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作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。
誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。
また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。
異世界生活26日目。夕方に大きな街に着いた。
カルヴァート市イーザス。東西と南北に走る2本の街道が、ほぼ十字型に重なる交差点脇にある商業街だ。すぐ北東には広大なエミリオの森が広がっている。この森は国境線の基準となっている様で、森の北の終わりは全てそのまま国の終わりだ。
東西に走る裏街道を西へ行けばラーゲフェルト市、東へ行けばヨハンソン市を跨いでフレドホルム市都を通り過ぎ、その先のフリード領へも続いている。
南北に伸びる「空追い街道」と呼ばれる道を南へ下ればヨハンソン市中央、北にはカルヴァート国境線基地とその先は城砦リ・リーの更に北まで続いていた。
リ・リー砦の先にある帝国有数の大街道は、西へ行けば国を跨いでいる長大な山脈に行き当たり、それを越えれば魔獣の巣窟のあの大草原である為か、山脈の手前で途切れている。大昔、草原が魔獣の海と成り果てるまでは、この大街道は山を越えてバルバトリア王都まで繋がっていたらしい。
転じて北東へ道なりに進めば帝都があった。驚くほど近いと思っていたが、こうして実際馬車移動してみると、言うほど気軽に行ける距離では無いと分かる。大人数での行軍となると尚の事。
ただこの地図はバルバトリアの物だから、帝国内の道路事情は実際とは違うかも知れない。伯爵様曰く、国内の表記も大まかな容疑者用、もとい、子供用だそうで。
その子供地図で見ると、カルヴァート市に入る辺りから東へ行くに従って南方向へカーブするフリード大街道に対し、ラーゲフェルト市から始まっている裏街道は北東へ緩やかに曲がっていた。裏街道が大街道と国境線の丁度中間辺りにある。地図を90度回すと、大街道と裏街道と国境線が、頭が近寄っている歪な「川」の字みたくなってるのだ。
そして各主要都市は大街道か裏街道、もしくはその両者を繋ぐ道に沿う様に建設されていた。
カルヴァート市都は大街道に面している。商業都市イーザスからだと、まずラーゲフェルト行きの裏街道を引き返し、少し前に素通りして来た南への道、市内の裏街道以南を縦断するカルヴァート中央街道へ入る。カルヴァート中央街道はフリード大街道までほぼ直線で続いていて、その合流点にカルヴァート領主城のある中央都市が在る。
普通なら王都から大街道をそのまま走り、カルヴァート領主にご挨拶してから現場のこちらへ来るのがマナーの様に思えるが、魔導院としての立場で動いてる時にあんまり礼節を尽くすと、余計な深読みをされかねないのだそうで。
伯爵様曰く「ここはもうフリードの手の内と警戒するが良いよ」との事。
今現在も歴史上も領地云々に興味を持った事の無い私には、地球のそれとエヴルのそれの違いが分からないので、逆に抵抗無くこの事柄については覚える事が出来た。
バルバトリアには、桁違いに広大な領地が3つ在る。公家の統治するそれらは何れも下手すると、3か所に別れている王家直轄地の合計と匹敵する広さだそうだ。ただし王都がずば抜けて富んでいるので、栄えている度合いは一概に言えないが。
ともあれ、そんなでっかい土地を、直系一族だけで統治するのはもう物理的なところからして無理。だから、3公家は信用出来る人物に土地の一部を預け、統治を任せている。
その人物らが平民だと纏まるものも纏まらないので、国は3公家へ男爵位と子爵位なら勝手に与えて良いよー、って権限を与えてるんだって。その人達に問題があったらお国が介入するらしいけどね。
そうして自分とこの男爵や子爵に、日本で言う所の市長的な役割を頼むのだ。
口で言って貰うと「市」とか「市都」とかなんだけど、文字にして貰うと全く別の発音の物だし、厳密にはこれは正しく無いのだろう。翻訳では無くきっと意訳だ。けど、こっち方面は細かく追及してもめんどくさいだけなので放置。
私が適当に解釈した結果、公爵以下伯爵領までは日本で言う都道府県みたいなもの、って事。で、その中で別れてんのが市。聞けば聞くほど、州とか衆のが適切な気もするけどなあ。規模もめちゃくちゃでかいし。うん、どっちでも良いです。
