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カレン  作者: f/1
お姫様の涙
7/62

6

作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。

誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。

また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。


3/27:前書き変更

4/4:行頭空白挿入(内容変更無し)




ああ、そうそう。この娘さんは何だっけか。第一侍女?王妃専属的な解釈で良いかしら?

 得体の知れない私の手を振り払うのに躊躇わなかった。強心臓羨ましい。

 クリスたんと普段から良く接している人物なんだろうな。そして良く訓練されている。この若さでこの鉄壁の仕事姿はどうだ。彼らが出て行って、私が黙りこんで、もうどれくらい経ったろう。ミキちゃんならとっくにお菓子タイムを始めてるくらいの時間は経過している。

あーーーっ!なんか今無性にミキちゃんに会いたくなった!うわーん!

 深呼吸ももうあんまり効果が無くなってきた。くそったれ。

 自棄になって頭痛無視でアンナマリア侍女を見上げてみたら、真っ直ぐ顔を上げ、真っ直ぐ背筋を伸ばし、真っ直ぐ私を見ていた。その姿勢が崩れる日はきっと世界が終る日に違い無い。しかも顎を引かずに低い場所へ視線を向けてるもんだから、自然、見下す目線になってますが敢えてですねええきっと。怖い。

 にしても、これだけ立ち居振る舞いが完成してるとなると年季が違いそうだ。それこそ生まれながらに、ってヤツだろう。お妃様付きの侍女ってのもある。恐らくこの小娘は貴族令嬢かその辺りだな。

 意外と苦労してそうな指と、履き込まれている靴が引っ掛からんでも無いけど。

「・・何か」

 あんまりジロジロ眺めてたんで、流石に嫌気が指したらしいアンナマリア侍女さんは、変わらぬ無表情で変わらぬ無機質さでそう言った。言葉は問い掛けな気もするが、疑問形の口調とは掛け離れ過ぎていて「こっち見るな」的な言葉に聞こえる。厳しい。

 でも、師団長ドS野郎と違って、武器的な物を持っていない。丸腰の細身の女性だ。怖さは半分以下。いやまさか、あのスカートの下に銃とか入ってたりしないよね。サバイバルナイフとかガードルに挟んでたり?私の大好きなハリウッド女優みたく、銃やナイフを瞬く間に取り出して自由自在に操れるんなら、あの指先の皮膚が堅そうな感じに納得ができてしまうがしかし!もう限界だ!

 思い切って、でも怖いので至極丁寧に言ってみる。

「あの、水、貰えませんか。 あと、トイレはどちらに?」

切実。ちょー切実。

 尿意はまだ仄かなもんだが、喉の嗄れっぷりは半端無い。出た声のしゃがれ具合で察して頂ければ幸いです。

「飲食は今すぐご用意出来ません。 排泄はそのままなさってください」


・・・・・・・・・は?・・・え?何?


 絶句した。そのままって何だ?『そのままなさって』って何をだ!

 信じられない。水はある程度覚悟してたけど、尿瓶も無いとは。これは完全に私の人間としての尊厳を壊しに掛ってやがる。小説で読んだ事あるよ、これも。手っ取り早い現代人の精神破壊方法は、普通に過ごしている人達と一緒に密室に入れ、対象者だけ裸に剥いて飲食量を極限にして糞尿垂れ流しにさせるのだ。自分だけ畜生扱いを受ければ、どんな柔軟な思考の持ち主も、数日すりゃあ屈服して従順になる。らしい。

 なあにが「拷問部屋用意する」よ。とっくに始まってんじゃん。失神してた間にナニされたかもうだいたい分かっちゃったわ。

流石、初対面の婦女子の顔面踏み躙るクソガキがトップの国ですね。おほほ。

 あーっ、完璧目測誤った。彼らの私扱いランクを下方修正しないと。「容疑者にやる水は無い」から「虜囚に着る物与えちゃってやっさしー」へ。底辺みーっけ!

「・・・・・・・・ああ、はい」

投げ遣りな返事になっちゃったのは勘弁な!

 余りの衝撃に取り繕う事も出来ず、私は思いっきり愕然とした間抜け面をアンナマリア侍女へ晒したと思う。まだ頭がぼーっとするくらいのショック状態だったけど、そこは年の功で何とか無表情までは取り戻した。へつらうような態度を取った方が良いのだろうが、そこまでの気力が無い。もう指一本にも力が入らなくなった。ぐったりとベッドへ沈む。臭い。頭の位置を変えて鼻先を、シーツの胃液の付いてない場所へ向けた。

 てゆーかなんか、本気で朦朧としてきた。まだ情報整理もしきれてないのに。ここで寝込んだら、次に目が覚めるのは伯爵邸か拷問部屋か。部の悪い賭けだなー。や、逆に気を失ってた方が精神的にマシかも?

 何れにしろ、正気を失う前までには、ぜひ王様君に聞きたい。

なぜ、自分の妻をあんな風に泣かしておくの?

