逢の章-3
ルカはぼーっと自分の手に残されたハンカチを見つめた。そこへアオハがやってくる。
「ルカ、こんなところにいたんだ」
「アオハくん」
ルカはアオハの顔を見、はっとして問う。
「トウコさんってお姉さん、知ってる?」
「ん? あー、東雲さんに会ったんだ」
言っていたとおり知り合いらしい。
「あの人ね、お嬢様学校に特待生で入学した一般人。万年学年主席のすごい人だよ」
一般人というアオハの物言いにルカは少し引っ掛かる。
アオハが嫌そうなので今まで訊かなかったが……
「アオハくんのおうちって、すごいところなの?」
アオハが表情を固くする。
「それ、訊く?」
「片倉は某有名IT企業社長の御曹司だよ。わかりやすく言い直すといいとこの坊っちゃんってわけ」
言い淀むアオハの脇から現れたシランが代わりに答える。
アオハは「市瀬……」とシランを恨めしげな目で睨む。
ルカはきょとんとしながらシランの言葉を咀嚼し。
「ええっ!?」
アオハを見る。ぱちくりとしながらまじまじと見つめる彼女にアオハは恥ずかしげに頬を掻いた。
「別に、家のことは今どうでもいいだろ」
「ふえぇ、アオハくん、すごい家の人だったんだ」
「だから家のことは気にするな。……だから嫌だったんだ」
どうやらアオハは自分の家が大きなところであることを知られたくなかったよう。シランは忌々しげに睨むアオハの視線を素知らぬふり。
少々険悪な二人の様子にルカがあたふたとする。
「アオハくん、アオハくんが誰の子でも、わたしたち友達だから」
そう宥めるルカの言葉にアオハがはっと目を見開く。何故かシランも同様に驚いていた。
ルカはよぎった疑問を一度避けて、別のことをアオハに問う。
「あの、これ、貸してもらったんだけど、トウコさんってどこに住んでるの?」
先程借りたハンカチを示す。洗って返そうと思ったのだが、トウコがあまりにも足早に去ってしまったため、トウコについて何も知らないのだ。
唯一繋がりのあるアオハはうーん、と首をひねる。
「多ヶ竹市にいるのは知ってるけど、詳しい場所までは。今度会ったときに連絡先聞いておこうか?」
「うん、お願い」
とりあえず、帰ろう、と三人は寺を後にしたのだった。
ほどなくしてルカとシランの学校は春休みに入った。
アオハは学校をサボった分、たんまりと課題を出されたようで、しばらく図書館には来ていない。
「ザマミロだよな」
歯に衣着せぬシランの一言にルカは苦笑いする。
「シラン、言い方があんまりだよ。でも、確かにアオハくんのあれは自業自得、かな」
ちなみにルカとシランは一日二日くらいで春休みの宿題は片付けた。
今は図書館でのんびりと読書を楽しんでいる。
「次も同じクラスだといいね」
ルカは文庫本をぱらぱらとしながら、ぽつりと言った。
ルカもシランも進級し、いよいよ六年生になる。今まで、何回かクラスが離れたことはあった。クラス分けは教師が決めるもので、ルカたち児童はどうしようもない。これまではそう割り切れたが。
シオンが死んでからまだ三週間。幼なじみの友達が減り、ルカはどうしても寂しさを拭えずにいた。
シランもそれは充分にわかっていた。だから静かに頷いた。