悼の章-11
本をぱたりと閉じ、ルカはぞっとした。背筋を走る悪寒に肩を抱く。変な汗をかいていた。
童話のようなどこか無垢な語り口で紡がれる残酷な物語。アオハは確かに随分と表現を和らげて説明してくれていたようだ。
「……悲しい、怖いお話だけど、何かに似てる」
ルカは物語の内容に奇妙な既視感を覚えていた。けれど、何に似ているのかはわからない。
七人の子ども。
内臓、頭、右手、左足、目、右足、左手、耳……
「……内臓、頭、右手、左足?」
ルカの脳裏に閃くものがあった。
偶然だろうか。
立て続けに不審死を遂げたシオン、ミドリ、ミズキ、アカネはそれぞれ内臓、頭、右手、左足を失っている。しかも、物語と同じ順番に。
これはただの偶然なのだろうか。
ルカの中で胸騒ぎが収まらない。
もし偶然じゃないとしたら、この物語の通りに、"連続不審死"が続くのだとしたら、次の犠牲者は目を失う。
「……なんて、まさか」
ルカは否定の言葉を呟いたが、不安は消えてくれない。焦燥のままに中身を読み返す。
内容を確認しよう。
登場人物は全部で八人。
お母さん。七人の子どもを生んだ母親。子どもと同じくらい自分の夫のことを愛していた。夫の死を知り、長い間嘆き続ける。
七人兄弟は男四人、女三人だ。
長男。一番上の子ども。しっかり者で兄弟のまとめ役。末っ子が内臓をと決めた際、自分は同じくらい危険な頭をと宣言したことから、責任感が強いと見られる。兄弟の中で父親に最も似ている。
長女。二番目。年子姉妹の姉の方。足が速いのは父親譲り。
次女。三番目。年子姉妹の妹の方。手先が器用。
三女。四番目。引っ込み思案の子。頭がすごくいい。
次男。五番目。双子兄弟の兄の方。理知的で物静か。
三男。六番目。双子兄弟の弟の方。無口で無愛想。
四男。七番目。末っ子。天真爛漫で好奇心旺盛。父親を知らない。
年子姉妹と双子兄弟はそれぞれセットで捉えられている。
年子姉妹同士は仲がよく、二人共少し頭が足りないがかしましく、ムードメーカー。物語の終盤あたりを見ると登場人物たちの中ではかなり常識、良識を兼ね備えていることがわかる。
一方双子兄弟はというと、二人共無口なため、物語前半は存在感がないといってもいい。祈祷の下りからその頭脳明晰なところが明らかになっていくが、全体的に思考回路が仄暗い。仲がいいかは不明だが、考えることは大体一緒のようだ。
ここまでまとめて、ルカは気づく。
「やっぱり、死んだ四人は話の中の四人と重なる部分がある」
長男はミドリ。どちらも頭を失っており、何故か耳は消えていた。
長女はアカネ。足が速いのは言うまでもない。
次女はミズキ。アカネとはとても仲がよかったと聞いた。
末っ子はシオン。シオンは無垢で無邪気で……無知だったわけではないが、里親の暴力に蓋をして、知らないふりをしていた。
それぞれ失った部位も年齢関係もぴたりと当てはまる。いくらか相違もあるが、ここまできっちり一致するのを果たして偶然と呼んでいいのだろうか。
そこまで考え、ルカはまたぞくりと震えた。ここまでの推測が成り立ったことで、目を反らしていた事実に向き合わなくてはならなくなったのだ。
体の各部位を失う順番は末っ子→長男→次女→長女である。それはシオンたちの順番にも当てはまる。だとしたら、もしもこれがこの物語のとおりに起こる"連続不審死"ならば、次に死ぬのは三女にあたる人物だ。
三女は引っ込み思案で頭がいい。失うのは目。
ルカの中でその符号が全て当てはまりそうな人物など一人しか思いつかない。
全国でもトップの頭脳を持ちながら、過剰に謙遜する少女。彼女はとても視力がいいという──
東雲トウコという名前しか、浮かばない。




