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カレン  作者: f/1
お姫様の涙
6/62

5

作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。

誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。

また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。


3/25:誤字1個訂正

3/27:前書き変更

4/4:行頭空白挿入(内容変更無し)

5/10:無駄空白削除(内容変更無し)



 さてと。

 保身のためのその1。情報整理。


 あの部屋のあの扉の向こう側は、会社の廊下じゃなかった。そしてあの部屋に他に扉的な物は無かったから、私はあの扉のあの廊下を担ぐか何かされて通ったのだ。その先にこの部屋が存在しているんだね。つまり現状、無理に急いであの部屋まで戻る意味はたぶん無い。隠し扉や隠し通路の可能性は考えるだけ無駄。

 で、今の私の格好と言ったら、灰色のざっくりしまくったワンピースみたいな物を着ている。タンクトップで膝下丈なので、素肌も包帯も丸見えだ。質感は綿に近いけど、気持ち固くてチクチクする。顔面左のガーゼ(?)を押さえる為に頭部にもその包帯だろう物が巻かれていて、バレッタで纏めていた筈の髪は解かれていた。腰まで届くスーパーロングの茶髪で、毛先だけコテでゆるく巻いていたんだけど、胃液が着いたそれを摘んで見たら完全にカールが取れていた。

 もしかすると、あれからかなり時間が経ってるかも。

 フルメイクのままだった顔の、主に唇の皮と口周りの肌がゴワゴワするよ。

ああ・・・色素沈着・・・ホウレイ線・・・。

 そして更に嫌な事に、私、下着を剥かれたようだ。ブラとパンツとストッキングの感触が無い。キャミソールすら無い。タンクトップでノーブラ。寒気はこの所為かしら・・・ってか寒い。肌寒い。

 ちなみにピアスもネックレスもブレスレットもアンクレットも指輪も時計も無い。合計幾らすると思ってやがるどちくしょう。せめて某高級ブランドの超しっくりフィットなメガネちゃんは返して欲しい。これ超切実。

 あー、でも最悪、服を剥かれた時に体中検査されてるかもよね。以前観た戦争物映画では、捕虜はおケツの穴の中まで広げられて確認されていた。思えば、股間に違和感を感じないでも無い。あちこち痛い所為で鈍いけど。

あ、やっばい、泣きそう。この方向をこれ以上掘り下げるのはパスだ。

方向転換、方向転換。

 アンナマリア侍女の姿を無視して木枠の窓へ視線をやれば、ぴっちりカーテンが閉められている。なので今が昼か夜かも分からない。まあ何日も経ってたら、いくら周囲が消毒液臭くても体臭がエグいと思うんだけど、それはまだないようだ。入院経験とか無いからはっきりとは言えないけどね。体内時計は言わずもがな、完全にぶっ壊れています。

 室内の壁に幾つか燭台みたいなのが設置されてて、金属のそれの先端が柔らかい白色の光を発していた。だから室内が午前中のように明るいので実際の時間が分からないが、その光源の仕組みはもっと分からない。なんじゃありゃ。

まさか意外と超最先端技術の国なの?服や家具が中世っぽいのに?謎。

 次は目を閉じて耳を澄ましてみる。私に情報を与えない為か、ここは医務室らしいけど、視聴覚室みたいに音が若干籠ってる。窓もカーテンも扉も隙間無く閉まっているようで、外から漏れ聞こえる音は少しも無い。耳に届くのは自分の呼吸音と、衣摺れの音だけ。

 音と言えば、アンナマリア嬢は殆ど無音で立ち続けている。疲れないのかしら?

まさか、私の頭痛とか胴体痛とか顔痛とかに配慮して静かにしてくれてる?

 ・・・なワケないか。何れにしろ「座りなよ」的にこっちから声を掛ける勇気は無いけども。

 それにしてもこの部屋、尽くが木造だなあ。最初の部屋と廊下は石造りだった。ここが日本なら、人々の顔立ちからしてどこかの大使館だろうけど、石造りと木造、二つの建物の大使館ってあるんだろうか。や、別の建物と決め付けるのは早いか。でもあの部屋の豪奢さとこの部屋の質素さが、一つの建築物内で共存してるイメージはトンと湧かない。統一感無さ過ぎ。

 そもそも、建物や衣類や空気感が日本って感じが全くしないんだけど。いや、どの国の大使館も行った事無いからこれも言い切れないけど・・・って、不勉強過ぎて頭がループしてきた。パス。

 うん。これ以上はどうも、この部屋からはっきりする情報は無さそうだ。


 では更に気を落ち着かせて、出会った人達の事に考えを巡らしてみよう。怖い。


 まず最初に、お姫様でなくお妃様だったと判明した、クリスティーナ・ほにゃらら・ほにゃらら様。あれ?クリスティーヌだっけ?あ、ラストネーム思い出した。バルバロスだ。いや、バルバトロス?バルバトス?あれえ??

