逢の章-1
やしまの顔がぼうぼうと燃えている。髪の焦げる臭いがした。好きという人は少ないであろう刺激臭にルカは顔を歪める。
「……っああああ!!」
何秒経っただろう? ルカはようやく悲鳴らしきものを上げられた。その声に店員がやってきて、顔が燃えている同僚に絶句する。
「何、これ……"やしま"って……」
「お姉さん、消火器ある?」
いつの間にかレジの中に入っていたアオハが冷静に尋ねる。女性店員は動揺のためかそれを不審に思うよりも先に頷き、店の奥に。
すぐに消火器を持って戻ってきた店員。震える手から奪い取るようにして消火器を構えたアオハはぶしゃあっと躊躇いなく燃え盛る顔に向けて放った。
やがて火は消え、ぼとっと顔だけが落ち、体が傾いだ。レジの上にどさっとのしかかった首のない死体にルカはひっと悲鳴を上げる。シランがそっとその目を塞いだ。
「ルカはこっち」
「うん」
シランに手を引かれ、イートインスペースの方へ行く。ちらりと見た焼け落ちた顔には爽やかな青年店員の面影など、まるでなかった。
「なんでっ、なんでみどりんが!!」
「落ち着きなさい、ミズキ」
八嶋美土里というらしい彼の葬式には、幼なじみだという朝原瑞城の姿があった。ミズキが泣き叫ぶのを側にいる短髪の少女が止める。
「みどりんが、死ぬ、死ぬだなんて、おかしいよ! なんで? どうして死んだのよ。おかしいわよ。みどりんは何もしてないのに、死んじゃいましたって。死んだってだけで何も教えてもらえないなんて」
「ミズキ、あまりお葬式で"死んだ"とか連呼しない」
「そう、この葬式も変よ!」
ミズキは怒りに拳を握りしめて言い放つ。
「なんでみどりんの遺体がないのに、葬式なんてするの!」
「ミズキ!」
ぱしんっ
傍らの少女が平手でミズキの頬を叩く。ミズキははっとして口を閉ざした。
ミズキの一言一言に隅に座っていた喪服姿のルカが顔を歪める。ミズキの言っていることが事実だったからだ。
ここは八嶋美土里の葬式会場である。事件から十日ほど経ち、美土里と親しかった者たちだけが集まって密やかに執り行われていた。ルカの他にシランやアオハもいる。シランとアオハはとりわけミドリと親しかったわけでもないが、ルカの知り合いというのと、事件の目撃者であることから呼ばれていた。ルカも親戚ではないが、特別だ。
当然、幼なじみで家族同然に育ったというミズキも呼ばれ……今のように泣き叫んでいた。
ミドリの遺体は調査のため、警察の方にある。胴も首も。だが親族のたっての希望で形ばかりの葬式が行われた。
いつまでも弔われないというのは悲しいけれど、これは……とルカも思う。その上ミズキ及びミドリの親族にはことの真相は伝えられていない。
世間ではミドリの事件を"不審死事件"として報道していて、それ以上の情報はない。混乱を招くからだ。
ルカたちも最初、証言を信じてもらえなかった。それもそうだろう。
顔が突然燃え出して死んだ、など非現実的すぎる。間近で見たルカでさえ未だに信じられないのだ。
それに、あの事件は不自然なことが多い。
何故突然燃え出したのか、は当然の疑問だが、「何故顔だけだったか」も不可解である。
それに「何故顔が落ちたか」も謎だ。警察によれば耳が切られていたらしく、その理由も謎。
その上ルカにはもう一つ謎があった。"七つの子"である。
シオンのときも聴いたあの歌、同じ女声のように感じたが、シランもアオハも聴いていないという。もちろん、店にいたもう一人の店員も。女性店員だったが、ルカの聴いた声とは違うのも確認済だ。
シオンの事件とミドリの事件──この共通項に胸がざわつく。何も関係なければいいが……




