逝の章-1
嫌な予感が当たってしまった。
ルカは憂鬱な面持ちで学校に来ていた。
トウコが死んでから三日経った日のことである。
トウコは"七つの子"の三女と同じく目を失っていた。これでもう、確信せざるを得ない。
シオンから続く"連続不審死"は間違いなくあの本"七つの子"に準えて行われているものだ。
つまり連続不審死はまだ続き、次の犠牲者は"双子兄弟"にあたる人物ということだ。
犠牲者の方はルカには心当たりがない。けれども、何かを知っているかもしれない人物には目星がついていた。
何を聞けばいいのだろう。聞いてどうにかなるのだろうか。
ルカは鬱々と頭を抱えながら日が暮れるのを待った。
放課後、図書館に行けば、その人物はいつものとおり既に来ていた。
「や、ルカ」
「こんにちは、アオハくん」
「シランは?」
「お店の手伝い」
小遣いの賃上げ要求のためにシランはここのところ放課後はすぐ店の手伝いに帰ってしまう。
ルカのその答えにアオハはふーん、と興味なさげな声で答えながらも、意味ありげな笑みを浮かべる。
「ま、もうすぐ誰かさん……だからね」
あまりに小さな呟きだったため、ルカの耳でも聞き取れない部分があった。それも気になったが、今はもう一つの目的が優先だとルカは本題を切り出す。
「アオハくん、"七つの子"のことで聞きたいんだけど」
"七つの子"という単語にアオハはぴくりと眉根を寄せる。
「……何?」
「七つの子。アオハくん春に読んでたでしょ?」
「そうだけど。どうして急に?」
ルカは口にしていいものか悩んだが、言うことにした。
「シオンくんの一件からずっと続いている不審死事件と何か関係があるんじゃないかって思ってるの」
「ふぅん」
「アオハくんはどう思う?」
うん、という生返事が返ってくる。あまりの興味なさげな様子にルカはやきもきしながらアオハからの答えを待った。
アオハは手にしている本に目を落としたまま何も答えない。ぴらりとページをめくる。
「アオハくん?」
「僕は」
耐えかねてルカが声を上げるのとアオハが口を開くのはほぼ同時だった。ルカが慌てて続く言葉を待つ。
「僕は別に、事件のことにはあまり興味ないかな。言っちゃ悪いけど、東雲さんはともかく、他の人はあんまり縁のある人じゃないし。物語に似てるっていうのも、考えすぎじゃないかな。物語は物語であって、現実ではない。まあ、現実のように捉えてしまったり、同じことが起こることを期待して実行しちゃう人がいるのは知ってるけどね。現実ではないから物語は物語たり得るんだよ」
「でも、死に方が」
「七人兄弟だったっていうの?」
アオハのきっぱりとした物言いにルカは何も言い返せなくなる。
けれど同時に珍しかった。普段物静かで感情の機微があまり明らかではないアオハが今は少し苛立っているのがわかる。
「だとしたら、できすぎた話だと思わない? 第一の犠牲者の塔藤くんは比灘町、第二、第三の犠牲者は氏元市、第四の犠牲者は加良市、そしてこの間の東雲さんは多ヶ竹市に住んでいるんだよ? 住んでいるところもばらばら、年齢もばらばらの人たちが偶然にも血の繋がった兄弟だって誰が思うの? これが連続不審死だとして、その動機は物語と同じだと思う? 僕はただの愉快犯だと判断するね」
ぱたりと閉じた本の音が心持ちいつもより大きかった気がする。アオハは立ち上がり、ルカを真っ直ぐ見た。
「もしも、これが物語に準えて行われている犯罪だとしたら、実行犯は──人間として、とても可哀想な人だよ」
冷たい声がルカの耳の奥で何度も何度もそう繰り返した。