 出だしで躓いてしまった。あの状況で聞いた事なんて、そうそうはっきり覚えてねえよ。もうクリスたんで良いや。

 最初に出会ったのが超絶美少女お妃クリスたん殿下。日本は「天皇皇后両陛下」ってニュースでも言ってた気がするのでどっちも「陛下」なんだろうけど、どうやらこの国(?)の王妃は「殿下」のようでした。もしかしたらまさかで側室さんだったりするのかしら。あの年で、あの可愛さでか。だからあんな風に泣いてたのか?

・・・そういやあの部屋、巨大ベッドが真ん中に鎮座してたね。

彼女はその脇に座り込んでたのだったね。

あそこは誰の寝室なのか・・・。

 いや、これも今は深く考えないでおこう。私の精神衛生上。それに王政と帝政と、更に日本の皇族様云々には違いがあるだろうし。全く詳細分からんが。

 とにかくあの娘は、私を守ろうとしてくれた記憶だ。か細い声を必死に張り上げて、何度も何度も私を庇う発言をしていた。それに、何だか物凄く縋る様な眼差しで私を見ていた気もする。きっと、クリスたんがキーマンだと思うのね。不法侵入者の私をお客呼ばわりまでしてたでしょ。確か。

 覚悟と、絶望、だっけか。それから、戦慄く肩と、胸の傷。

 もちろん可能性として、クリスたんがものっすごい深層の令嬢の世間知らずで、赤の他人が急に寝室へ入ってきても「ごきげんよう」的に対応してしまう人物である可能性もゼロじゃないけど、あの後の展開と彼女の様子から、それは無いと判断して良さそうだ。

 んで登場したのが・・・うえっぷ。ホワイトゴールドのさっぱりベリーショートに、うっぷ、極淡いブルーグレーの瞳の、ぐふっ、人相悪めの暴力男だ、げふっ。

し、深呼吸深呼吸。

 やっべ、思い出しゲロるところだった。

 特に印象的だった切れ長の三白眼と、腰に帯びた大きな剣を思い出すと、体中の神経が一斉に無茶苦茶なクレームを言ってくる感じがする。あとちょっとで社会現象並みだ。でもここは頑張らないと、私を拷問したがってるのはこの男なのだ。超怖い。

 ちょっと肩だか胸だかの辺りが震え始めている気がするけど、目をぱちぱちしたり手をにぎにぎしたりして遣り過ごしながら考える。

 えと、確か、服が違った。あの時あの部屋に雪崩れ込んできた男性達と同じデザインの、軍隊の士官服みないなのを着ていたが、一人だけ生地が深い紺色だった。他の人達は目の覚めるような真っ青だったから、彼は階級か所属が違うと思われる。普通制服ってそういうもんだよね。

 偉そうな言動からエライさんかと思ったけど、不審者の尋問や拷問を直接するって事はそうでも無いのか?それとも私の場合、被害者がお妃様だから重要度が違うのかしら。悪名高い中世の某王様なんて、ほんのちょっとした事で不敬罪だ何だと騒いで、ぽんぽん人の首跳ねて・・・パス。駄目だ。やばい。ついさっきそれっぽい発言聞いたとこだよ。

 ここではちょっとした発言で、不敬罪により首を跳ねます。斬り捨てます。射殺ですらありません。

あー・・・、変な唾の出かたし始めたー。気持ち悪いー。怖いー。

 でもしっかり!私!あの男に関しては、明確な情報があったはず。そうだ。さっきそこの扉と外で交わされた会話だ。あの不思議口調の人、男を何と呼んだんだったか。

 ・・・あ!思い出した。ベルン、違うな。ベー、ベール・・・ベーレンドルフ師団長、だ。師団長!エライさん確定!師団ってどんな規模か分からないけど、たぶん軍隊の事だよね。国境無きお医者様的な崇高な感じも、アゲアゲ不良集団的な可愛げも、あの男の雰囲気から程遠い。軍、って言われたらこれ以上無くしっくりくる。

 あの男は軍人で、それもあの若さで結構な階級にある。

 それに他の呼び方もしてたな。れいめい、って言葉が印象的だったので覚えている。黎明って、明け方の空の事だよね。でもこの言葉って漢字特有のものなんじゃなかったかしら。

 んんー・・・言葉に関してはパスだな。分からな過ぎる。だからどうして師団長野郎が「黎明の」と妙な略名みたいな呼ばれ方をしたのか分からない。だいたいあの不思議口調さんは揶揄や比喩が多そうだから判断し難い。

 と、不思議口調さんの言った事を思い出したら、恐怖心がちょっと萎えた。これはあの男の事を考える時のコツな気がする。覚えとこ。もう脳内呼び方も師団長野郎で固定だ!

 えーっとなんだけっけ?グズで、デクの棒で、ゲス野郎で、ドSで、真性で、童貞、だっけ。幾つか飛ばした気もするけど、こんだけあれば暫く凌げるだろう。真性は何に掛ってるのかな?ドS?童貞?他のナニか?