要は、フリード領の大街道以北、現在最も戦火の激しい帝国国境沿いは、カルヴァート、ヨハンソン、フレドホルムの3つの市が並び、背後のフリード首都を守ってる、って事だ。
うーん、小学生みたいな納得の仕方で我ながら恥ずかしい。でもまあこの感覚で会話してても、取り立てて困った事無いから良しとしよう。
私と伯爵様が焼ける様な西陽の中イーザスの街へ着いた時、街の外門で3騎の黎明騎士が待ち伏せしていた。随行者導師ヴァレンティヌスのお出迎えだそうだ。お疲れ様。
彼らに誘導されて高級地区直通の街門から入り、数日ぶりの高級ホテルにチェックイン。面倒な挨拶回りは彼らが処理しておいてくれたらしく、とてもスムーズに3階の部屋まで辿り着く事が出来た。警備面からか、これまでと違って最上階じゃないので、周囲の建築物に遮られ街も森も眺められそうに無い。
と言っても、この国の宿泊施設はどんなに高級なホテルでも精々4~5階までしか階層が無い。1階1階天井も高い上、エレベーターとか無い所為だろう。この建築様式で10階とか20階とかあったら何かの修行でしか無い。
その分敷地面積が物凄いので幾つも階段が造られていて、ロビー傍の階段に近い方が高級な部屋となっている。今回も階段から一つ目の部屋で、中に何部屋も在るスイートルームだ。
動く階段、日本で言うエスカレーターの構想自体は存在する物の、色んな理由から実現してないらしい。魔導技術上だの、警備上だの、権利上だの、伯爵様が実装には問題が多過ぎると言ってたけど良く分からない。むつかしいのね。
ともあれ、明け方には出発する予定でもあるし、洗濯物等の雑務をさっさと諦めて夕食準備に取り掛かる。急いだって、どうせ明日車内で干し直す頃もまだびっちゃびちゃだ。寝る前にしよう。伯爵様だけなら雑務終わるまでお食事待って貰う事も出来そうだけど、今夜は私を除いて貴族食4名分だ。料理は無論ホテルが用意してくれたが、1人で4人を捌くとなると給仕だけでも片手間とはいかない。
この旅では、伯爵様へ取り入ろうとする人を防ぐ為と、私の顔をあまり見られたくないのとで、ホテルの従業員のお手伝いとかも断っている。部屋の扉の前までワゴンで必要な物を運んで貰って、後は私がやりますシステムなんです。
だってゆっくり休む為の宿泊だ。部屋に居る時くらいは、頭部ぐるぐる巻き布や真っ黒ローブを脱ぎたい。
なので、私の食事も後にして、伯爵様らの話を聞きながら給仕に徹する事にした。
王室騎士団の団員は基本貴族かその子弟で構成されているらしいが、黎明師団に関しては平民出が上級騎士になる等実力主義傾向が強く、この時出迎えに来てくれた3名も貴人と言うより軍人タイプの人達だった。
私に対して変に構えた言動も無かった。表面上、伯爵様の弟子以上でも以下でも無い扱いをしてくれている。一番助かるパターンだ。ありがとう。
しかも、普通の貴族なら世間話も無しに本題に入る人はいないが、彼らは食事の最初から・・・と言うより、食事が始まる前から本題に入っていた。伯爵様へ戦況報告をしておくよう師団長野郎から命じられているらしい。伯爵様としても気になるところ。先を促しこそすれ、無礼等と言って話の腰を折ったりはしなかった。
「概ね予定通りに進んでおります。フレドホルム関連以外は」
話をしているのはシルヴェストル・アークライトという名の伯爵家次男の青年だけだ。20代中頃の若さで、チャランスと同じ二級騎士という階級を獲得している上級騎士だそうです。うん。それがどれくらい凄いか良く分かりません。そろばんの二級よりは取得し難いんだろう事は分かるけど。ごめんなさいね、想像力貧困で。
でも出迎え係が重要なお仕事で無い事は分かった。この如何にも騎士っぽい名字の二級騎士様以外は、外見年齢も若ければ階級も低い。伯爵様に戦況報告をする為に必要なのはアークライト様だけだけど、出迎えが1人じゃ失礼だからちょっと足しといた的なとこだろうと思う。
なんせ出会ってからこっち、九級騎士イリヤ・メル・フォレット男爵様(20歳前後)とやらも、十三級騎士エドワード・バラネフ男爵嫡男様(高校生?!)とやらも、伯爵様に緊張したり私の顔をこっそりチラ見したりと、少々落ち着きが無い。
もちろん良く見ると、体や手のゴツさが尋常じゃないし、目もどこか暗い鋭さを内包しているのが窺えたけど。
ほんの数時間前に人間を殺した人達なんだ、って考えが過ぎる。
「カレン、どう考えるかね?」
伯爵様がいきなり話を振って来た。浅はかな考えに冷水浴びせるかの様なタイミング。ぎくりと心臓が変な動きをした気がした。
と言うか、伯爵様が丁寧に枕詞入れて話を振って来る事の方が少なくなってるな。最近扱いが酷いや。
