悼の章-8
夜が明けて、朝になり。
早速準備に取りかかる弟妹たちに年子の姉妹はおののきました。
末っ子の手には身の丈に合わぬものものしいチェーンソー、双子たちは果物ナイフや包丁などの刃物をあれでもないこれでもないと品定めしています。一番大人しい引っ込み思案の妹は外見を裏切る大きな鉈を抱えておりました。
「ほ、本当にやるの……?」
年子姉妹の声は計らずも重なります。少し震えていました。それもそうでしょう。いたいけな子どもとまがまがしい凶器たち。それらが醸し出す異常さは尋常ではありません。
儀式の体の一部を捧げる行為──それはそれぞれの部位を切り離すということなのです。手足という比較的生き残る可能性の高い部位を切る年子姉妹でさえ怖いのに、この四人は一体なんなのでしょう。
引っ込み思案が差し出す目は、くりぬけばショック死の可能性が大きいです。けれど、普段は誰よりもびくびくしている彼女が昨日は自ら目を差し出すと言いました。お姉さんたちは信じられません。
「あんたは怖くないの?」
お姉さんが尋ねると、末妹は小さく微笑みます。
「怖いですよ。でも、同じくらい嬉しいです。私、目がなくなるのが嬉しいんです。だってもう、この景色を見なくて済む。ああ、早く逝きたいです」
普段は表情が少ない分、その笑顔はなんだか迫力がありました。
続いてお姉さんたちは双子に尋ねます。双子はお姉さんたちと同じく手足を切り落とすわけですが、双子は年子たちと利き手利き足が逆です。二人共迷いなく利き手利き足を差し出したわけですが、躊躇いなく宣言できたのは何故でしょう。
「あの祈祷を見つけたときからやるかもしれないって覚悟はしてたから」
兄の方が答えます。
「何でもいいからあの祈祷試してみたかった。手なら運がよければ死なないし、いいかなって」
弟の方が答えます。
双子はどちらも冷めていました。
末っ子のところに向かいます。彼は失った途端に死ぬであろう内臓を抉り出されるのですが、それを理解しているのかいないのか、とても楽しそうです。
「あんた、死ぬかもしれないのよ?」
「えっ、そうなの?」
案の定、わかっていなかったようです。
これはと思い、お姉さんたちは末っ子を説得します。
「そうよ、死んじゃったらお父さんに会えないわ。今からでもやめましょう?」
すると末っ子は。
「何言ってるの?」
とても無邪気に笑いました。
「ぼくはお父さんに会いたいよ? 会いたいけど、ぼくの願いは二の次なんだ。それでいいんだ。だってぼくが一番に願うのは、生まれてから一回も見たことがないお母さんの笑顔だから」
その笑顔が怖くなって年子姉妹は逃げました。
けれど末っ子はそれを追いかけます。
「ねぇねぇお姉ちゃんたち、逃げないでよ。もう始めちゃおう。あ、兄ちゃんナイフ貸してね。ほら、お腹は自分で裂くからさ」
言うなり末っ子は
ざくっ
自分のお腹にナイフを突き立て、ずず、と引きました。
さあ、祈祷の時間の始まりです。




