第⑦話 異世界の片鱗
ギルメンがポコをギルドハウスへ連れ戻した後、憔悴した彼女であったが、責任感からか重い口を開き事と次第を説明した。
「みんなごめん」
「謝らないでポコ。話を聞けばどう考えてもそれはこの世界のせいよ」
ナンシーはテーブルにうなだれるポコの背中にそっと手を置く。
「そだな。誰がその現場に居ようがそれでは誰も救う事は出来なかったであろう」
「エルスさんの言う通りです。お金で解決出来るって事でもないようですし」
全員が溜息を付き、この世界から喪失した二人の事を考えていた。
重い空気が流れる沈黙を俺のピッの言葉が変える。
「あの二人は現実世界に戻れたって事だろうか……。考えてもみてくれ、先日の殺人ギルドの連中も聞けば誰も復活してないそうじゃないか」
「……でも確かめる方法が無い」
そのエルスの言葉に再び沈黙が訪れる。
そんな沈黙の中。青い髪の少女、アージスだけが別の事を考えなにやら憤慨していた。。
「(レアアイテム如きで興奮してるからこうなる。カスか、あの男は。大体どのゲーム世界に於いても私以上のレアアイテムが存在する訳がないだろ! それなのにたかが普通のレアアイテム如きで興奮しやがって! それに街に出るなら何故私を連れて行かない!)」
憤慨と共に席を立つ彼女は。
「すまないが、少し席を外させていただきます」
ギルドへ入ったばかりの彼女に、今のこの空気は堪えられないのだろうとギルメン達は無言で彼女を送り出した。
――「面倒な奴」
日も沈み、静寂と月明かりが交差する夜空へ。街外れの丘からそれを切り裂く一筋の光が轟音と共に飛んで行くのを見た者は居ない。
――――
――
――とある荒野。
ぴょんぴょん!
「おぉ~軽い軽い!」
ぴょんぴょん!
「メディア、そんなにはしゃぐなって」
ぴょんぴょん!
「何を言っておる貴様。貴様こそ浮かれて飛び跳ねておるではないか」
「「ははっ。あははははははは」」
武蔵とメディアはあの空間でキャラメイキングを終えると、強制的に再びペンドラゴンへと戻されていた。
「しかし武蔵よ。お主も最初からそれくらいのお腹だったら死ぬ事も無かったんだろなぁ、てかお前痩せるとイイ男ではないか」
「いやぁ、メディアもあの体型もいいけどさ、今の姿も凄くいいよ」
「な”、お、おま……な、なんと恥ずかしい事をさらっと言いよるんじゃ」
「「あはっ、あはははは」」
はたから見ればバカップルだが、忘れちゃいけない死神と死神見習いである。
あの空間でキャラメイキングをしていたが、何種類もある輪郭、体型、肌の色、髪の色、瞳の色の中からチョイス出来るはずのシステムが、何故か年齢と体型しか変更が出来なかったのだ。空間に浮かんだメーターで年齢を上げ、設定年齢を今から年後の24歳とした。
すると身長も少し高くなり、痩せたと言う訳である。。
メディアはと言えば。
見た感じ24才前後の姿を数百年前の見た感じ17才前後に設定したらしい。
俺としてはあのままでのと思っていたのだが。
……その17才設定。成功してます、超カワイイす。
「あぁ見てるだけで少し幸せかも」
「何か言ったか?」
「なんか幸せだなぁ~と」
「まっ、またお前は!」
恥ずかしがるメディアが新鮮で愛くるしい。
――「武蔵! 危ない!」
突然響き渡るメディアの声に咄嗟に反応し、その場から飛び退く。
――チュドーーーーーーーン!
突然の閃光と爆発。
「なんじゃ今のは!」
天空に舞う黒い影を見た瞬間、俺は声を上げる。
「やっば。メディア! 逃げるぞ!」
メディアの手を引き走り出す。
「なんじゃと言うんじゃ!」
「ここがどこだか分からなかったけど、あのモンスターを見て思い出したんだよ」
「……」
「ここは世界の果て、魔王の国だ」
「魔王じゃと?」
振り返り魔王を配下、デーモン族を見上げるメディア。
「振り返ってる場合じゃないってば!」
言いながらメディアを抱きかかえ走り出す。
「いや、ちょお主! どこを触っとる! おい! 触っとるから! いやっ! あっ」
その場を一目散で逃げ出し、なんとか事なきをえた。
――――
――
「何が魔王じゃ! お主の方が魔王じゃわい! 人の胸を鷲掴みしおって! もげたらどーするつもりじゃ!」
メディアの感触を確かめる様に掌をモニュモニュしていたら、怒られた。
「だってメディアがなんかぼーっとするからだろ」
「馬鹿め! お主が魔王だなんだと申すからだろう」
「なんで魔王って言っちゃ馬鹿なんだよ!」
「それ……それはじゃな……」
急に肩を落とすメディア。
「な、なんだよ急に」
「言ってもいいが、お、驚くなよ。……そして落ち込むなよ」
「……なんだよいったい」
「ま、魔王は……魔王はワレの元旦那じゃ」
「な”!!」
「驚くなと言っておろうが!」
「いや、驚くだろ!」
「だ、だがじゃな。魔王と言ってもここの奴とは違うぞ。それにあやつは随分前に死んでおる」
「魔王が元旦那って……お前本当何者なんだよ」
「だから死神じゃと言っておろうが」
「…………」
そして二人の間に微妙な空気が流れ。
「お、お主。お主はその……なんじゃ、ワレが未亡人と知って落ち込むか?」
「え、なんで?」
「即答じゃな!! なんじゃお主は! 人の大告白を無下に扱いおって!」
「なんだよ急に、怒るとこじゃないだろ。それにこれからの事も考えないとダメなんだぜ?」
「ググッ。もうよい! お主の好きにすればよかろう! ――全く人の気も知らないでこの男は」
「何をグチグチ言ってんの。とりあえず早くお前の元の力取り戻さないとダメだろ」
「わかっておるわ! このトンチンカン!」
――バキッ!
「イッテー! おい、待てよメディア!」
「い・や・じゃー」
理由もわからず背後からメディアに蹴られ。笑いながらメディアを追いかける武蔵であった。
その笑顔は、この世界の真の姿を知らないが故の笑顔だった。
次回、1日朝です。宜しくお願いします。