「・・・どう、と言われましても」
彼らの前では答えかねて苦笑する。せめて彼らがどこまで関わっていて、私がどこまで関わって良いのかくらい教えて欲しいんですが贅沢ですかねはいそうですか。
そんな返事は返事じゃありません、とでも言いそうな満面の笑顔で先生に睨まれた。ちぇ。
元々西日を取り入れる事を想定して建築されたのだろう、柔らかい暖色を基調とした甘やかな風合いの瀟洒なダイニングは、夕焼け時が最も華美で、日が沈み燭台の魔法光に満たされた今はどこまでも穏やかな情景を提供してくれている。
心和むその高級ダイニングで、色取り取りの見た目鮮やかなお料理を囲んで、話題はどんどん血生臭くなっていった。
例えば各軍の数や、3公家を始めとする国内勢力の動き、帝国の情勢など、私は詳しい話を聞かされていない。伯爵様が私に教えてくれるのは、あくまでも私が直接関わる最低限の部分だけだ。
だから私を会話に参加させようとしてるって事は、私も理解しておかなくてはいけない内容って事。
・・・ヤだなあ。その辺りはぜんっぜん興味無いんだけど・・・。
完全に渋々だが、騎士様の報告と、それを受けた伯爵様の言う事を、素人考えなりに何とか咀嚼してみる。
まず、王宮に居た頃から仕組まれていたらしい「エミリオの森での小規模戦闘」が、丁度丸2日前、カルヴァート市警軍がエミリオの森を警邏中、帝国軍側の傭兵部隊の侵入を発見、遭遇し、日が沈み切る前に戦闘状態となった事で予定通り発生した。
確かに最初からエミリオの森へ行くって決まってた。そこで戦闘がある、って。だから伯爵様は表向きはエミリオの森ではなく、国境近辺の戦場視察が名目でここまで来ている。
予定と違うけど森で戦闘あったんならそっち見てみるかー的な「予定変更をする予定」なのだ。
そして、夜が更ける前に英雄率いる黎明師団が「やあやあ何事だい」と白々しく駆け付け、日付が変わるずっと前に戦闘を終結させてしまった。
要するに、この件は最初から最後まで、黎明の手の内だったって事だ。
と言うのも、皇帝進軍直後頃、私がこの世界に来て1週間経って無い頃に、黎明師団や伯爵様個人の放っていた各地の密偵とかが、「誰かの手引きで帝国側の傭兵部隊が国内への侵入経路を得ている」と幾つかの場所を報告して来ていたのだとか。
じゃあそれを逆手に取ってそんな事企んじゃうイヤンな奴の尻尾を掴んじゃおう、という話になったらしい。おっかない。
で、その策があっさり成功したワケだ。
戦闘終了後、師団長野郎の指示で周辺を調べたら、不審な傭兵と、大量の藁と干し草、大量の魔獣化途中の動物が見付かったらしい。捕獲したその傭兵は、ずばり噂のダニー氏で。
ああ、うん。たぶん、私が探偵さんの聞き込みみたいな真似の報告をしなくても、粗方密偵さんが掴んでたんだろうね。ちょっと恥ずかしい。
でも私の聞き込み調査モドキは、理屈では私が民間人の現状を肌で知る為というのが目的で、心境的にはじっとしてると発狂しそうだからというのが理由だから、恥ずかしいも何も無いんだけど。
今回戦況と関係のある情報を聞けたのは偶然だったけど、報告したのは完全な保身だ。ひょっとしたら役に立って株が上がるかもってのと、黙ってたらマズそうだからっていう。
知ってたけど報告しなかった、ってバレた時問題のある内容は即、無理やりにでも報告しますとも。
兎にも角にも、そうして戦闘直後にも関わらず徹夜で魔獣退治し、魔力を吸った藁も回収し、黎明師団は午前中には騒動を完全に終了させ、けしからん傭兵ダニーにアレなアレして「誰か」の尻尾情報の収集も完了しましたとさ。めでたしめでたし。
この度は当ページへお越し下さり、誠にありがとうございました。
以下小ネタ・小話
スイートルームという言葉は真面目に考えないで下さい。
寝室とかリビングとかダイニングとかある高級部屋的な意味で使ってます。
グー○ル的な物で真面目にスウィートルームで検索しないで下さい。
最初は「3スウィートのプレジデンシャルうんぬん・・・」とか書いてましたので、今よりもっと無駄に長かったんです。
それからエスカレーターもエレベーターも動く歩道も、実は魔導院所属の魔導研究所的な機関で開発はされてますが、主に政治的な理由で実際の運転には程遠い段階です。という設定です。
なので、主人公は我慢強いと言うか文句言う気概が無いのでスルーしてますが、1階辺りの段数が多いので普通に3~4階でも上り下りはかなり苦痛かと。。。
ダイエットには良いじゃないかという前向きな考え方は嫌いじゃ無いです。