まだ、少女の域を出ない子供なのに。広い部屋に独りで。蹲って。震え上がって。

あんなに泣いてたのに、人の顔面踏んでる場合じゃないでしょうが。

 あの時既にメガネがぶっ飛んで裸眼だった私。部屋の真ん中辺りに居たクリスたんの傍から、結構な距離があった扉に現れた王様君を眺めて、その目が私の目へ憎しみを送り込んで来るのが分かった。顔立ちどころか風体さえ判別出来ない視力の中、あの新緑色の瞳がはっきりと見えた気がするほど、強く、迷いの無い、憎悪。

 異常だ。

 改めて思い返してみると、殊更そう感じられた。あの眼差しと、その後の行い。

 言ってしまえば、師団長最低野郎がした事は理解できるんだ。だって、軍人さんだったら、要人の寝室に無許可で入り込んだ不審人物を見たら、まず真っ先に取り押さえて自由を奪うのは当然の判断だ。私的には許容できない凶事だったけど、うん、残念ながら今のこの状況はそれほど理不尽でも無い。

 この一連の事態で私的に理不尽だった事象は2つ。

 会社の資料室があの寝室になっちゃった事と、顔面踏み躙られ体験。これだけだ。

 返す返すもおぞましい。当分トラウマとして残るだろう。人間不信絶賛増量中。

 ルイだのフィリップだのの何世かはあんな感じだったんじゃなかろうか。あ!もしかして私タイムスリップで中世に飛ばされ、彼らは実物の中世王族的な存在なのでは!?

 なんだろう。今の、否定できる要素が凄く少ない気がする。

やだ!ジョークですから!閃いたのを適当ぶっこいただけですから!

 ・・あ、大丈夫。否定できるできる。日本語じゃん。中世ヨーロッパに日本語が浸透してる訳が無い。タイムスリップ説は無し。あっぶねー。脳内情報整理のパス機能の弊害がここで出たよ。いやまじ何なんだこの日本語ぺらぺら外国人達は。謎!

 ええっと、で、何で王様君があんなに私を嫌悪していたか、だ。

 私個人である可能性は極めて低いと思う。初対面だし、さっき何者かと尋問されたし。予め私を知っていて、私が無意識の内に彼に憎まれる事をしていた、というのは無いと考えよう。今のとこは。

じゃあ他に考えられる理由は何だろう?


 1 可愛い妻の寝室へ侵入した輩が許せなくてカッとなってやった。今は反省している。

 2 記録的な他人嫌いで、初対面の人は皆踏み躙らずには居れない。

 3 私の人相が、生理的に癇癪を起させた。

 4 趣味。

 5 彼が忌み嫌う人物や政敵に間違えられた。


希望は1だけど、普通に考えれば5かな? 2・3・4だったらお手上げ。

 ここが反日国家で無い事に期待して、私自身に心当たりが無い以上、今現在こんな事になっている理由はやっぱり誤解以外に無い。

 その誤解を解くために、身の証を立てる為に日本政府と接触しなくちゃ。ここが日本のほにゃらら大使館でも、海外のほにゃらら国でも、何の作為もない日本の普通の民間人だという証拠を出せればアガリなのだから。

 まず拷問回避。

 次に心身の最低限の回復。

 日本人、出来ればお役人との接触。日本政府に状況を正しく説明。そして日本政府から王様君の誤解を解いてもらう。

 問題はあの部屋に入った経緯を、理解してもらえるように説明する事だね。無理!



 この後はもう思考ループでぐるぐるぐるぐる。元来頭のよろしくない私が、この体調で考えられる事なんてこんなもんだ。頭の悪さも体調も言い訳ですよもちろん。

 まあこの年まで人間やってるとなんだかんだで一通り経験してるので、ちょっと時間が出来れば混乱を収めて落ち着くくらいは出来るようになる。どんなにお粗末な精神構造でも、腹が据わるか開き直るかしてふてぶてしい事この上ない。可愛くないのは百も承知だが、かわいこぶって助かりそうな場合は幾らでもやるよレベルの可愛げの無さは故意だ。

あれ。これってただ私の性格が悪いだけか?知ってる。

 でもこうして居直ってる間も世界は廻り、時間は経過する。私をちゃんと次の出来事へ案内してくれるのだ。

「・・・」

 顔を背けたので背後になったアンナマリア侍女が、ふと裾を揺らすような音を出した。

 だいぶ意識が朦朧としてた頃合いだったので、酷いローテンポで彼女へ目を向けた私の耳に、扉を開く音が届く。視線を転じれば、足音と共に2人の男性が枕元へ近付いて来たところだった。怖い。1人は師団長銃刀法違反野郎だ。怖いよ。1歩毎に重厚な金属音が小さく鳴ってる。忙しない甲高い音とは違うところが逆に怖い。やっぱ怖い。

