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カレン  作者: f/1
光と闇
52/62

50

作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。

誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。

また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。




 さて、問題はここから。

 その日の夜、つまりつい昨夜の事。東へ放っていた黎明の密偵から急の報告が来た。

 このカルヴァート市の東隣の東隣、フレドホルム市の市警軍が国軍無視でこっそり勝手に国境を越えて侵攻していたらしいのだが、終に帝国内の国境から最寄りの城砦を制圧し陣を張り、事実上侵略の第一歩が成功してしまったらしいよ、って。

 これだけ聞くと、フレドホルム市の領主が抜け駆けしちゃったのねおめでと、と思うけど、バルバトリア東部全体を縄張りとするバルバトリア国軍東軍の総司令官が他でも無い、このフレドホルム領主その人なんだとか。

 このやっちゃった臭いヒトの名前はバーナード・エル(子爵)・フレドホルム中将。ご本人は現在、カルヴァートとフレドホルムに挟まれているヨハンソン市の国境線に、東軍本隊を率いて陣営を構えて居られますってさ。

 で、フレドホルムの市警軍指揮官は中将の弟さんユリウス様で、侵略成功した市警軍から東軍へ援軍を寄越す様に要求したらしい。所謂家族経営的なアレだね。もちろん自分の手柄にも繋がるので、お兄ちゃん中将閣下はこの要求を快諾。

いやたぶんそもそも元々きっと高確率で中将ご自身の命令で侵攻させたんじゃないのー?

 と思ったのはさて置き、中将はヨハンソン市の東軍自陣から半分近くを帝国領内の市警軍へ増援に行かせ、その不足を補う為に、カルヴァート国境線に配していた東軍の半分をヨハンソン市の自陣へ移動させる命令を下された。

 ただでさえ黎明参戦で、最もバルバトリア王都に近いカルヴァート戦線は激化していた。その真北には彼のリ・リー砦があり、皇帝その人も居るのだ。正にこここそが最前線なのに、そこから国軍の数を減らすなんて正気の沙汰じゃない。

 いくら黎明師団が合流して防衛に余力が出来たからって、基本別組織である国軍のこの動きは有り得ない。って、素人考えが過ぎるかしら。むしろリ・リー砦攻略に備えて増援すべきはこっちだと思うんだけどな。

 ヨハンソン市国境の本陣と帝国領内進攻軍とで足並み揃えて進撃出来たとしても、カルヴァートが落ちれば皇帝が一気に王都へ向けて進軍しちゃうんじゃないの。その道すがら踏み潰されるのは民間人の命と生活だよね。

 ああでも、進軍とか陣営とか言われたって殆ど私は理解出来て無いからなあ。どの規模の部隊を幾つ作ってどういう順番でどの道を移動するのか、とか、そういう細かい事知ってればご納得の策なのかも知れないか。

 何はともあれ、余裕のある国軍中央軍からの援軍は断ったらしい辺り、一気に皇帝にごめんなさい言わす事が出来る戦力や策をお持ちだ、って信じたい。被害を最小限にっていうお考えが無いとかそんなまさか信じたくない。

 きっとここまでが罠で、裏では巧妙な策略が張り巡らされている筈だ・・・けど。

 しかし、黎明の密偵がこれやばくね?って慌てて報告して来たのは、フレドホルム子爵のこの行動が当然帝国軍側にモロバレで、援軍として分割された状態の東軍が、移動中に帝国軍の工作や奇襲に遭いそうだって事だった。

