悼の章-12
「そ、そんな。まさかね」
自分の考えを否定するものの、気になって読み返してしまう。三女に関する記述を目で追いかける。
三女はその知識をひけらかすような子どもではないが、ちょこちょこ頭の足りない姉たちの発言をその知識でフォローする場面がある。
しかし、考え方は双子兄弟寄りで、少々狂っているようにも感じられる。
目を喜んで差し出す三女。姉の足を躊躇いなくぶった切る三女。目をいらないという三女。「こんな景色を見なくて済む」──そう笑う三女。
とても、トウコとは似ても似つかない。
大丈夫。違う。
読み返して自分に言い聞かせるように頷く。
「読み終わったし、明日、シランに返そう」
そう呟いて、ルカは本を閉じた。
ルカが読み終えた本をシランに返したその日もまた、トウコは比灘町にやってきていた。
「最近よく来ますね。大丈夫なんですか? 学校の方は」
「…………うん」
シランの問いかけにトウコは微妙な間をもって答える。ルカはその間が持つ意味を察し、胸に走る痛みをこらえた。
まだ、いじめは続いているのだ。制服で上手く隠しているようだが、トウコの左手首には時折ちらりと切り傷が見える。
「でも、多ヶ竹市からって結構遠いですよね。どうしてです?」
「会いたい人がいるの」
いつも答えにまごつくトウコにしては珍しく、即答だった。
会いたい人……加賀美のおばあさんのことだろうか、とルカが考えていると、トウコは更に言葉を次ぐ。
「会って話をしたいんですけど、なかなか会えなくて。会えるまで頑張ってみるつもり」
会えていない? つまり、目的の人物は加賀美ではないということか。
だとしたら誰に? そんな疑問をルカが口にしようとする直前、シランがにやりと笑った。普段、滅多に表情を動かさず、中でも笑うことが飛び抜けて少ないシランとしては珍しい表情だった。
「なるほど。叶うといいですね」
その返しにルカは引っ掛かりを覚えずにはいられない。シランの口振りは、まるでトウコがしようとしていることを全て見透かしているみたいだ。
けれどトウコにその発言を不思議がる素振りはない。
「終わる前に会えればいいんですけどね」
「そうですね。俺もそう思います」
二人の間で会話が成されていく。ルカは一人、置いてきぼりを食らった。
「でも、今日は会えそうです。おそらく最初で最期の機会です」
「おや」
「おばあさんが力を貸してくれました。今日やってだめなら──終わるでしょうね」
柔らかい笑みの中に寂しさを含めてトウコが口にした一言にルカは嫌な予感がする。何故だろう、トウコはこんなにも朗らかな様子なのに、言葉から漂ってくる不穏さは。
ただ単に、"終わる"という言葉が持つ意味合いのせいなのだろうか。
ルカはトウコを見るが、表情から正確な意味を読み取ることはできなかった。




