始の章-11
担任に許可をもらい、ルカはシオンと保健室で給食を食べることになった。
コロッケ好き、うわぁピーマン入ってる、駄目だよ好き嫌いしちゃ、はーい……和やかな会話が交わされる。
ほんのり胸が温かくなる。
しかし。
ごぽっ
シオンは全て吐き出してしまった。苦しげな蒼白い顔で。胃の内容物がなくなっても吐くのをやめない彼の姿に、養護教諭が救急車を呼んだ。
運ばれるシオンを見送ったあと、ルカは養護教諭の指示で午後の授業に出た。そうしたはいいものの、内容は全く頭に入ってこなかった。
放課後、ルカは一人の帰り道。いつもならシランとシオンとで三人歩く道が、今日は妙に寂しく、静かだった。
周りのざわめきをルカの耳が拾う。「一緒に帰ろう」「いいよ」「じゃんけんゲームしながら行こうぜ」「わあ、楽しそう。あたしも混ぜて」──賑やかな声が横を通りすぎていく。
ルカはそれを振り払うように早足で歩いた。向かう先は病院。
受付にシランとシオンの病室を確認し、人の合間を縫って進んでいく。世間話、どこか固い笑い声──聞こえてくるものがひどく耳障りに思えて、ルカは頭を抱えるように耳を押さえて歩いた。
エレベーターでは幸い一人きりになり、無機質な駆動音の中でさめざめと泣いた。
「あ、ルカ」
先に向かったのはシランの方。元気そうな声がした途端、ルカはその場に崩れ落ちる。
「ルカ?」
驚いてシランが点滴を引きつつ近寄ってくるが、ルカは答えられなかった。シランは何も言わず、ぽんぽんとその肩を優しく叩いた。
しばらくして落ち着くと、ルカはシオンが倒れたことを話した。シランは話を聞きながら瞑目する。
「隣の部屋だろ? 昼間急患が来た上に見舞いの人物がなんか揉めてた」
呆れを孕んだ溜め息を吐く。
「塔藤さんたちが来たって。体裁をよくするためにさ。でも顔見たら更に症状が悪化して、色んな薬が処方されてようやく落ち着いたらしいよ」
遠い目をするシラン。見つめた夕空の向こうから、「七つの子」が流れてくる。
「俺はこの点滴が終わったら退院。もうすぐこっちの親も来るだろうし、一緒に帰ろう、ルカ」
「うん、ありがとう」
シランの点滴が終わり、正式に退院となったあと、隣室のシオンを覗いた。薬のためかすやすや眠っていた。
シオンは体調が安定するまで入院となった。そのため、ルカとシランは二人での登校となる。
三月に入り、六年生の卒業式が終わって少々子どもの数が減った学校で、ルカはシオンのことを気にしながら毎日を過ごしていた。
そんなある朝のことである。
いつものようにシランと登校してきたルカ。いつもより少し時間が早くなり、学校にはまだ人気がない。
そんなところでルカは奇妙な場所に人影を発見する。
ルカたちの通う生染小学校は昇降口が校舎から出っ張っている。その昇降口の上に人影はあった。隅に腰掛けるような格好でいるその人物。近づいていくとそれはよく知る人物だった。
薄汚れた長袖Tシャツ、長く乱れた髪──
「シオンくん?」
「へ?」
眼鏡が壊れているので借り物の度が合わないものをかけているシランは判別がつかないらしい。ルカだけが駆け寄る。
「どうしてこんなところに? 病院抜け出してきたの? 駄目だよ、みんな心配」
矢継ぎ早に言葉を投げ掛けるルカだが、ちょうど真下まで来て止まる。ぴたん、と何か生温かいものが頬に弾けた。
なんだろう、と手で触れ、少しねっとりとした感触に触れたそのとき
「からす なぜなくの」
どさり
「わあぁっ!?」
涼やかな女性の歌声の直後、ルカの上にシランの体が落ちてきた。覆い被さるように。ルカは一緒に転倒してしまう。
「ちょっとシオンく──!!」
シオンの軽い体を抱き起こし、絶句する。
目は虚ろで光がなく、中央の瞳孔が開ききっている。触れた肩や手足は冷たく生気は感じられない。もう青紫となった唇からはだらだらと鮮やかな赤が零れていた。
手を動かすとぐちょり、という気色の悪い音がする。見ると彼の腹は引き裂かれ、空っぽの中身が晒されていた。赤く黒いその中はがらんどうに見えて、恐ろしかった。
そう、そこには何もなかった。あるべき臓器が全て。