 ともかく、不思議口調さんが彼を指して言った言葉として確実なのはこれだけだった記憶。たぶん。他は思い出せない。

 何れにしろ、軍隊の権力者、って事以外に分かる事は無い。次の尋問では謙ってみよう。グズでデクの棒でゲス野郎でドSで真性で童貞なんだから、みっともなく泣いて縋れば気持ち良くなって手加減してくれるかも知れない。キモ怖いっ!

 もう完全に震え始めた体をぎゅうっと丸めて耐えようとしたら、丸める動作で右肩を始めとする怪我部分に痛みが走って焦った。落ち着けー、落ち着けー。助けてくれる人は居ないんだから、自分でちゃんとしなきゃ。

いや!待て待て、味方臭いひとは登場したじゃんか。

 リヒャルト、と呼ばれた不思議口調の、印象的なテノールの声の持ち主さん。彼は確かにこう言った。

『カレン様とやらに関する一切の責任は私が負う。彼女は私の所属だ。』

 これが今の私にとっての藁だ。蜘蛛の糸だ。猫の手だ。別に忙しくは無い。

 リヒャルトさんは確か、その名で自分を呼んだ師団長グズ野郎に、別の呼び方をするよう要求していた。どーしヴァレンティヌスはく。混ざった。「どーし」と「はく」は別だった。てかリヒャルト・ヴァレンティヌスさんっていうお名前なのね。クリスたんの時も思ったけど、顔も人種が混ざってる感じなら、名前もだ。アメリカ・北欧・東欧・南欧・西欧・ロシア辺りの、基本はコーカソイドなんだろうけど、何かはっきりしないな。

 リヒャルトってどこ読みだっけ?ドイツ?リチャードでもリカルドでもなくリヒャルトだってさ。で、ヴァレンティヌスだ。そもそもヴァレンタイン系(?)の名前って名字だっけ?私に海外生活経験も、外 国人の知人も無いから、詳しい事は元々分からないけどさ。全然特定出来ない。

ここが大使館にしろ海外にしろ、国が特定出来ないと色々不安だなあ。

てゆーかどーしって職業?それともやっぱ軍隊の階級なのかしら?同士?導師?

 たぶん後者。導師、で、伯、なのだ。

 言葉の問題。ほんと何なんだろう。日本人同士並みにニュアンス細部まで通じている。聞いた瞬間、脳内に正しい漢字がぽんっと出るのだ。あー、謎過ぎる。やっぱパス。

 導師。この言葉で閃くのはカンフー映画的なアレだ。若くて未熟な主人公を指導するお師匠様的なアレだ。でも何に関するお師匠様なのか見当も付かない。しかし伯の方は分かる。というか、これは他に余り考える余地が無い。伯爵、だ。貴族だ。

 私のあっさーい知識の公候伯子男な爵位認識や、デュークやバロンやフォンが適用されるのかどうかの判断材料は無いが、あの言い方、師団長クラスへのあの態度、責任を取れる立場らしい事等から、相当の権力・影響力をお持ちなのではなかろうか。上流階級の人でファイナルアンサー。

 そして先ほどの2人の会話から察するに、師団長童貞野郎とヴァレンティヌス不思議伯爵様は、クリスたん美少女殿下と直接の知己っぽいよね。特に伯爵様はとっても意味深な感じだ。間男?うへ!

 つまりそういうことだ。

 師団長閣下を面と向かっておちょくって罵詈雑言言えるような伯爵様が、幼いお妃様の心痛を慮り、私を保護ろうとしてくれている。その為に今、曙光とやらに報告へ連れ立って行ったのだ。

 この単語も印象的で良く覚えてる。

 曙光。黎明。これは意味が繋がる。陽光が夜明けを生むのだ。

 それに報告って言ったよね。なら曙光は黎明師団長棒野郎の上官だ。一層王様に近い存在だ。神様や王様は古来より太陽に例えられる事があるから、下手すりゃ曙光ってまんま国王の事を指すのかもしれん。でもそうすると色々不具合が有る。主に私サイドで。

 何せそうすりゃどう考えても師団長デク野郎、超権力者じゃん。最悪王族か。

パスパスパスパスパスパスパスパス!

 つ、詰まる所、王様がお妃様と伯爵様の訴えを聞いて、師団長真性野郎に「拷問止めとけー」って言ってくれたらオッケーな訳だ。そこが私の今目指すべき着地点だ。


 ・・・・・・・・って、なんて難しい着地点。


私、第一印象最悪だったよ。お互い様だけど!

「・・・・くふぅ」

「・・・・・・」

 あんまりな思考に、うっかり変な声出ちゃったけど、アンナマリアさんは勿論、場を和ますツッコミなんてくれなかった。




読んで下さった方々の根気に脱帽します。ありがたや。



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