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作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。
誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。
また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。
「おはようございます、王妃様、侯爵様。4度目のご報告です。 お二人は如何お過ごしですか?お食事は召し上がっておられますか?少しはお休みになられていますか?アンナマリア様もお元気でしょうか?毎回しつこい様ですが、どうぞご自愛くださいませ。
私と伯爵様は今、カルヴァート市のイーザス商業都市を出て、先日戦闘が遭ったというエミリオの森の北西部へ向かう車中です。黎明の騎士様が3名も出迎えに来て下さったんですよ?今も先導して下さっています。気分はお姫様です。
イーザスの街は、フリード裏街道に面して造られている街ではフレドホルム市都に次ぐ大都市で、住民の数だけじゃなく、お店や市場の数もそれはそれは多くあると聞いて、とても楽しみにしておりました。
ですが、今、あの街には想像した賑やかさはありません。つい先頃まで国境線が南下していた所為で、住民は3分の1が、商店や市場は半分以上が、閉め切られて不在になっているそうです。その為、空き巣などの犯罪が多発し、街の治安は悪化の一途を辿っています。
行商人の数は特に著しく減っていて、従来の2割以下になっているとの事です。本来この街の外は、外壁に沿ってびっしりと行商人や興行人がテントを広げているのだそうです。でも、私はそれらしい物を一つも見ませんでした。残念です。
特に東からの足がほぼ完全に途絶えたと、残っている商店の方に窺いました。ただでさえ北の戦場へ兵士の方の食糧や生活用品として安価で大量に商品を出さなくてはならず、入荷が減れば一般向けの価格を上げるしか方法は無いのだと、大変お辛そうなご様子でした。
また、裏通りでは子供の姿が目に付きました。孤児です。こちらは開戦宣言前、帝国との関係が悪化し始めた頃からジワジワと増えていたらしくて、今ではグループ化して犯罪を犯す程の数に上っているそうです。王妃様よりまだ若い子が沢山、路上生活でやせ細った体で売春してましたよ。ちょっと泣きそうになってしまいました」
「ちょっと泣きそうに、かね?」
もうっ!いじわる!
せっかく人が大真面目に喋ってたのに、暗黒魔導師が横やりを入れて来た。ちょっとくらい恰好付けさせてくれたら良いのに、大人げないんだからもー。
でもこれは伯爵様なりの配慮だ。私の中に、彼への深刻な恐怖心が根付かない様にする為の。
本当、お上手。
エミリオの森へ向かう車中で、4度目ですっかり慣れた報告書の作成をしていた。
書って言っても使用しているのは音声録音式の魔導お手紙。その辺に転がっている石ころに魔法を掛け、それに向かって一方的に喋り、終わったらまた魔法を掛けて、窓からポイ捨てしたらハイ完了。後はパパ侯爵様の元へ勝手に飛んで行くのだ。超高速飛行の伝書鳩みたいな感じ。
どこが「書」で「手紙」なのか不明だ。
ちなみにクリスたんへ直通じゃないのは、流石に王宮のど真ん中へ石ころぶっ込むワケにはいかないから、一旦月光宮に届けて、パパ侯爵様からクリスたんのところへ持ってって貰う手筈なんです。
そしてこの魔導手紙の製作者は伯爵様なので、通常では有り得ない速さと正確さと機密性なんだそうで。もっと言えばその辺の石ころで出来る事では無いらしいけど。
普通の民間人は質の悪い魔導手紙(非石ころ)さえ高額過ぎて使えないのだから、伯爵様お手製のコレはこんな風に適当に扱われて良い代物じゃ無い筈なんですがね。
今吹き込んでいる内容をクリスたんが聞くのは、2日後くらいか。月光宮へは今日の日付の内には届く筈だけど、月光宮から王宮までが1日くらい掛るから。でも普通手紙で配達業者に月光宮まで頼んだら、どんなに早くても二十日以上は掛るらしいから贅沢なもんだ。
江戸時代辺りの郵便事情と、現代の宅急便ほどの落差。これこそ格差社会だ。
「1隔以上経ってまだ目と鼻が真っ赤なのに、ちょっと泣きそう、だったのかね」
だーかーらーっ!
気を取り直そうと深呼吸してる内に追い打ち掛けられてしまった。録音に入る様に態々声のボリューム上げて。最低!
