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カレン  作者: f/1
異世界
8/62

7

作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。

誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。

また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。


3/27:前書き変更

4/4:行頭空白挿入(内容変更無し)




 アンナマリアがトレイを持って戻って来た頃には、激しい症状は収まっていた。丸まって耐える私に気を使ってくれたのか、はたまた単純に観察されていたのか、その間、2人の男性が口を開く事は無かった。

 トレイを最初に私が寝てた方のベッドへ置いて、その上の花瓶みたいなのからコップへ水を注ぎ入れるのが見えて、喉が鳴った。水差しもコップも簡素な木製だが清潔そうで、その間を流れた水は綺麗な透明だ。

 そしてアンナマリア侍女は、変わらぬ無表情で、変わらぬ事務的な所作で、しかし零さぬように両手でゆっくりとコップを渡してくれた。頭を起こすと吐き気等に見舞われると学んだので、失礼ながらうつ伏せに寝たまま頂く。手にしてみると、コップは所謂ゴブレット的な持ち手の無い物で、細工も何も無い。そして間近で見ると古い傷が幾つもあった。

 背に腹は代えられない。

 一瞬過ぎった不安は、なみなみと注がれた水の匂いに霧散しました。普通に飲むと吐く可能性が高かったので、チビチビと口を湿らす感覚で飲む。

ウマいー!水だー!

 紛れも無い純粋な冷水だ。変な臭いや味もしない。コップも使い古してるからか逆に木の匂いも殆どしなくて、一気に飲み干してしまいたくなる。いかんいかん。

 暫く見守っていたらしい伯爵様が頃合いを見て、ベッドの端へ「失礼」と言って腰掛けて来た。見渡せば、アンナマリア侍女は元の立ち姿に、師団長畜生野郎はベッドの足側で右手を腰に当てて立っていた。左手がもたれるような様子で剣の柄に乗っている。怖い。こちらを見下ろす淡い青灰色の目は汚物を見る眼差しをしていて、1秒見たら限界来て逸らしてしまう。尋常じゃ無く怖い。

 それに気付いた訳では無いだろうけど、私の視線を捉えるように、伯爵様が若干大袈裟な素振りで左手の手袋を外して見せた。細くてゴツさは無いが、30代男性の手はやはり節々がしっかりしている。病的な白さだがやつれている感じは無く、女子受けする綺麗だが大きな手だ。そしてその指全てに、様々な指輪が嵌っていた。たぶんこれを見せたかったのだろう。私が指輪から赤い瞳へ視線を上げると、肯くような仕種をした。

「起きているのも辛いだろうが、これだけ聞いておくれ。 カレン様、今から私が貴女に嵌める指輪は、絶対に、何が有っても、自分で外してはいけない。私が嵌めたら、その後は、絶対に外してはいけない。どうしても外したい時は私に言う事。他の誰でもいけない。私だ。 この指輪は私以外の者は、一切、嵌めたり外したり出来ない。 良いね?」

 厳しさすら垣間見える眼差しで、彼は何度も念を押しながら、自身の左手の小指に嵌っていた指輪を外して見せる。ピンクゴールドのような色合いの幅広の金属で、石の類は付いていないシンプルなわっかだ。

 なんか良く分からないが、私に逆らうつもり・・・と言うか、逆らえるような気力体力は微塵も無く、しっかり目を見返して真面目に是を返した。

「はい。約束、します」

 ただの贈り物、な筈ないよね。手錠みたいな意味でもあるのかしら?まあこの展開で彼が害を為すようには思えないし。もしそうなったら諦めどころだ。怖い怖い怖い怖い。

 「結構」と言ってにっこり胡散臭く笑った伯爵様は、身構える隙を与えない流麗な動作でさっさと私のコップを持ってない左手を取り、そのままさくっと親指に指輪を嵌めてしまう。

 手袋を脱いで地肌だったその左手は、やはり当たり前に人間の体温をしていた。

「おや。ぴったりだ。 私の小指と貴女の親指は相性が良いようだね」

 ぴったりか?あっさり嵌るサイズなので、若干動いて心許無い。関節に引っ掛かって落ちないだけで、ぶつかったりとかしたら簡単に外れそう。細身っぽいけど、目で見た以上に手は大きいんだな。

「あの、ちょっとした拍子に抜けそうなんですけど、大丈夫でしょうか。 勝手に抜けて落ちちゃうのはさっきの約束に・・・・・あれ?」

 指輪の感触を矯めつ眇めつしながら問い掛けて・・・異変に気が付いた。

 体の痛みが、熱が、悪寒が、吐き気が、半減している。

 あろうことか、あんなに辛かった頭痛は、完全になくなった。

「・・ふむ。その反応、やはり貴女は、魔導、魔法の無い世界から来たのかね」


伯爵様。どうかせめて、疑問形で言って欲しかったです。


 この指輪は装着者の身体的不具合を軽減する、魔法の道具、なのだそうで。

 しかも「外す」という意思が無い限り外れないので、うっかり落っことすという心配は要らないらしい。むしろ手を洗う時とかも外せない。

『私は宮廷魔導院魔導師筆頭リヒャルト・イル・ヴァレンティヌスと申す者―――ゲルハルト・ベーレンドルフ師団長から貴女を守る使命を、正妃クリスティーナ殿下から賜った』