 直視すると体の震えが増しそうだったので、もう1人へ注視して気を逸らそうとした。

 でも、敢えてそうしなくても、たぶん、すぐにその人へ目を奪われてたと思う。それくらい、なんてゆーか、黒尽くめの異様な人だった。

 枕元へ辿り着くなりグイっと腰を折ってこちらを覗き込んできたその人は、目が合うなりにっこり笑って口を開いた。

 歌のような調子で。空気を波打たせるようなテノールで。

「はじめまして、カレン様。私は宮廷魔導院魔導師筆頭リヒャルト・イル・ヴァレンティヌスと申す者。 この脳無しの、愚鈍な、畜生の、人間の滓汁の、ゲルハルト・ベーレンドルフ師団長から貴女を守る使命を、正妃クリスティーナ殿下から賜ったのでよろしく」

 驚いた。何か所にも。何重にも。

 でも、一番驚いたのは、彼の、ヴァレンティヌス不思議伯爵様の瞳の色。唖然と見入ってしまった。思考が停止する。


 だって、真っ赤だったので。


 大人としての反射で「はじめまして」と返しながら、体を起こす動作のついでに、思いの外若そうな伯爵様の姿をざっと眺めた。

 血の色の虹彩。漂白したような白さの肌。顔面以外の肌を一切見せない黒尽くめの服装。フードの裾から見えている、顎くらいの長さの髪は、ローブのようなマントのような黒い服と同じ漆黒だった。顔立ちはやはり白人さん基調の混血さんで、年齢は30代半ばくらい。髪が黒いという事は、アルビノの方じゃなさそうだけど。確か先天性白皮症?だっけ?あの病気は髪も白い記憶だ。いや、病気とは違ったかも?疾患?これまた何かの小説の知識だから定かじゃない。

 等と考えながらも、無理に起こした頭を下げて何とか礼を取り、丁寧に真面目顔を作って丁寧にお願いをした。

「私は、カレン・コーサカと、申します。 あの、早速で失礼、なのですが、お水を、ひと口でも、良いので、頂けませんか?」

 熱と渇きで、たったこれだけの動作と発声で、信じられないほど息が上がる。というか、一息に喋れない。しかも肩から上を支えているだけの両腕が、もうワナワナし始めた。どんだけ弱ってるんだ。じっとして考え事してた間に、そんなに体力を失っていってたのかしら。気付かなかった。大人しく寝てたらマシになるだろうと思ってたのに。こんな状態に陥るのは初めてだから、何をどうしたら正解なのか分からない。

 内心で軽く落ち込みながらも、表面上はしおらしく謙虚な姿勢を保っていると、瞬き一回分ぴたりと停止した伯爵様が、その赤い瞳が見えなくなるほど笑みを深めて言った。

「もちろん。 アンナ、持っておいで。今、すぐ」

やったーっ!!

 快諾に内心がお祭り騒ぎになったが、お礼の言葉をなんとか絞り出した所で力尽き、また胃液シーツへ顔面から突っ込んでしまった。臭い。でも許す。水が飲める。あ、でもやっぱ臭くて吐き気が。

 間を置いて「では一旦失礼します」とアンナマリア侍女が言って、部屋を出て行く音がした。それを聞き届けるより先に、ふと濃厚な、不思議な香りが迫って、顔を上向けると、極至近距離に伯爵様の白いお顔が。

 美顔だ。またもやとびっきりの美形だよ。

「あちらのベッドへ移ろうか。 少し揺れるけれど、堪えて。ほんの一瞬だからね」

 ああ、しかも運んでくださるのだ。何と親切な。泣きそうだ。

「はい。ありがとう、ございます」

 意外としっかりとした腕と手の感触がしたが、あまり男性にお姫様抱っこされる感は無かった。むしろそんなものを楽しんでいる余裕なんか無かったよ、もったいない。自分の身長と体重を考えると途中で落とされる覚悟が要りそうで、緊張に全身力むと同時、体がふわと浮き上がった。瞬間、内臓全部競り上がる様な吐き気と、首の力が抜け落ちてしまいそうな頭痛と目眩が。清潔な新しいシーツに丁寧に横たえられた後も暫く、目を閉じて丸まって、悪心の波を遣り過ごす以外何も出来なかったんです。

 大人の男性の重厚な香水(?)の匂いも、堪能する前に離れる。彼は厚手の長袖に手袋までしてたので、体温の無い、不思議な感覚だけを私の深層意識へ残していった。

「すみません」

 私の方は胃液塗れで、大変申し訳無い。きっと汚してしまったよね。貰いゲロ警報を先に出しておくべきだった。

 思って一応の謝罪を言ってみたが、丸まったままで顔を背けていたので失礼極まりない。だのに、伯爵様は印象的な低い声で、更に優しい事を言ってくれた。

「貴女が謝罪するべき事象は、まだ、何も起きていないと思うがね」

あれ?あんまり優しくないか?

 含みには気付いたが、今はそれどころじゃないのでほっといた。取り敢えず彼が親切っぽい接し方をしてくれるのは正解だったようなので。

 今はもう、それだけで十分。


 夢でも、目前の死を回避できたら、死ぬほど嬉しいのは当たり前だ。




お読み下さった全ての方に感謝致します。


一先ずここまで一気投稿。

準備が出来次第、次を更新します。

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