悼の章-1
ぱぁんっ
突如破裂して跡形もなく吹き飛ぶアカネの左足。
「からすなぜなくの」
一人の人間が死んだその場にそぐわぬほどの涼やかさを持った女性の歌声。
とさり
目を見開いたまま倒れる少女。
ぱぁんっからすとさりなぜぱぁんなくとさりのかぱぁんらすとさりなぱぁんぜとさなくぱぁんなぜなとさりぱぁんなくとさりなくぱぁんなくとさりなくぱぁんなぜとさりなななな、なぜぱぁんとさりかぱぁんとさりらぱぁんとさりすぱぁんすすすすすすすすなぱぁんななななぜななななとさりぱぁんく、くくく、くのぱぁんからすなぜとさりからすからすからすからすからすからすからすからすからすなぜなぜなななななななぜなくぱぁんなくの……?
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
耳の中でランダムに再生される先程聞いたばかりの音声。ルカは耐えきれず頭を抱えて悲鳴を上げた。
傍らにいたトウコはしばらくその肩を支えたが、じっと倒れた少女を見つめ、おもむろに立った。少女の──アカネの元に向かう。
目を見開いたまま、アカネは絶命していた。トウコは冷静にポケットから携帯電話を取り出し、救急車と警察を呼ぶ。通常のトウコからは考えられないほど落ち着いた口調で現状を伝えるその額には汗が浮かんでいた。
本当は怖くて仕方ない。けれど感情を必死に押し隠している表情だった。
そんな表情の下で、トウコは存外冷酷なことを考えていた。本当はもう救急車を呼んでも無駄だ、と。
それでもルカのいる手前、何もしないわけにはいかなかった。時田アカネを放置するのはあまりにも。
「ねぇ、"お母さん"。貴女はどうして私たちを生んだの?」
おとぎ話の語り部のように現実感のない調子で放たれたトウコの言葉。
それは今この場ではなく、少し離れたところに建つ木造アパートの二階の真ん中に向けられていた。
これはおとぎ話のようなものだ。
おとぎ話は夢物語。
夢物語は現実じゃないんだよ?
おとぎ話を、現実にしてはいけないんだよ? お母さん。




