悼の章-4
陸上界のホープ時田アカネの死は真相は伏せられたものの大々的に報道された。
けれど話題になるのはそう長い期間ではなく、四月も末になってくると世間からその話題は消えていた。呆気ないものである。
まるで、咲いたら瞬く間に散る桜のよう。
「そんなもんだよ」
ルカがあっさり消えていくアカネの話題に寂しいとこぼすと、シランはそう答えた。
「人の噂……人が生み出した言葉っていうのはね、形がないから変幻自在だし、簡単に消えたりもする。諸行無常とはまさしくこのことだね」
かなり冷めた物言いだ。
ちくりとルカの胸に刺さる。
「シランは何とも思わないの? 人が死んだのよ?」
「思っている暇がないよ。悪いけど今は結構重要な案件を追いかけてる。それ以外に興味を持てない」
「……重要な案件?」
シランの言葉に疑問符を浮かべるルカ。シランはそれを一瞥すると、鞄から藍色のブックカバーがかけられたハードカバーの本を出す。何も言わず、ルカにすっと渡した。
読めということだろう、とルカは本を開き、目に飛び込んできたタイトルに息を飲む。
"七つの子"
「これってまさか、アオハくんが前に読んでた都市伝説……」
「そうだよ。それ読んだら色々気になることが出てきたから、調べてるの」
ルカは恐る恐る、ページをめくる。目次のページの片隅に簡単なあらすじが書いてあった。
七人兄弟とお父さんとお母さんのいる幸せな家族がありました。
しかし、七人目が生まれるとすぐ、お父さんは病気で死んでしまいました。お父さんが大好きだったお母さんはそのことを大変嘆きました。
七人目の子がいくらか大きくなってから、七人兄弟は悲しむお母さんを慰めようと、ある儀式をすることにしました。
まるで童話のような語りにルカはすっと引っ掛かるものを感じた。
そんなに軽い物語だっただろうか。
以前アオハに聞いたあらすじを思い出す。
これは確か「父親を亡くした子どもたちが父親を蘇らせるために、自分たちの体の一部分をそれぞれ捧げる。それだけでは足りない部分を子どもたちの計画を手伝った母親から剥ぎ取る」というなかなかにものものしい内容だった気がする。
ルカの中で、やはり何かが引っ掛かる。体の一部分。七人兄弟。
「シラン、これはまだ読んでないの?」
「ううん。粗方読み終わって、気になるところを読み返したりメモしたり。何? ルカ気になるの?」
ルカの思考を先読みし、シランが聞き返す。ルカは素直に頷いた。
「じゃあ、貸すよ。俺のだし」
「でも、調べ物は?」
「大丈夫。大体内容は頭に入ってるし、あとは考えるだけだから」
遠慮しないで、というシランの言葉に甘え、ルカは"七つの子"を読んでみることにした。




