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作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。
誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。
また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。
7/8:誤字訂正(内容変更無し)
人間関係や仕事等でどうしようもない失敗をして落ち込んだ時、人それぞれ立ち直り方があると思う。
明るい曲を聞いて無理やり気分を上げる人。バッドエンドの超絶哀しい映画にどっぷり浸って忘れる人。気心知れた友達に愚痴ってすっきりする人。何日か泣き倒して疲れて開き直る人。恋人にべっちょり甘えてる内に元気出る人。等々。
私は、期限を切る事で切り替えるタイプです。
その時点でどんなに割り切れて無くても、どんなに辛いままでも、表面上は完璧に立ち直って見せる。意地でも笑って見せる。そうして「笑えてんじゃん」って、自分を騙す。何の解決にもなってないけど。
だって仕方ないじゃないか。物事って順序良く来たりしないんだから。ふっ切って前へ進む為の考える時間や出来事が、そうそう都合良く差し挿まれたりしない。
次から次へ嫌な事が起こったり、辛い現実を何とか嚥下しようともがいてる最中に別の悪事に襲われたり、起こった事を理解する前に状況に急かされて素通りしてしまったり、どうにも出来ない事態が続く事なんてザラにある。
処理する時間が無いなら、保留のまま次へ行くしかないんだ。だったら、開き直りにすら至らない強がりでも良い、自分の足で立って歩いてく方がまだ自分を納得させられる。
人の所為にする余地があったら、後の自分が腐る。誰かの所為なんだから私は泣いて待ってれば良いんだ的な思考は、持っちゃダメだ。
結局最後は、自分で何とかするしかないんだから。
ええ。言われた事ありますよ。お前は俺が居なくても生きていける的な名言、吐かれた経験ありますとも。どちくしょー。でも誰かに守られたり助けられたりして貰う価値が無い人間は、そうでなきゃ生きてけない。
だから、生まれて初めて目の前で人間が殺されるという経験をして、どんな感情を抱くのが正しいのかすら分からない混乱の中でも、私はこれまで通りきっちり、自分で決めた期限で立ち直って見せた。
臭い物に蓋をして。
そうして急いではみたものの、やはり予定に大きく影響が出た。
致し方の無い事とは言え、足手纏いを自覚したばかりの身には堪えた。もっと私がちゃんと出来たら、という意識が片隅にこっそり根付く。焦りは失敗しか生まない、急がば回れ、分かっててもコントロールの難しい感情。
落ち付け、と口の中で唱えるのも癖になりそうだ。
結局、変更せざるを得なかった予定は、3つ。
1つは、その日の出発が夕方までずれ込んだ事。本来ならそれまで通り2隔過ぎ、貴族にしちゃ早起きねくらいの9時頃に出発する予定だったけど、3人とも疲れてたし、町が不安に騒然としてる中をヴァレンティヌス伯爵がさっさと去れるものではない。
午後になってこの市の長である子爵の私兵ラーゲフェルト市警軍が到着し、そのリーダーに伯爵様がした事の報告と挨拶をしてから町を出た。ラーゲフェルト子爵からも何か伯爵へ伝言があった様だが、私には聞かされなかった。
そしてその出発時に、隊商へ挨拶に寄った。
誰もが怪我をしていて、誰もが感謝していた。最悪の日に、2人の英雄が居合わせた奇跡に。救われた喜びを私も一緒に感じる様にと、優しい言葉を掛けてくれた。
勿論中には、挨拶の為に晒した私の顔立ちや伯爵様を引き連れた様子に、苦い顔をする人も沢山居た。その中で多数を占めた雰囲気に、これまでの町でも何度か得た認識を新たにした。
これまでどんなに懇願されても弟子を取らなかった独身のリヒャルト・イル・ヴァレンティヌス様が、危険な仕事先にまで同行させる女の弟子。弟子と言っても、彼の身の回りの世話しかしている様子が無い世間知らずの、適齢期をずっと過ぎた独身女。邪推されない筈が無い。
そういった諸々を深く考えない様にして、伯爵様と共に情報提供のお礼と、私を逃がそうとしてくれたお礼をして回った。チャランスに預けたダンディさんへの銀貨は、町の病院へ収容された本人へちゃんと届けられていると、リーダーの人が教えてくれた。彼が意識があって無事って事も。良かった。
この隊商のリーダーは何人か居て、金熊さんと、その弟であるあの野太い声の金熊さん似と思った人が、その内の2人だった。
「良かった。お嬢さんに怪我が無くってよぉ」
慌しい中、金熊さんはそう言って抉れた肩を擦って笑った。わしはちぃっと痩せた、と血の気の無い顔で笑って見せてくれた。弟さんは重傷で、ダンディさん同様入院してしまったらしく、会えなかった。