 伯爵様はそう言ったのだ。あの時は彼の目の色とかに気を取られて聞き流したけど。

 宮廷魔導院。魔導師。魔法。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・魔法、ね。


 何のお師匠様かって、魔法使いのお師匠様だったのか。

 で、嵌めた途端体の不具合が半分くらいマシになっちゃったコレは、魔法のアイテムだったって訳だ。超高度ハイテク医療器具じゃなかった。どっちも同じくらいありえなくなくない?

 でも実際、この身に起こってしまっている出来事。

 ありえない、と言い切れない。全ての感触に、確かな、実感がある。怖ろしいほどに。

・・・いやだ。ダメだ。考えたくない。

 続く伯爵様の説明によると、この指輪はご自身で魔法を込めた高級魔導具であるらしい。魔導具というのは、魔法の力を持つ道具の事で、あの光る燭台なんかも魔導具なんだってさ。

 何故伯爵様は、自己紹介時黙って聞き流した私が、魔法が無い場所出身と察していた風だったんだろ?という疑問は口にするタイミングが無かった。指輪の効果に対して、驚き過ぎてそれほど大きなリアクションをした覚えもないから、彼がそう断定した材料が思い当たらない。

 体調が上向いて一気に意識が冴えた私は、指輪の説明からこっち、立て続けに喋る伯爵の言葉を何とか理解しようと必死だ。ベッドヘッドへ背を預けて座れるようになったので、両手でゴブレットを握りしめてはチビリと飲み、握っては飲み、を繰り返す。あんまり力むと言葉が脳へ到達しないので、最低限力抜いてリラックスを心掛ける。無理無理。絶賛混乱中。

「魔導具の存在意義はね、そもそも、魔法の常用化と多様化だったのだよ。一部の阿呆どもは忘れてしまったようだがね。」

 とても性格が悪そうな笑い方をして、伯爵様は一旦言葉を切った。

 どうでも良いけど、この人の喋りは本当、皮肉塗れだ。聞いてる分には楽しく無い事も無いけれど、話がなかなか進まない。完全回復、とまではいかず依然痛みは酷いので、出来るだけ簡潔にして欲しいけど、それを口に出して言う勇気は無い!

 見計らって真面目な顔で相槌を入れていく。例えそれがどんなにふざけた内容であっても、深刻な空気が口を挟む事を許さない。私の困惑や驚愕は、全くの度外視。凄い温度差。だから心中だけで言っとく。

せんせー!ついてけてませんよー!私ぜんっぜんついていけてませーん!

「そもそも人は誰しも魔力を持って生まれるのだけれど、その強弱は個人差がとても激しい。その上魔法を行おうとすれば、大変な勉学と鍛錬が必要になる。結果、極一部の人間にしか、この便利で便利で便利極まりないけれどちょっとどころでなく危険な魔法というものは、扱えない訳だね」

 だから頭の良い一部の人が、予め物品に魔法を施しておく。ほんの微かな魔力の者でも魔法が行えるように。

 例えばあの燭台。

 まず、工房で誰が見ても燭台と分かる形の物を作る。次にそれを魔導施設へ搬入し、魔導士達の手作業で1つ1つ、明りが灯る魔法の術式を施し、更にその上から後1手順で発動するよう条件付けの魔法を重ねる。更に更に、明りが灯る魔法を打ち消す魔法と、その発動条件魔法を重ね、合計4つの術式を施したら出来上がり。完成したら雑貨屋等の店頭へ並び、誰でも自由に購入できる。例え最低限の魔力しか持たない者でも、その手順さえ踏めば、燭台に明りを灯す魔法を使えるようになる訳だ。ちなみにこの場合、発動手順は「先端へ息を吹きかける」という動作で流通しているそうです。

「我らがバルバトリアは、この魔導技術発祥の地でね。市井の生活にまで魔導具が行き渡っている世界唯一の国なのでとても驕り高ぶっている。特に王侯貴族のいばりようと言ったらまるで雄獅子のようで見ものだよ。ここでもたっぷり見られるだろうね」

 あ、お師匠様ったら、皮肉に重要な情報を入れ始めなさったわ。適当に相槌打ってるのがバレたのかしら。しかもその皮肉、他の2人の頬を引き攣らせる内容なんじゃなかろうか。怖くてそっち見れないけどね。

