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七つの子  作者: 九JACK
堰の章
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堰の章-2

 両親が迎えに来て、病院から出ることになったルカは受付と揉めている少女を見かけた。

「だから、会わせてください。今日運ばれたっていう小学生の女の子!」

「ですから、その子のお名前は……」

「一回見かけただけだからわからないってさっきから言ってるでしょう?」

「でしたらお客さまのお名前をお伺い致します」

「それもさっき言ったじゃん。時田(ときた)(あかね)。多分あの子は知らないんだって」

 そんな言い合いを受付と繰り広げる少女には見覚えがあった。癖毛にすらりとした長い足。新聞でも時折見かけるくらい有名な陸上選手の女子高生、時田茜だ。

 しかし、ルカが見かけたのは新聞ではない。ミドリの葬式だ。泣き喚くミズキを隣で宥めていた人物。

 それに、彼女が探している女の子って……

「あのー」

 ルカが恐る恐る仲裁に入る。アカネがばっと振り返り、ルカの顔を見て声を上げる。

「あっ、あなた!」

 その叫びにルカの鋭い耳がやられ、顔をしかめる。ルカは軽く耳を塞ぎながら、表情に苦笑いを交え、答えた。

「外で、お話ししませんか?」


 病院の中だということを忘れていたらしいアカネは受付と待合室の人々に謝り、ルカについてきた。

「いやぁ、ごめんね。あなたに会いたくて来たはいいものの、名前も知らなくて、受付の対応はしどろもどろだし、苛ついちゃってさ。親御さんもどうもすみません」

 アカネは双見夫妻にもぺこりと頭を下げる。

「いえいえ。加良市の時田アカネさんでしょう? 陸上界の期待のホープにお会いできて光栄です」

「すみません、妻はスポーツ観戦オタクでして」

「何を言うんですか。あなたもでしょう?」

「う、あはは」

 双見夫妻の仲睦まじい様子にアカネが顔を綻ばせる。

 ところで、と夫人──ルカの母親の方が話を切り替えた。

「ルカちゃんとお知り合いだったの?」

「ああ……いつぞやのお葬式でたまたま……」

 それまでの快活な様子から一転言い淀んだアカネに、悪いことを聞きました、と慌てて言う母親。いえいえ、とアカネは恐縮する。

「その、今回も、知り合いが亡くなった場に居合わせたと聞いたもので、心配で」

「わざわざどうもありがとうございます」

 双見夫妻といくつか言葉を交わして、アカネはルカと、半ば空気と化していたシランに目を向ける。

「改めて自己紹介するよ。あたしは時田茜。知ってるかもしれないけど、高校で陸上やってる。八嶋ミドリと朝原ミズキの友達だよ。二人共、ミドリの葬式に来てたよね」

「あ、はい。双見ルカです」

「市瀬シランです」

 二人もぺこりと頭を下げた。ミズキの名前を出したということは、この人はもう事件を知っているということだ。

 シランはアカネの顔をじっと見つめた。

「こないだ会ったときに挨拶できればよかったんだけどね。と、シランくん、何睨んでるんだい?」

「……いえ。不躾に失礼しました」

 シランは指摘されるなり視線を伏せる。その様子にんー? とアカネは首を傾げたが、あまり気にせず話を進める。

「でも、無事でよかったわ。ミドリのことと言い、比灘町での事件と言い、最近物騒なニュースが……ってあれ? なんで泣いてるの? あたし、泣かせちゃった? え? え?」

 シオンのことを思い出したルカが思わず涙をこぼす。無意識だったのか、ルカは慌てて目尻を拭い、ごめんなさいと謝った。

 シオンのことを知らないアカネに非はないのだが、シランは構わずアカネに敵意を向ける。剥き出しの敵意にアカネはうわーと小さく呻いた。

「いや、ごめんね。悪気はないんだ。うん」

「い、いえ……確かに、最近物騒な話が多いのは確かです」

 シオンは内臓がなくなり、ミドリは顔が焼け落ち、ミズキは右腕が切り落とされた。どれも犯人らしい犯人はおらず、殺人ではなくただの不審死として報道されている。だが、物騒なことに変わりはない。

 アカネはルカから色々話を聞きたかったが、ルカの不安定な様子とシランから絶えず叩きつけられる敵意のためにその日はすぐ帰った。




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