プロローグ 脂肪が邪魔して死亡しました
港町、神戸の少し東の山手に位置する高級住宅街。の外れに俺の自宅はある。
涼宮なにがしの一団が在籍していると言われた北高に在籍し、アニメと同じようにあの急な坂道を上り降りする毎日。
入学式の当日、あの団が存在しているか見に行ったが勿論そんなものは無く。
ひと月もした頃、各クラスに一人か二人が団長と書かれた腕章を腕に廊下を歩く姿が見受けられた。
現在この学校に団長さんが何人いるのかなんて想像もしたくない。
まぁそんな学校でも部活は勿論盛んで、俺としては不登校でもなければヒキニートでもないしコミュニケーションに不都合もないが、部活にだけは入りたくなかった。
その理由は……。
俺はデブなのだ。
デブと言ってもそれを悲観していない。
小学生であれば「やーいで~ぶ。ぶ~た!」等と育ちの良くない子らに訳の解らぬ誹謗中傷を受け、心身共に疲弊するのだが。
高校生のデブは小中学生のデブと違い、周りからの視線の様子が少し異なる。
というのもその体重を支える為に一般の学生より鍛えずとも筋力が付いているのが普通で、各種運動部系の部活からスカウトが多いのだ。
柔道、相撲、アメフト等からは格好の餌食となる。
変わり種は吹奏楽部だろうか。
「あなた肺活量ありそうだから」と大きなチューバという楽器を持たされた時は流石に苦笑いをしたものだ。
だがしかし、そんな誘いを俺は全て断ってきた。
勿論、下校後は自宅で自分の趣味に没頭したいが為である。
ネットゲームとラノベとピザとコーラは今や俺にとって無くてはならない存在であり、それらが無くなれば生きている意味も無くなると考えるほど好きなのだ。
そう、その趣味は単に現実逃避なのかもしれない。
普通の生活を送る自分が、何故現実逃避したくなったのかは自分でも解らないが。
「ただ、それが楽しかったから」理由はそんなものかもしれないし。
しかしその楽しさにかまけ、何もせず太ってしまった事を今は深く後悔している。
「もし」「if」そんな言葉は使いたくはないが。
あの時、もし俺が痩せていれば。
あの時、もし俺が部活で汗を流す青年であれば。
……こんな世界に来る事もなかったかもしれない。
――――
――
目を覚ますとそこは光に満ちた世界だった……ってココどこ!!
「永い眠りじゃったな、藤堂武蔵」
振り返声の主を発見する。
声の主は余りにも布の面積が小さい、いや、各部が隠れてるのかさえ微妙な紐衣装のナイスバディーな女性だった。
その女性は豊満な胸を強調するかの様に腕を組み。
「私は幽子の集合体、死神メディア」
「す、凄いオッパイです」
挨拶をしたかったが、もうそれしか言葉が出なかった。
しどろもどろの俺を見てメディアと名乗るエロい人は。
「あぁ~この姿か。これはお前の妄想が生み出した姿じゃからな」
な。なんだと……なら最初から全裸を妄想しておけば……
「お主、なにやら邪な気が満ちておるぞ? 大丈夫か」
「あっ、いえ、お気遣いなく! あ、あのぉ~それよりここって……」
「なんとなく気づいておろう? ここは人間の言う死後の世界じゃ。そしてワレはお前たちの言う神。所謂死神じゃ」
「……」
「……なんじゃ?」
「……き」
「き?」
「キターーーーーーーーーー! コレキターーーーーーー! あれですか!? 異世界転生の前振りですよねコレ! そっかぁ~、なんか最近ラノベでも異世界転生物が多くて不思議だったんですよ。なるほど。本当にあるから物語の比率が上がっていたのか……うむ。納得」
自身の巨体を揺らし飛び跳ねて喜んでいると、死神と名乗るメディアが。
「……お主何をそんなにはしゃいでおるのじゃ?」
「え、今から異世界転生ですよね」
「はっ! 異世界転生じゃと? ぶはははははは。そんな都合の良いものがあるならワレも試してみたいもじゃ」
「……え、違うの?」
「違うわい! だがそうじゃのぉ。ふむ、それもいいかも知れぬな」
一人考え納得するエロイ身体の女神。
「じゃが生まれ変わりなどの転生は無理じゃから、そのまま行って世界を救って参れ」
「ぉお! やっぱりそれ系じゃないっスか! やっぱ戦うんすね! そかぁ~。あ、そうだ。行くなら何か最強アイテムを持って行かせて下さいよ神様!」
「神様って……まぁ似た様なもんじゃが。その前にお前の死んだ理由を告げるのがワレの仕事じゃからな。心して聞くがよい」
――――
――
――キーンコーンカーンコーン。
「よし、今日の授業も終わり! さて、今日は大勝負の日だな」
少し前までは剣と魔法の深淵「ペンドラゴン」をプレイしていたが、レベルもスキルもカンストしてしまいやる事もなく、興味本位で別のMMOを始めたのだが。
それが最近嵌っているオンラインゲーム「パイロットウォーズ」
自身の体と召喚する巨大兵器を操り対人やモンスターを討伐し世界を征服していくMMORPGだ。
期間限定ガチャで0.01%の確率と言われるレインボーカードを引くためにその期間一杯まで道路工事のアルバイトをしていたのだが。
今日がそのバイト料の振込み日であり、期間限定ガチャの期日だった。
ゲームの内容としては他のRPGと同じで、まず最初はパイロットと呼ばれるプレーヤーを鍛える事から始まる。
