第①話 レベル1ですが宜しくお願いします
ペンドラゴン最初の街、通称「桜町」。
その名の通り一年中桜が咲き乱れ、町の建物は和風で統一されている。
町の中央を流れる小高い川の上流には桜城と呼ばれる城が鎮座し、この町の景観を……損なっていた。
なぜ景観を損なっているのか。この桜城、和風の街の中央に鎮座する洋風の城なのだ。
だがしかし、そんな遊び心満載の運営と製作者のシンボルと思えば楽しくもあるのだろう。
それを証拠にペンドラゴンの利用者は全世界で数百万人を超え、サーバーも100に及ぶ。
このゲームの長所は制作会社が宣伝するように「自由な冒険」が楽しめる所である。
卑猥な言葉を発すると伏字になるのが普通だが、ここで伏字はない。
無い代わりに色々酷いプレーヤーに対しては報告とログを以って運営側より有無を言わせず退会処理が行われる。
会話ログ、行動ログ。それらログの対処対応処理のシステム向上がこのペンドラゴン最大の武器と言える。
例えば街中でいきなりプレーヤーに切りかかったりすると退会処置だが、口論の末決闘となりPV戦となった場合はその限りではない。
要するにお互い様的な理由があればルール無用。
対人戦の場合はレベリングが無いので、口論になっても基本低レベル者は高レベル者にまず勝てないので喧嘩を売る事はないが、その逆、高レベル者が低レベル者をイジメてたりすると問答無用で他の高レベル者の集団がその高レベル者を瞬殺する。
そんな感じなので優しい皆様のおかげで対人無双的なプレーヤーは存在しない……が、対人無双なギルドは存在するらしい。
――プレーヤーレベルとクエストに至っては、最近レベル上限が100になり、数ある迷宮の中、ペンドラゴン最大最恐と言われた「ドラゴンネスト」の攻略が可能となった。
その折り、藤堂武蔵はレベル99の有名ギルド「虹色にゃんにゃん」に所属しており、ギルドメンバーの構成されたフルパーティー、(6×6)の36人での攻略を最後に半引退していたのだ。
――――
――「結局あそこの攻略って出来ずに半分引退しちゃったもんなぁ」
ぼやきながら歩く武蔵の後ろをつける不審な影が一つ。
「誰だ!」
振り返った武蔵の眼前には真後ろまで近づいて来ていた少女が一人。
「「ひゃはっ!」」
二人は驚き同時に尻餅をつく。
見ると大剣を肩に乗せ、黒い冠が栄える白髪ロングの少女が座りこんでいた。
「い、いきなり振り返るとかお兄さんも突然驚だなぁ」
「人の気配がしたら普通振り返るだろ! てかなんだよ真後ろって。こえーよ!」
「いやぁ~最近新しくアサシンのスキル取れたから試してみようかなって……」
「俺で試すな!」
「てへへ。ごめーんね!」
「なんだよ全く……可愛いじゃねーか」
「なになに? あ、それよりさお兄さんって面白いキャラメイクでゲーム始めたんだね、初心者?」
「いや初心者ではないけど……はっきりデブキャラだと言えばいいだろ」
「きゃはは、デブは嫌いじゃないよ? あ、それじゃキャラ作り直してサーバー変えたらログアウト出来なくなった口かぁ」
「ん? サーバー? ログアウト?」
「あぁ~。あのね、私たちも最初は驚いたちゃったんだけど、ここのサーバーって何故か解らないけどログインするとこの世界に取り込まれちゃって帰れなくなっちゃうんだよねぇ」
「この世界に取り込まれた? ……まさか」
「察しがいいわね、そのまさかの」
二人の息が合い、現世で流行っていた異世界物のアニメのタイトルを口にする。
「「ソードまたはオンライン!」」
――彼女の話を聞くと「ペンドラゴン」「ピーチサーバ」でプレイしていた全員がこの世界に取り込まれ、帰れなくなってしまったそうな。
勿論重要な事も聞いておいた。
「なぁここで死んだらどうなるの?」
「勿論ホームポイントで復活するわよ」
「ほぉ~死なないんだ」
「死なないわね」
……2話目にして死神メディアからのミッション。第一村人でコンプリートしちゃったんですけど……。
――桜滞在1日目。
声を掛けて来た少女の名はポコアポコ。
名前とは裏腹にガチガチのナイト職だ。
行くあてのない俺に彼女は「桜」にある自分のギルドハウスへ案内してくれた。
彼女の所属するギルド名は「最近Do!」
このペンドラゴンに於いて、名前の付け方のセンスを考えてはいけないと言う暗黙のルールがあるので誰も突っ込まない。それが礼儀だ。
ギルド「最近Do!」に所属メンバーは5人。
通常の6人パーティーすら組めない弱小ギルドであったが、サブ職ではなくメイン職が商人と言う変わったプレーヤーが混ざっている事で金銭だけは大量に保有しているのだとか。
ポコアポコが俺の事情とここまでのいきさつをギルメンに説明してくれたお蔭で同情してくれた彼らは俺の為に宴会を開いてくれた。
まぁここの人たちと違いメディアに飛ばされただけだけど、黙ってよう。
――ピンポン。
「あ、来ましたね」
ギルドハウス中央ソファーでくつろぎ談笑する中。高身長で青い髪のイケ面エルフ、黒魔術師の「俺のピッ」さんが言いながら立ち上がる。
彼に付いてギルドハウス前まで行くと巨大な馬車が到着していた。
