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七つの子  作者: 九JACK
堰の章
22/73

堰の章-1

「ルカ、大丈夫?」

「うん……」

 ベッド脇から声をかけてきたシランにルカは力ない声で応じる。

 ルカは今、病院にいた。ミズキの腕を見た後、倒れてしまったのだ。

 側にいた加賀美が救急車を呼び、ルカの方は運ばれ、今はここに落ち着いている。

「ミズキさんは?」

 ルカが小さな声で問うと、シランからは何も返ってこなかった。それが答え。

 気まずい沈黙が場を支配する。ルカはシーツをきゅ、と握りしめた。シランがその手に自分の手を重ねる。

「ミズキ……お姉ちゃん……」

 じわりと呟きが零れた。

「ミズキお姉ちゃん、今度、英語教えてくれるって、約束した、ばっかりなのに。なんで、なんで!」

「ルカ……」

 名を呼ぶ以外、シランはかける言葉を見つけられなかった。

 ぽつりぽつり、シーツに零れ落ちる雫が染みていく。

 シランは無言でルカの背をさすった。堰を切ったようにルカが声を上げて泣き出す。

 そのとき。

 時報が鳴った。

 いつもどおり、メロディだけの時報。夕刻を告げるそれにルカは震え上がった。

「いや、いや、いやぁっ!!」

「ルカ?」

「や、やあぁぁぁっ!!」

 泣き叫び、耳を塞ぐルカ。状況が飲み込めず、戸惑うシラン。

 外から流れる"七つの子"。

 ふと気づき、シランはルカの頭を抱き寄せる。耳を塞ぐようにして。

 のどかな曲が終わり、ルカを離す。

「大丈夫だよ、ルカ」

 優しく語りかけ、そっと耳を塞ぐ彼女の手に触れた。手が耳から離される。曲が止んでいることに気づいたルカがはっと顔を上げた。

「シ、シラン。ごめん」

「ん? いーよ。それより……また聴いたの? あの歌」

 ルカが時報に怯えたことで気づいたらしい。ルカは小さく頷いた。

 シオンのときもミドリのときも、ルカは直前にいつも女性が歌う"七つの子"を聴いている。間が空いたとはいえ、立て続けに三件も人死にに遭えば、トラウマのようになっても仕方ない。

 ルカの証言を聞いたシランが眉根を寄せる。

 シランはある話に思いを馳せていた。

 "七つの子"──都市伝説に伝わる、一つの家族の物語。

 始まったか、と彼は思う。図書館で、シランはアオハにルカは目撃者に選ばれたのだと言った。それがよかったとはとても思えないが。

 シランはこれから続くかもしれない惨劇を知っている。だが、それをルカに話した方がいいとはとても思えなかった。

 三件で既に参っているのだ。……何も知らない方が、幸せかもしれない。

 そう頭では思っているのだが、心が晴れない。もやもやと霧が立ち込める。

 とん。

「え、ルカ?」

 そんなシランにルカが突然抱きついてきた。シランはどぎまぎする。胸元にもたれかかった顔。俯いたまま、ルカが呟きをこぼす。

「シラン、どこにも行かないで」

 泣きそうな声。いや、泣いているのかもしれない。シランは頷き、そっとその頭を撫でる。

「行かないよ。一緒にいる」

 ずっと、とは言えなかった。






 嘘は吐きたくないから。




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