 曰く、罠でも誘導でも何でも無く、普通に襲われそうなんだとか。しかもその対応策を打っている様子が見えない、と。

 いや、まさか、こんなあからさまな大移動で、邪魔される可能性考えて無いとか、マジですか。足並み揃えるとか、民間への被害とか、それ以前の問題だったのか。

・・・ええー、何がしたいんだろこの総司令官様。

 なんて状況で、良いタイミングに全部ゲロっちゃったダニー氏の言う事にゃ、魔力入り藁等を用意させた依頼主は東軍軍人の、中将閣下直近の人物だったのだ!どどーん!的な。

おやまあ。なんちゅーか・・・胡散臭い。


「・・・・・・慌ててらっしゃるんでしょうか?」

 たっぷり考える時間を与えられてしまったので、沈黙を避ける様に渋々漏らした私へ、それはそれは凄絶な笑みになった伯爵様は魅惑的なテノールを響かせた。

「断言して構わんよ、カレン。卿は慌てている。 で?」

 獲物を追い詰めた猫の様だ。普通に怖い。まあ、事実そうなんでしょうけど。

「おめでとうございます?」

「それも断言して構わないが・・・そうだね、ゲイルが居る時に一緒に祝って貰おうか」

 中将は、市警軍での帝国侵攻と同時にエミリオの森辺りで混乱を起こし、敵軍が怯んだ隙に今回の部隊移動を完了させて一気に進攻、皇帝の裏を掻いて帝都に迫り、リ・リーを孤立させてそのまま王手を掛ける的なオチにしようとしたんだろう。ってのが伯爵様のお考えだ。

 エミリオの森から大量の魔獣を帝国側へ誘導し、国境とリ・リーの間の一帯に放つつもりだったんだ。森へ侵入した帝国傭兵部隊はそう装っていただけの魔獣誘導の為の人員で、ダニー氏とグルだったって訳だ。

・・・んー?

 出だしを崩された策略。その対応が遅れてしまって、自軍を危機に晒した総司令官様。

 うん。何か変。

 余りにも浅慮に過ぎる。最初の一手を失敗したのに、なんでそのまま予定通りにいってんだ、って話。満を持しての開戦だったんだから、もっと凝った策略練ってるんじゃないの?失敗した時の為とか、色んな状況考えて色んな用意してるもんじゃないの?

 これじゃまるで子供の使い。聞けば若いとは言え40歳近い列記とした大人だ。どうしてこんなにもお粗末なのか。

 ここ数日で教わったところによると、どうも帝国側は長きに渡る他方面との戦で疲弊の極みにあり、戦力差のみならず軍隊や国民の士気さえバルバトリアとは雲泥の差があるらしい。

 内情を詳しく聞かされたりはしなかったけど、今回の開戦宣言はいよいよ本気出しちゃうぞー的なものじゃなく、向こうが終わらせたいらしいからしゃーねーな的なものに近いのだとか。余程の下策でも打たない限り、こっちが負ける要素はほぼ皆無なんだって。

 帝国との国境を有している東軍と北軍が、中央軍や西軍の援助を嫌うのも勝ち戦だからだ。後は手柄を上げるだけなので、自分達だけでやっちゃいたいのだ。

 確かに、元々バルバトリアと帝国が表向き休戦状態だったのは、バルバトリアに帝国民や領土を受け入れる余裕が無かったから、っていう話だった。

 でもその後、全くもってやり切れない話だが、魔薬騒動が起きて大量に人が亡くなって、現在のバルバトリアには人を受け入れる余剰が出来ている。むしろ深刻な人手不足状態。

 しかしその余波で国軍も騎士団も強制的若返りの最中(騎士様達が皆若いのもこの所為)である為、帝国侵略を唱える過激派の活動も弱かった。が、帝国側からのあからさまな挑発に乗らずに居られるほど、バルバトリア国内の反帝国感情は小さくない。

 伯爵様に倣って例えるなら、身の内のダニの所為でボロボロになっちゃった獅子が、再び身を起こそうとじわじわ四肢に力を込めていたところに、鼻先へ弱ってる獲物がひょいと出て来た。そんじゃまあ起き抜けだけど腹は減ってるから取り敢えずいただきまーす、ってとこだろう。

 つまり過激派等の野心がある人には、準備する時間が少なからずあった筈なのだ。失敗作を引っ込めて他の手を考える余裕ですら、今この瞬間にもある筈。だのになんで作戦変更しないのかな、って疑問が残るのだ。

