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第1.5話 中の人なんて居ない中の人なんて居ない



 見守る女性はナンシーピクルス。ギルド最強アタッカーの侍である。

 自己紹介時、何気にリアルの自分の話をしなかった女性だ。


「ナンシーピクルスさん? そんなに見られていたら緊張してしまいますよ」


「な、なんだ。気付いていたのね」


「そりゃあれだけ見られていたら嫌でもきづきますよ」


「……そう、ごめんね。貴方があまりにも私の憧れた人に似てたもんだから」


「こんなデブにですか?」


 おどけて見せたが、俯く彼女の肩は少し震えていたのかもしれない。

 恋愛に疎い武蔵にとって、多分中の人は年上である可能性が高く、そんな女性になんと返事をすればいいか言葉を詰まらせてしまっていた。


 朝日が街の門の朝露に光を乱反射させだしたその時、彼女はギルドメンバーにも話していない自身の事を俯きながら語りだそうとしていた。


 それは武蔵が、彼女の彼に似ていたからかも知れない。


 そして彼女は語り出す。



――そう。あれは私がまだ幼かった頃の話。


――――

――


「君は将来何になりたい?」


 老人は幼いナンシーに問いかける。


「ん~とぉ、お嫁さん!!」


 それはナンシーが幼いながらも一生懸命考え出た答えだった。


「あははは、お嫁さんかぁ」


「どーして笑うの?」


「あ~いや、ゴメン。なれると良いね可愛いくて綺麗な花嫁さんに」


「うん!」


――――。


 私の夢は二十歳を過ぎた今でも変わってはいないわ。可愛いく綺麗な花嫁。幼い頃読んだ少女コミックの影響だったのは今でも覚えている。親に内緒で買ったドレスを鏡の前で着ては『いつかきっと』と、胸を躍らせていたの。


 私は花嫁修行も怠らなかった。


 母に料理を教わり続け、今ではとあるお洒落なお店で、私が振舞う家庭料理は人気の一品に成りつつある……と思う。


……お洒落なお店か……。


 そうねぇお洒落ではあるけど、多くの男性客を相手にするただの水商売。

 それでも私はこのお店に誇りと自信を持っていたわ。


 だってここでは花嫁以上の服を毎日着ることが出来るのだもの。

 だから私にとって、このお店で働く事も花嫁修行の一環。

 最終目標は『可愛いくて綺麗な花嫁なんだもの』


――そして出会いは突然だった。


「涼(ナンシー仮名)ちゃんの手料理はいつも美味しいなぁ~」


「あら、ありがとう山川さん」


「でも値段が高いんだよなぁ~。どうだい涼ちゃん、いっその事ウチで料理作らないか?」


「そうねぇ~、でも山川さんの奥様とお子さんに睨まれたくないから遠慮しておくわ」


「ありゃ? 妻帯者って知ってたの? こりゃまいったなぁ~、不倫は勇気が無いしなぁーがははははははっ」


 いつもの顔なじみにいつもの接客。

 似た毎日を過ごすうち、そろそろこの仕事も潮時かとかそんな思いがよぎっていた。


「山川部長! やっぱりこの店でしたか。探しましたよ!」


「なんだ? 渋谷じゃねーか。こんな所まで俺を追いかけて来るなんて、お前そっちの気でもあるんじゃねーのか?」


 渋川と呼ばれたその男性…………人生初めての一目惚れだった。


 髪は黒く艶やかで、目元は少しタレ目だったがそれが彼の優しい表情にマッチして。身長は私より10センチは高いだろうか? 太めだけど、袖から見える腕は逞しく、手指は繊細だった。その男性の仕草は私の胸を突き刺したのだ。


「ん? 涼ちゃん渋谷に一目惚れでもしたみたいな表情だなぁ~」


 山川さんの一言で彼に見とれてしまっていた自分に気付き、体裁を整える。


「そうですね、この店に来られるお客様にしては見栄えの良い男性ですね」


「ぉお?! おい! 渋谷! お前、いきなり店に押しかけたかと思えばNO.1の涼ちゃんの気ぃ引きやがって! チッ」


「まって下さい部長。俺、先日結婚したばかりっですよ? 目移りする暇なんて無いですって」


 少しショックだった。――でも、一目惚れなんて所詮そんなものよね。

 そう気を取り直しつつも、彼から視線を反らすのに必死な自分が居た。


「ねぇ涼ちゃん、そろそろいいかしら?」


 ママが私に声を掛けて来た。

 私はいつもの作り笑顔を残し、席を外して店の裏へ回る。


 そう、これからもう一つの花嫁修業の始まり。

 このお店に来た頃は迷いもあったのだけど、今はこれから始まる事が快感に変わりつつある。


――。


 その部屋には、会館の楽屋の様に姿見が置かれ、裸電球が鏡の前でいくつも光っている。

 横には孔雀の羽をあしらったマーメードドレスが掛けられ、私が着るのを待ちわびている様だ。


――そう、私はこれから可愛い花嫁から綺麗な花嫁に変わるのだ。


 BOX席の照明は落とされ、小さなステージに照明が灯る。


「れでぃーす&じぇんとるめーん! ニューハーフパブ男爵へようこそ!!」


 そして私はスポットライトの当たるステージへの階段を大股で駆け上がる。


「よっしゃー! レッツダンス!」


――――

――


「……って、お前男じゃん!!」


 その後、突っ込んでもモジモジしているナンシーピクルスに腹が立ち。

 後ろに回り込んでスライムでベトベトになった剣を彼女……彼のお尻に突き刺したのは言うまでもないだろう。


「ちょっ! お尻ってどんだけーーー! もうどんだけーーーー!!」





誤字脱字ご勘弁を。

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