堰の章-7
「こんにちはっ!」
鍵を開ける時間も惜しいというように食い気味で入ってきたのはアカネ。何故か息を切らしている。
加賀美と知り合いなのか、どうも、と軽く挨拶する。それからすぐ部屋の奥へと目をやり、トウコを見た。
「あー、よかったー、いたー」
そんな声と共にその場に崩れるアカネ。ルカと加賀美は状況が飲み込めない。
「とりあえず、あがらい」
「ありがとうございます」
アカネはすたすたと上がり、トウコの隣に座った。座るなり、トウコの両頬を引っ張る。トウコは「ふにっ」と変な声を出す。
かまわず、みにょんみにょんと頬をいじりながらアカネは言った。
「全く、心配したんだからね! あんた元々根暗だし、結構なコミュ障だから……最近一人でほいほい出歩いて、遅くまで帰ってこないこともあるって、東雲さん心配してたんだからね。もちろんあたしも。色々探し回ったのよ」
「よ、よくここがわかったね」
「一応あんた、筆まめだから助かったわ。行く場所親に逐一報告する真面目ちゃんなんて今時なかなかいないわよ」
「えへへ」
「えへへじゃないやい!」
すぱこーん。アカネの鋭いツッコミ。
「あんた昔から不安定で、あたしらはずっと心配してるの。ミドリも、ミズキも、東雲さんだって。血の繋がりはないかもだけど、家族なんだから」
「うん、ごめん……」
話を聞くと、どうやらミドリもミズキもアカネもトウコも、皆拾われ子らしい。
「最初は孤児院にいたらしいけど、みんなすぐに引き取り手が見つかって。ばらばらにはなったんだけど、たまたま家が近くてさ。昔はあたしとトウコもミドリたちのご近所さんだったのよ」
アカネは高校がスポーツ推薦のために離れたから、トウコは親の仕事の都合で今はそれぞれ別のまちに住んでいるらしいが。
みんなが同じ孤児だということにルカは驚いた。
「あれ? でも加賀美さんとトウコさんは血縁って」
「血縁みたいなもの、だよ。私もね、自分の出自については色々気になったから、調べてるんだ。難しかった。それで、候補に挙がったのが加賀美のおばあさんなの」
やはり、血の繋がった家族というのは気になるものだろうか。
ルカがその疑問を口にすると、相槌を打ったのはアカネだった。
「そりゃそうだよ。自分を捨てた親でもさ、やっぱり親じゃん。それに、やむにやまれぬ理由があったかもしれないし」
捨てていい理由にはならないけどね、と付け足す。
アカネの言葉が一段落したところで、トウコも口を開く。
「私は、知りたいの。どうして私を生んだのか」
「えっ」
これには幼なじみであるアカネも虚を衝かれたようだ。ルカと同時に疑問符を浮かべる。二人の視線が注がれるが、トウコは目を伏せた。
「知りたいの。どうして私たちを生んだのか」
たち?
更に疑問が深まるが、トウコは口を閉ざし、そっぽを向いてしまう。その目はじっと加賀美の隣の部屋の壁を見つめていた。