 そう、掴んだ尻尾は中将のじゃない。

 伯爵様がニヤニヤニヤニヤしているのは、東軍総司令官を追い詰めて慌てさせた事じゃない。彼を慌てさせた事で彼の裏に誰かが居るという確証を掴んだ、ってのが今回の収穫なのだ。

 中将は恐らく予定表通りに行動している。そしてその予定表を変更する権限を持っていない。

 その予定表の裏で、誰かが何かしようとしている。もしくはもう、している。

 それが誰の作った予定表なのか、何が目的なのか、伯爵様達は大事な一掴みを手繰り寄せる事に成功したのだ。

 その一掴みが具体的にどういったものなのかは、教えて貰えなかったけれど。


 専門的な話には付いてけなかったのでだいぶ漏らしたが、今彼らが話しているのは大体そういう話だと思う。

 でも、私は政治家でも軍人でも無いから、その辺りは心底どうでも良い。気になるのは、その結果何が起こるか、だ。

「・・・東軍の移動中の部隊が奇襲を受けるのはほぼ確定なんですよね。それってどれくらいの人が亡くなるんでしょうか」

 自分でした想像にぞっとして呟いた私に、伯爵様は一度謎の眼差しを寄越してから、ふと溜め息を吐いた。なんだろ。

「想像もしたくないね。それよりも、死者の数を減らす事を考えようか」

 言いながら向かいの席のアークライト様へ顔を向け、導師に促された彼は一度苦笑の様な表情を見せてから無表情になった。

 やっぱ軍人さんは表情をあんまり変えない様にとか訓練するんだろうか。他の2人は無表情と言うより、強張った真顔で固まってるけど。

「我が方からもいくらか部隊を撒きましたが、深追いは出来ませんので効果のほどは・・・」

 黎明師団はそもそも、最前線のカルヴァート国境防衛戦の助太刀、その先にあるリ・リー砦攻略が本懐だ。なのに急遽、部隊を別けて東軍のフォローへ差し向ける事となった。

 余計な戦力を割く事になって戦略はぐちゃぐちゃ。短気と噂の英雄閣下はさぞ業腹だろう。怖っ!

 王室騎士団騎馬師団は一人残らず全員あの強行軍に耐えられるよう鍛え抜かれた最強の騎馬軍団だ。今回は全体の半数近くが英雄と共にカルヴァート領の前線へ、残りの半分の半分が北軍の各国境戦線へ応援に散り、もう半分が王宮でお留守番している。

 人数は聞かされなかった。聞いたとしても、軍事に予備知識の無い私には判断出来ないけどね。でもこの世界の常識としては、軍事力は人数では無く能力の規模で測るのだとか。たぶん魔法云々の質と量が関わってくるのだろう。

 何れにしろ詳しい事情は私に必要無いが、この規格外の少数精鋭な騎馬師団は本来なら王家に異変が起こらぬ限り動かない筈だった、って事だけは覚えておいた。公式的には今回、王様君が曙光の強権で国内のアレコレ全部を黙らせ、超勝手に出撃させた、と。

 そして恐らく今、こうして話している間にも、開戦宣言前に皇帝軍接近で押されてしまっていた前線を英雄合流で巻き返し、本来の国境線まで奪回出来ているだろう、ってさ。

 その分、戦死者も着々と増えていってるんだ。

 今、こうしてる間にも。






 無駄文章極まりないお話にお付き合い下さり、誠にありがとうございました。



以下小ネタ・小話

 ここ数話の戦況云々は、物語の進行度・時系列の整理の為でしか無く、後に華々しく展開する布石ではありませんので流し読み超推奨です。今のところ。

 そして地名や人名がたんと出て来てイラっとした方、覚えないでスルーする方向でストレス軽減をお願いします。まだ出ますので。

 本章の最後にも登場人物紹介を書きますが、だいぶ先です。この章長いです。

 お付き合い下さっている皆様、こんなんでごめんなさい。


 さあて次のカレンさんは~?

 シンデレラ登場、プリンもタルトも大好き、お残しは許しまへんで、の3本です。

 それではまた来週~。んがくく。


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