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拾われる事なく時間だけが経つ

作者: 葉月

車の排気ガスと、人間の匂いがこもっている街の隅にある、なんでもない暗い路地裏のゴミ山のそばに一匹の猫が倒れていた。

……いや、誰がどうみても死んでいるようにしか見えない。

高い所から落ちて、着地に失敗したのか猫のそばにはいくつも黒く薄汚れた血が飛び散っている。

ボロ雑巾のようになってしまった猫の隣に黒く決して綺麗とは言えない野良猫らしき猫が座っていた。


(なぁ、猫)


「お前も猫だろう」


黒猫は、ボロ猫の事を見ることなく言う。


(なんでもいいじゃねぇか。

なんで、お前はそこにいるんだ?)


「なんで、と聞くか?

なら、こちらもなんでで返したい」


(質問を質問で返さないでくれ)


ボロ猫の言葉に、黒猫は尻尾を少しだけ横に振る。

そうして、路地裏の先の道の人間がたくさん行き交っている大通りの方を見つめる。


「そうだな……。

こんなところで死んでいる、なんでもないボロ猫を見に来たのさ」


(ボロ猫だなんて、酷い言われようだな)


ボロ猫は、濁った瞳をあけてどこかを見ている。

いや、死んでいるのだから見ているわけではないのだが。


「なぁ、お前さんはなんでこんなところで死んでいるんだ?」


黒猫は、初めてボロ猫を見る。

死んでから何時間も、何日も経過しているのか虫がたかり、腐敗臭がするが黒猫は何の気にもならないし、死後何日、何時間経過しているなんてどうでもいいことだった。


(なんで……か。

あぁ、思い出せば悔しいなぁ。

俺は生まれつき足が弱くてな。

野良だったものだから、飼い猫と違って治るわけでもねぇし。

それでも、こんな路地裏に住むよりも綺麗な青空とお天道様を見たかった。

だから、路地裏を抜けてそこの手すりに登ってたら、まぁ足が悪いわけだからあれよあれよと言う間に落ちちまったわけだよ)


ボロ猫のいうとうり、この街の路地裏はどこも日の光がめったにささない。

ごく稀にしか、太陽が見えない。

黒猫は、空を見上げた。

空はこの路地裏には合わないような綺麗な晴天だった。


「哀れだな」


(悔しいなぁ。

ここは、誰もいねぇんだ。

誰もいねぇし、誰も来ない。

来るのは、虫だけさ。

俺みたいな奴にはゴミと虫がお似合いってわけかねぇ)


ボロ猫は、自嘲気味に言う。

黒猫は首が疲れたのか、血に汚れた地面を見つめた。


「なぁ、死ぬってどんな感じだ?」


(……あぁ?)


「俺も野良の身だ。

いつか、何かによって死んでしまうからな」


黒猫は、濁った青色の瞳をしたボロ猫の目を見る。


(一瞬だ。

一瞬だけ、痛みを感じて、気づいたらこんなボロボロで薄汚れた体になった)


強い風が路地裏に吹き込む。


「そうか」


二匹の間に無言の時間が流れた。

お互い何も言わず、ただ風の音を聞くだけ。

しばらくすると、黒猫が言葉を発した。


「なぁ、ボロ猫」


(なんだ)


「青空は綺麗で広いぞ。

お天道様は暑いぐらい眩しくて、瞼があかなくなるぞ」


(……そうか。

ここなんかよりも、広いのか。

眩しいのか)


「なぁ、ボロ猫」


(……)


「ボロ猫」


黒猫の問いかけにボロ猫は答えなかった。

悟った黒猫は、立ち上がり右の前足でボロ猫の瞳を閉じさせる。

虫がいくつか、体に引っ付くが気にせずボロ猫を見下ろした。

何分か経過してから、黒猫はクルリとボロ猫に背中を見せボロ猫が落ちたと思われる階段をヒョイヒョイと軽々しく登って行き、ボロ猫の周りから姿を消した。





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