1-3 再生
【AV撮影】の謎は、あっけなく判明した。
業務用肩載せビデオカメラという名の神器のMPが残り79%だったので、一番消費魔力が大きいシーンセレクトのペットの魔法を試すことにした。
部屋の外にいた衛兵に、城内で飼育しているペットがいないか聞いてみると衛兵が、城の庭で放し飼いしている飛ばない鳥を連れてきてくれた。
名前はババルという鳥である。
顔が不細工な鳥だった。
部屋の中に不細工なババルを放し、シーンセレクトでペットに設定して、ピントを不細工なババルに合わせる。
不細工なババルの不細工な顔が、どアップでビューファインダー内に映し出される。
右側面にあるズームボタンで不細工な顔をアップにしないようにワイド側にスームボタンを押し込む。
適度な不細工さのババルがビューファインダー内に収まったところで、左側面の《チャーム》のボタンを押してみた。
情報表示で警告の文字が表示された。
『魅了するためにはメモリーカードが必要です。本体にセットしてください』
(ほぅ?)
チャームとは魅了という効果をもたらす魔法らしい。
たしか魅了ってやつは、相手を虜にするってやつだ。
俺はそこで【AV撮影】の謎がわかった。
ようは強い獣をシーンセレクトのペットモードで撮影して仲間にするのだ。
【AV撮影】のAVとは《アダルトビデオ》ではなく《アニマルビデオ》の略だったのだ!
「紛らわしいわ!」
思わず部屋の中で叫んでしまった。
つっこみを入れるような人間ではないのだが、ついつい口から出てしまった。
環境が変わったせいなのか、疲れているせいなのか、性格が少し変わったのかもしれない。
さっきまで大人しくしていた不細工なババルが驚いて部屋の隅にまで走って逃げていく。
俺は落ち着きを取り戻し、箱に入っていた3枚のメモリーカードの中の1枚をカメラ本体にセットした。
適度な不細工さのババルがビューファインダー内に収まったところで、左側面の《チャーム》のボタンを押してみた。
情報表示で警告の文字が表示された。
『このメモリーカードは既に記録済みです。上書きできません』
「使えないのかよ!!」
少し短気になってるらしい。
またしても、つっこみを入れてしまった。
三度目の正直と俺は他のメモリーカードを本体にセットしてから、再度不細工なババルをビューファインダー内に収めて、左側面の《チャーム》のボタンを押してみた。
情報表示で警告の文字が表示された。
『魅了するためには知性のある魔獣の撮影をして下さい』
「ふぁーーーーーーーーー!!!」
知性ってなんだよ、確かにこの不細工なババルは知性あるように見えんよ、でもどこで判断するんだよ、知性って!
お手ができるやつででいいのか?
ちんちんができるやつでいいのか?
ボール投げたら持って帰ってくるやつでいいのか?
いらついているようで俺は堪えるということが出来なくなっているようだった。
とりあえずベッドに座って不細工なババルを眺めて心を落ち着かせる。
(じーーーーー!)
駄目だ!
不細工なババルを見ていると逆にイライラしてきた。
俺は部屋の外にいた衛兵に、不細工なババルを元の場所にもどすように頼んだ。
不細工なババルが部屋からいなくなると、途端に気持ちが落ち着いた。
(もしかしてあいつがイライラの原因だったのか!!!)
俺はようやく自分が不調だった原因を理解した。
不細工なババル恐るべし!
俺は業務用肩載せビデオカメラとメモリーカード3枚をテーブルに置いて、落ち着いて考える。
どうやら昔の王子は【AV撮影】という技をつかって、知性ある魔獣を撮影し仲間にしたらしい。
その知性ある魔獣が強い能力を持っていて、その力を使って魔王を討伐したというのが800年前の顛末だろう。
ということは俺が元の世界に戻るには、まず【AV撮影】で知性ある魔獣を撮影し仲間にするしかない。
俺が強くなくてもいいっぽいので、なんとかなりそうだなと少し安心した。
そういえばメモリーカードで録画済みがあったことを思い出した。
俺は業務用肩載せビデオカメラにメモリーカードをセットして確認することにした。
2枚は何も記録されていなかったらしく情報表示のメモリーカードのアイコンが普通に映っていた。
さきほど警告の出たメモリーカードの1枚だけは、なにか記録されているらしい。
よく見ると情報表示のメモリーカードのアイコンに×印がついている。
録画済みのメモリーカードを取り出して良く見たが、かすれた文字が書かれているようで読むことが出来なかった。
録画済みメモリーカードを再度業務用肩載せビデオカメラにセットして再生が出来ないか、いろいろ試す。
右側面にあったボタンを押すとビューファインダー内に再生メニューが表示された。
『再生しますか? YES/NO』
もちろん俺は再生を選択する。
選択した途端、業務用肩載せビデオカメラが突然光った。
光がおさまったので部屋を見ると、目の前に裸の女の子が立っていた。
「きゃあああああああああああああああああああああああああ」
女の子が叫んだかと思うと、俺の顔を右の拳で殴る。
なんということでしょう。
俺の意識はそこで途絶えた。