絨毯に座り込む私の膝の辺りに転がっている伯爵様は、信じられないほど綺麗な顔で笑っている。クツクツと喉を鳴らす底意地の悪い嗤いで。こんなわざとらしい怖いおっさんなんかもう無視してやる。
そのついでに、切り替え切れず淀んで溜まる不穏な自分の感情も、少しでも無視出来ると良い。
「前回の報告でも少し触れましたが、カルヴァート市に入る辺りから街の外も様子が変わってきています。畑も果樹園も牧場も、戦場に近付くにつれ荒れ始めました。
伯爵様に窺ったら、畑等に設置されている筈の魔獣除けが失われているのが目立ち始めているのだとか。痕跡が綺麗な事から窃盗ではないかと、騎士様達のご意見も頂きました。逃げた家畜や野生動物にも荒らされている様で、人の手が届かなくなっているのは確かです。このままでは半年後、一年後の食糧不足は確実かと存じます。戦争が長引けばその分もっと、ですね。
それから、こちらもご心配なさっている魔獣の件ですが、やはり間違い無く、裏街道以北は倍増している様です。ついさっきも遭遇しました。騎士様達がやっつけてくれたのですが、ラーゲフェルト領までは一度も遭遇しなかったのに、カルヴァートに入ってからのこの3日間だけでもう2回目です。この馬車ですらこの頻度で襲われているのですから、行商人の足が大街道へ流れるのも無理の無い事です。
戦況は伯爵様や黎明様からお聞き及びでしょうが、街の商人さんや住民の方達へはそういった情報も滞っていて、とにかく何もかもが不安でどうしようも無いのが実情の様でした。既に他方へ避難なさっている方はある程度裕福な方ばかりなのです。多くの方は避難するという判断を下す事が出来る程の情報すら、得られていません。
かと言って情報だけ流し、皆避難して街から人が居なくなったら荒廃は免れないでしょう。既に国境に近い小さな村や町の幾つかが無人になり、盗賊の人達の寝床になっているとの噂も聞きました。
でも現在は竜骸まで前線が押し戻され、最低限の安全は有る筈です。素人考えですが、すぐにでも物と情報の流れを確保出来れば、或いは無用の混乱を避けられるかも知れません」
「少し早い気もするが、不可能でも無いだろうね。王国は動じていない、という帝国への牽制にもなる」
ボケ気質にはやっぱり無視が一番効くらしく、今度の横やりは真面目路線でした。表情も真面目ぶっている。
「早急のお力添えがあれば、フレドホルム関連の諸々の影響にも耐えられる方が増えるかも知れません。今のところ、その方向でカルヴァート子爵へ要望を出す予定で居ます。
あ、そうそう。伯爵様が仰るには、子爵が5~6日後くらいの日取りで夜会の準備をされているらしいです。伯爵様と黎明様が主賓だそうですので、私も恐らくご招待に預かると思います。その席には様々なお方がご出席なさるでしょうから、遅くともその日までにご返答とご指示をお願いします。
後はえーっと、今日黎明様にお会い出来るそうですので今から胸がドキドキして落ち着きません嫌われたらどうしましょうどうかこの恋が実る様に応援して下さいませ神様エヴル神様私と黎明様をラブラブにしたまえー。
では今回はこれまでと致します。またお便りしますね。それでは御機嫌よう」
言ってそっと石ころを伯爵様に手渡すと、超短時間瞑想みたいな風情で静かに魔法を掛けた魔導師は、すぐにまたそれを返して来た。ひょいと投げ渡された石ころを受け取り、明り取りの窓へ歩み寄って開ける。内開きの窓を押し込む様にごうっと風が入って来て、ちょっと気持ち良い。
「もうすぐお昼ですね」
陽光の加減で時間が分かる様になってきた。太陽は地球の物より白い気がするけど、抜ける様な青空は同じだ。空だけ見てたら、ここがどこだか分からなくなる。
いや、分からなくなりたいんだな。
しかし残念な事に、打って変わってこの森は、地球には無さそうな色の残像を見せている。良く考えれば、食材の色や形からして、日本人感覚の普通の色の森の方が不自然なのだ。
しかもこの森は案の定、とんでもない広大さだった。もう何時間も走っているのに、まだ森だ。東西に長い楕円形の森の、南西から北西への狭い範囲の縦移動な筈なのに。子供地図とここまでの移動感覚で勘定してみたら、この森全体の面積は日本国土の合計以上はありそうな気がするんだけどどうだろう。んー、だんだん大きさの感覚がマヒしてきたなー。
次の瞬間日本に戻れたら、外国帰りのヒトみたく「日本って狭かったのねー」とか言っちゃいそうだ。
昨夜の今だからだろう強過ぎる望郷の念が湧き掛けてぞっとし、気を取り直す為に一度大きく息を吸った。その息を吐きながら窓の外へ石ころを零す様に投げるときらりと光る様子が一瞬だけ見えて、後は高速で流れる景色の残像だけが残る。
「食べない方が無難だがね」
固まりがちな表情筋に注意しながら窓を閉めて戻ると、伯爵様が苦笑してそう言った。靴を脱ぐ習慣が事の他お気に召したらしく、気持ち良さそうに伸びをしている。
ん?何の話だっけ・・・っと、ああ。お昼御飯だ。
「んー・・・やっぱり吐きます?」
「どうだろうね。片付けてはいるだろうがね」
戦闘後地。ラーゲフェルトの宿場町の時みたく、人間の一部が転がってたりするんだろうか。導師の調査対象だから魔獣の死骸があるのは確定済みだけど。
「でしたら私は帰り道にお昼ご飯食べますね。伯爵様は如何なさいますか?」
「付き合おう。可愛い弟子の為だ」
「まあ嬉しい」
「棒読みはもう飽きたよ」
また揃って溜め息吐いちゃった。もうすぐツッコミのヒトに会えるけど、どうだろう。
イーザスのホテルで買った3人分の昼食の内、2人分を床下収納へ残し、1人分だけをトランクへ詰めた。大食いの彼の為に、たっぷり大盛りにして貰ったやつを。だけど。
「・・・・・・」
人を殺す所業に身をやつして、お腹一杯食べたり軽快な合の手を入れる健全な心を、彼は保っているだろうか。
私には想像も付かない。
クドく読み辛いにも関わらずお読み下さり本当にありがとうございます!
以下小ネタ・小話
森入りまーす!
序盤で行く行く言ってた森に、やっと入りました。
この森の成り立ち的な物語を短編で書かせて頂いたのですが、そちらと合わせてもまだ敢えて具体的な色を出してません。
イキって焦らしてみました(キリ
次回、森の色等をだらだら書きますので、興味無い方は(いつも通り)流し読みでお願いします。
とか煽っといて地球にも実在する色味だったらどうしよう。。。
ご指摘などございましたら、何卒ご一報お願い致します。
ちなみに黎明の軍馬ちゃん達は、小動物系の魔獣程度なら大して速度も落とさず蹴散らして行きますので、主人公気付けず。
彼女の魔獣遭遇カウントは軍馬ちゃん達が足を止めちゃう程の大物に限定されてます。あしからず。




