悼の章-10
お母さんは仏壇の前ですすり泣いておりました。
そこへとたとたとたーと双子が走ってきました。振り向くと、二人共血まみれです。
「どうしたの?」
「あのね、お母さん、僕たちお母さんのために、お父さんを生き返らせようって、儀式やってたんだ」
兄の方が無邪気な風に言いました。
お母さんは"お父さんを生き返らせる"という言葉に他のことなど吹き飛んでしまいます。故に、子どもたちの異様な姿に何も言いませんでした。
「それで、母さんに手伝ってもらいたいことがあるんだ」
弟が続けた言葉に「なぁに?」とお母さんは柔らかく聞き返しました。
すると、弟はずりずりと引きずっていた鉈をお母さんに渡します。
「これで兄さんの右足と俺の左腕、切って」
「え」
「お父さんが生き返るのに、必要なことなんだ」
「……わかったわ」
お父さんが生き返るため。その一言にお母さんは躊躇いなく、鉈を振るいました。
左腕と右足が飛びます。
双子はにっこりありがとうと異口同音で言いました。
そして
「じゃあ母さん、耳ちょうだい」
兄は左手で右耳を、弟は右手で左耳を。
お母さんの両耳をいっぺんにちぎりました。
では、その後儀式は成功したのでしょうか。
うふふ、それは誰も知りません。