パイロットが職業かと言えばそうではなく。その名称は、レベルが上がると使用可能になる巨大兵器を操る人という事でそう呼ばれているだけだ。
職業に至っては流石MMORPGと言ったところで多岐にわたる。
戦闘系もあれば生産系、商業系等が一般的だが、それらはサブスキルと併用する事でプレイヤーの平均化を保っている。
だが俺はどのゲームも脳筋系なので生産商業度外視の戦闘特化型、サブスキルも戦闘特化にしているので常に貧乏だ。
そんな戦闘特化型が通貨を得るにはモンスターを倒すか、対人戦で掛け金を上げるしかない。
しかしモンスターを倒した所で得られる報酬は少なく、初期状態のクエストが一番稼げるくらいだ。
後者の対人戦に至っても、掛け金を上げた所で相手が乗って来なければ意味はなく。それも儲けと言うには程遠い。
ならそんな者達を救済するのはガチャしか残されていないのだ。
今回当たりのレインボーカードは二枚。外れはゴールドカードだがレア度はレインボーに遠く及ばない。
通貨だけはここで大量にゲットできるのが救いだろう。
そして今回のカードだが、当たりの一枚は能力系カードでパイロットの一つのステータスをMAXまで上げる事の出来るカード。
もう一枚はこのゲームの真骨頂、巨大兵器カードだ。
しかも今回の兵器はこれまでの戦車や召喚型固定砲台などの砲撃系兵器と違い、このゲーム初導入の人型巨大兵器なのだ。
――投資額はアルバイト料全て。
「望はレインボーカードのどちらか!神様お願い!」
――カチッ。
ワンクリックでアルバイトで得たお金が全て吸い込まれる。
そして画面にはまだ伏せたカードが100枚以上。
次のクリックで全てが開かれる。
「そりゃ!」
――カチッ。
「…………出た、虹色出た。しかも両方かよ! 俺スゲーーーー!! 何コレ、バク? ちょ、早速ギルメンに自慢してやろう」
コーラに手を伸ばしたがコーラが空な事に気づき冷蔵庫へ向かう。が、冷蔵庫にも在庫は無く、仕方なく近くのコンビニへ。
そこへ向かう途中小さな女の子を追い抜き、続いてヒールのOL、その次に細身のサラリーマンを追い抜く。
「その巨体でそのスピードが出せたのはレインボウカードのおかげかのぉ」
「嫌味はいいから死んだ理由続けてよ」
その列に後方より迫るトラックの運転手は携帯を片手に運転をしていた。
運転席右側のその歩行の隊列に気づきもせずトラックは壁面ギリギリを走行し突っ込んで来る。
細身のサラリーマンが異変に気づき後方の二人に危険を知らせ、身体を壁に押し当てなんとかトラックをやり過ごす。
それを見ていた武蔵もまた壁に背中を押し付けやり過ごそうとするが……。
「あ、言わなくていいです」
「でっぱったお腹がトラックと接触。そのまま引きずられ死亡……」
「でっぱったお腹がトラックと接触」
「なんで二回言うの!」
「と、まぁこれがお前の顛末じゃな。まぁ自業自得と言えばそれまでじゃが、死神とて悪魔ではない。どちらかと言えば神じゃからな。そこでじゃ、先程の話に戻るのじゃが転生じゃったか。それにワレも乗ってみようと思う」
「乗る?」
「普通ならこの場でお主を浄化させ幽子に変換してしまうのじゃが、お主の世界以外の世界。要するに異世界じゃな。そこの様子がおかしいのじゃ」
「おかしいって、例えば?」
「ん~なんと言えばいいのか……「幽子」お前たちの言う魂じゃな。それが全く集まらんのじゃ」
「メディアさんが仕事をさぼってるから?」
「ちがいうわい! その世界の人が一人も死んでおらんと言うことじゃ!」
「……なんかゲームの世界みたいですね」
「うむ。なんかゲームと言うのがよくわからんが、その世界を調べて来てはくれぬか?」
「え? 無料で?」
「現金な奴じゃのぉ。なんじゃ先程申しておったアイテムとやらが欲しいのか?」
うんうんと大きく頷く。
「どれ、こんなんじゃったか」
メディアが手を翳すと武蔵の目の前に巨大な人型兵器「アージス」が光輝き降臨する。
「うおーーーこれだよコレ!」
「こんなものを欲しがるとはの……まぁなんにせよこれで契約は成立した。これよりお主を死神見習いとして異世界での調査を命じる」
「……え? 死神見習い? え、ちょ聞いてないんすけど!?」
そんな問いかけを無視するかのように武蔵は光の本流と共にその場から消えてなくなっていく。
「さて、これで私も一息付けるわ。せいぜい頑張る事だな青年」
――――
――
「ここが異世界かぁ~、なんか感慨深いものがあるなぁ~。おっ? あそこに見える壮観な城はペンドラゴンで有名な始まりの城じゃないかぁ~スゲー!」
スゲーと言いながら周りを見渡す。
その町はまさしくペンドラゴンの最初に訪れる3つの町の一つ「桜町」だった。
「ほ~リアルではこんな感じなのかぁ」等と町を歩く武蔵だったが、その顔はだんだんと一歩毎に青ざめていく――そして立ち止まり。
「……いやダメじゃん、もらったアイテムってパイロットウォーズのなんすけど。ここペンドラゴンじゃん」
今日は「ダンディー勇者」書くつもりだったのですが、脳内でこれを書け!と聞こえた気がしたので交互に書いて行きますん!
銀河防衛魔法戦艦は書き直し作品なので徐々にです。