馬車と言ってもこの世界最高級の馬車「車窓の食卓」と呼ばれるそれは、御車自体が宙を浮き、揺れを感じさせない厨房付の巨大馬車だ。
「こんな高級な馬車よくもってますね……」
俺の問いに答えたのはメイン職商人の猫アバター「犬のお遣い」さんが答える。
「最近はサブキャラでこの世界に取り込まれて良かったかな?って思うようになりました」
「犬のお遣いさんってサブキャラなんですか!?」
「ええ、メインは別で魔法剣士があったんですけどね……」
「あぁそれで……」
ペンドラゴンで一番お金の掛かる職業は魔法剣士である。
剣や防具のみならず、魔法やスキルに至るまでお金の掛かる職業なのだ。故にその職を極める者も少ない。
6人は馬車に乗り込み俺の歓迎会が始まった。
歓迎会と言っても、この世界に突然取り残されてしまった不運に対して俺が落ち込まない様にと催してくれたのだろう。
馬車の中で落ち着くと、全員が俺の経緯でおざなりになっていた自己紹介を始めたのだ。
ゲームならステータスを表示させれば済む話だが、この世界に来てからステータスの表示は相手に見せる事が出来ず、ステータスはもっぱら頭に浮かんだ自分だけしか見る事が出来ない。
なので自己申告での自己紹介は必須だったのだ。
藤堂武蔵(ヒューマン男)
―所属ギルド :未定(元虹色にゃんにゃん)
中の人、学生男
メイン職 :無職 Lv1 サブ Lv0
保有スキル :無し
H P :150
M P : 80
保有アイテム:別ゲームのアイテム。
ポコアポコ(ヒューマン女)
―所属ギルド:最近Do!(ギルドマスター)
中の人、大学生女
メイン職 :ナイト Lv95 サブ職戦士 Lv42
保有スキル :パーフェクトシールド
H P :28000
M P : 6000
俺のピッ(エルフ男)
―メイン職 :暗黒魔法使い Lv86 サブ職白魔導士 LV43
中の人、社会人男
保有スキル :メギドバースト
H P : 7500
M P :23000
犬のお遣い(キャット女)
―メイン職 :商人 Lv100 サブ職白魔導士 Lv50
中の人、社会人男
保有スキル :俺の物は俺の物、お前の物も俺の物
H P :12000
M P : 5000
サムシングエロス(妖精種女)
―メイン職:アサシン Lv90 サブ職鍛冶 Lv45
中の人、漫画家女
保有スキル :影縫い
H P :17000
M P : 3000
ナンシーピクルス(ヒューマン女)
-メイン職:侍 Lv99 サブ職踊り子 Lv44
中の人、ダンサー性別不詳
保有スキル :明鏡止水ダンシング
H P :33000
M P : 5000
全員が自己紹介を終えると。
「武蔵さんて前ギルドって虹色だったの!?」
全員の自己紹介が終るまで言うのを我慢してたかの様に瞳を輝かせ身を乗り出すポコアポコ。
そにれ続けと他の4人も身を乗り出す。
「はい、ムササビサーバの虹色にゃんにゃんです」
最近Do!のメンバーは互いに目を併せ。
「「「「是非うちのギルドへ!!」」」
――先物買いとは正にこの事。
レベル1だろうが、ゲームは経験と知識さえ在ればどうにでもなる。
要するにギルド虹色とはその名前だけで崇拝者をひれ伏せさせる程のギルドなのだ。
虹色が全サーバで有名になったのには理由がある。
それは一つのクエストとネットの広告によってだ。
当時LVキャップが99の時、最終クエストと言われた魔王討伐クエストを最速最短で討伐したのが大きかった。
それに広告についてはギルド内で噂だったのだが、虹のギルマスがどうやら制作サイドと関係のある広告代理店の人間らしいと言う事だった。
――そこで俺は一考する。
俺の仕事ってメディアからの依頼で、幽子が集まらない原因を調べるだけのはずだったんだけどなぁ。
これって結局、異世界とMMORPGの世界が融合してしまって。その霊魂? だかなんだかがメディアの所へ行かず、ゲームシステム上のホームポントなんかでループしてるって事だろ? 仕事としては終わっちゃってんだもんなぁ。
……メディアからは連絡ねーし。暇だし、もう一回一からレベル上げすんのも悪くないかもな。そう思い至り。
「じゃ、じゃ行く所もないしレベル上げも最初からだけど是非お願いします!」
「「「おお~! これで6人パーティーだ! 元虹メンキタースゲー!」」」
そんなこんなでギルドメンに歓迎されその日は太陽が沈む。
――翌日。
――バシッ! ザシュッ!
――はぁはぁはぁ……てやっ! バシュ! ザシュッ!
レベル上げは時間との戦い。
空いた時間でレベル上げは基本中の基本である。
レベル1なら最初の敵は決まっている。スライムたんだ。
最初は10匹も倒せばレベル2になるのだが……一向にレベル上がる気配がない。
「なんだこれ……はぁはぁ。全くレベルあがんないんですけど!」
街外れの丘でスライムの液体と共に桜が吹雪く中、武蔵の叫びが朝日に虚しく木霊していた。
そんな中、街の入り口では武蔵の必死のレベル上げを見守る一人の女性が固唾を呑んで見守って居た。
次回、今日の明け方です。