ、眼鏡」
「シラン兄ちゃんの本体眼鏡だもんねー」
「でもそっくり」
「なんで? なんでー?」
わいわいがやがや。かしましい子どもたちがたちまちアオハを囲む。
アオハは子どもたちの鋭さに舌を巻きつつ、答える。
「シランって誰だい? 僕の名前は片倉アオハ。ここの院長さんに用があってきたんだ」
「えー? シラン兄のこと知らないー?」
「なんか喋り方もちょっとシラン兄ちゃんと似てる」
「いんちょさんっていんちょのこと? ぼく呼んれくる!」
「シラン兄に似てるから、性格悪かったりして。嘘つきかもだぞ!」
「わー、怖ーい。逃げろーっ!!」
「おいおい……」
子どもの論理にアオハは渋い顔をする。一人まともに受け入れた子どもが宣言どおり院長の虹の瀬を連れてきた。
虹の瀬はアオハの姿を見、目を見開く。
「こんばんは、片倉アオハです。僕は正直覚えてないんですけど、虹の瀬院長は僕を覚えていますか?」
そんなアオハの挨拶に、虹の瀬は目を見開いたままこくりと頷いた。




