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始の章-1
比灘町。
町という割に人口も多く、様々な施設が揃っていて、いつも賑わっている。病院、警察、学校などの公共施設が多い生染地区、大きな商店街と住宅街のある鮮美地区、福祉施設が多い久遠地区の三地区に分けられるこの町で、その日、ある一人の女の子が新しい一歩を踏み出した。
長い前髪をピンで留めた可愛らしい小学生の女の子。彼女が振り返り、仰ぎ見る建物には"虹の瀬孤児院"の文字が。
彼女はじっとその文字を見上げる。微かに動いた唇は「さ・よ・な・ら」と動いたのだろうか。
「ルカちゃん、どうしたの?」
数歩先で彼女を待つ母親らしき女性が問いを投げると女の子はばっと振り向き、「今行く!」と笑顔で走り出した。
思えばこの日が、彼女にとって"全て"の始まりだったのかもしれない。