 なんて内心冷や汗掻いてると、見透かしたように嗤う赤眼と目が合った。怖い。

 彼はとっても紳士だが皮肉屋で、とっても優しいが厳しい。でも今は、私に説明する事を急務としているらしく、真摯な眼差しを隠し損なっておいでだ。

「貴女の記憶の中で、世界一の大国の国名がバルバトリアでないのなら、魔導どころか魔法すら無いのなら、この世界は、貴女にとって、異世界という事だよ」

 ここは異世界の、世界一の大国バルバトリアの、王宮の中の、王室騎士団の、騎馬師団の、本棟1階の、第5医務室、なんだそうです。

 あのカーテンを開ければ、それほど遠くない位置に、私が侵入した(?)正妃寝室の在る、王宮本宮の外壁が見えるんだって。世界一大きくて豪華で頑丈な王城なんだってさ。ちなみに宮廷魔導院の本部もその本宮内にあって、伯爵様は魔導師用の居住スペースの一室を借りて暮らしているんだとか。王宮暮らし!流石!よっ!領地ほったらかし!

 伯爵でありながら宮廷魔導院魔導管理室筆頭魔導師という重要なポジションも任されているお師匠様は、この王都から遠い島にある領地を親族家人に任せ、王宮でクリスたんの力になれるようお勤めになっているらしく、この度、晴れてカレン様保護のご用命を言い渡された。で、その保護対象が師団長滓汁野郎に酷い目に遭わされそうになってるのを知って、慌てて迎えに来た。

 と、ここまで伯爵様が独壇場で喋ってたんだけど、この話題になると、私の苦手なバリトンが空気を切り裂いた。まじ怖い。

「俺、から、守るだと?」

「そう言ったろう。何度も聞き返すなんて、終に耄碌したかね。」

 即座に笑顔全快で応じる伯爵様に救われる。でもちょぴっと顔引き攣っちゃったかも。平常心平常心。メガネが無い事にほっとした。この距離ならぼやけてあの目もがっつりは見えない。

「陛下の勅命を違えるな、リヒャルト」

「親しげに名を呼ばれると怖気が奔るよ、黎明の」

 喧嘩友達なんだろうか。言葉のわりに、この2人の遣り取りはやっぱりそんなに怖くならない。2人とも、対私の時に見せる鋭さや冷ややかさが、無い。

 異世界。

 大使館どころか、外国ですらなく、別の世界。


 

 それが本当なら、彼らにとって、私はどこまでも異質で、異端だということなのでは?


「陛下はその者を、俺の監視下に置くよう命じられた」

・・・・・・・・・・・え?

ちょっ!ちょっと待って!今何て言ったあの童貞!!

 過ぎった考えがぶっ飛んで、思わず見開いた目をぱちぱちして戻す。縋る気持ちで見詰めた伯爵様の後ろ姿は真っ黒で、なんか変なキャラクターに見えてしまった。師団長モウロク野郎の方を向いているので、どんな表情をしているのかどころか、人と認識出来る部位が一切見えない。おっかない!

「従え、導師」

 短く鋭い男の声に、私は全力で無表情を保った。下手な言動は出来ない。自分がどういう扱いを受けるか、ここで決まるんだと分かったから。

考えろ!何か私自身が切れるカードは無いか?!無いな!

 魔法&異世界発言の所為で、頭のネジが2~30本飛んだままの私を背に、伯爵様は一度軽く息を吐くような動作を見せ、こちらを振り向きもせずに言った。

「冗談だよ、黎明騎士伯爵閣下様。陛下のご命令を違える筈がないではないか」

「・・結構。では」

「黎明閣下様がカレン様の監視役で、私がカレン様の管理役、だ。私が管理し、貴殿が監視する。 無論お忙しい閣下のこと、ご協力致しますとも。毎日、必ず、彼女の様子を事細かく、細微に至るまで惜しまず、ご報告申し上げる。毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩ね」

 こっ、怖すぎる。伯爵様、怖すぎます。何か呪いにかかった気が・・って!魔法あるじゃん!伯爵様魔法使いじゃん!まさかして本物の呪いでは・・・。

 伯爵様の声のあまりの陰湿さに、気配を殺していたアンナマリア侍女までも蒼褪めて両手をぎゅってしてしまいながら凍り付く暫く。たーっぷり間を取って答えた氷の目の騎士様のバリトンは、嫌に平坦な調子になっていた。

「報告時には必ず犯人本人を同行させろ。以上だ」

「おやまあ。黎明の。毎晩ご婦人をむさ苦しい軍人の部屋へ連れ込めと」

「以上だ!」

あ、キレた。




駄文失礼しました。読んでくださってありがとうございます。


評価をくださった方、お気に入りに入れて下さった方が居るらしい(噂)

ありがとうござりまする!

ということで、嬉し過ぎてあげぽよ更新(?)

章タイトル付いてますが、ただの話の目安なので深い意味はありません。

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