「私の弟子が無事なのは貴方方のお陰だね。損失について、私からも中央へ口添えしておこう」
そう礼を言った伯爵様に皆恐縮してたけど、私の価値観では普通の事しか彼は言って無い。災害みたいなモンなんだから、国が補償してやらんで何の為の税金か。
でも商人達と伯爵様の会話を聞くに、どうも、民間人が町の外で魔獣に襲われるという出来事は、大した災害でも事件でも無い様だった。襲われたのが貴族なら別だが、所謂住所不定である行商人が被害者だと放置される程度の事でしか無いらしい。
それをおかしい事だと言う伯爵様に、彼らは心底驚き、中には涙を滲ませて喜ぶ者まで居た。伯爵様曰く、物流の要のひとつである行商人を守らないなんて愚行、らしいけど。
身分諸々に関する事象には慣れたつもりだったが、私はやっぱり根柢の部分で現代日本人なのだと思った。理性では、この国の在り方を否定する権利など私には無いと、分かってる。でも、どうしたって納得は出来ない。
聞けば彼らは、行く先々の町で滞在費を払って、露天を開く許可を買い、商品の買い付けは街商人の数割増しの額を取られて、言葉や経緯が違うだけで十分な納税をしていると言う。
それなのにこんな扱い、納得出来ない。そう思った。
彼らの至極人間的で善良的な言動に受ける感銘に、よりその気持ちが強まるけれど。
・・・偉そうに言えた立場じゃないんだよね・・・。
「お嬢さん、元気でな。今度会った時は、お嬢さんに似合うとびっきり澄んだ紺色のドレスを用意しておくから、買って行っておくれよ」
「じゃーアタシはそのドレスに使う青石を調達しちゃる!」
黎明師団長との恋を応援してくれるらしい。金熊さんとあの少女商人は別れ際そう言って、にっかりと陽気な笑顔で見送ってくれた。約束通り結構な買い物をした所為か、最終的な見送り人数は10人以上になった。
私は彼らとの短い邂逅を、いつまで大切に出来るだろうか。
血を吸った地面をビク付きながら歩く傍ら、そんな事を不安に思う自分のスレっぷりに溜め息を禁じ得なかった。
2つ目の変更は、出発時刻が大きくずれたので、約束の「運命の出会い」に間に合わせる為に立ち寄る町を減らす、という行程の変更だ。これによって、3日は野宿する事になった。
けどほんとに屋外で寝るのはチャランスだけだ。リ魔ジンにはこういった事態も想定してふかふか毛布を何枚か積んでいるので、私と伯爵様は広い車内で快適快眠。煩わしい挨拶回りとか無い分、私的には高級宿に宿泊するよりよっぽど気楽だ。
独りの空間とは縁遠くなってしまったけど。
「並んで一緒に眠るのかね?」
「私、襲われますか?」
「襲った方が良いかね?」
「疲れるので出来れば襲われたくありませんけど?」
「なら止めておこうか。やぶさかではないのだがね?」
ツッコミが居ないので、そんな遣り取りも消化不良気味だ。車内に干している大きな紺青色のコートを、暫く2人して見詰めちゃった事は否定しない。
そしてこれによって、調理をするという事態が発生した。
これまでは、夕食と朝食はホテルで取り、そのホテルかレストランなどで昼食用にお弁当を作って貰って買っていた。町に寄らないなら、この全てが無くなるワケだ。
なので、保存が効くと言う材料を多めに買って出発し、金熊さんから買った屋外用調理器具で馬を休憩させる時に料理しておいて、食事時になったら車内で食べる、というとっても旅暮らしなスケジュールに相成った。
ここまでは良い。旅暮らしなんて初体験だが、理解出来る範囲の展開だ。問題無い。
ただ、誰が調理をするか、が大問題だった。
そう、伯爵様は自分の身支度も自分で出来ないダメ男で、私はこの世界の食材に全く馴染みが無いダメ女。金に物を言わせ豊富な食材を買い溜め出来ても、2人ともどれが何なのかさっぱり分からないのだ。
チャランスは仕事柄、恐らく最低限の知識と経験があると思われたが、これ以上私達と接する姿を人に見られる訳に行かない。壁に耳有り障子に目有り。王宮を出てからは保険を掛けて、チャランスの話をする時はランスでは無く「チャランス」呼ばわりにしているくらいだ。
英雄が失魔症の女に恋をして護衛を付ける段階に至るまでは何とか、通りすがりの旅の剣士様で居て貰わなくてはならない。
要するに、どうあっても、私と伯爵様でどうにかするしかなく。
最初私が適当に当たりを付け独身OLのプライドを見せ付けてやったのだが、何せ元が微妙な味の上に調味料がさっぱりな挙句加工後の姿しか見た事無いから、これが全然思った通りに行かず。
結局、その日から、楽しい地獄のお料理教室が開催されました。
どんな異物に仕上がろうとも後で美味しく頂いてくれるスタッフ的な存在は居ないので、自己責任で平らげなくてはならない。そしてお互い体調不良軽減の魔導具を身に着けているので、体に悪そうな見た目や味でもぶっ倒れずに最後まで食べれてしまう。それが地獄の所以。
うん、でも、楽しいのも嘘じゃない。
気分転換には丁度良く、暗黒魔導師と益々距離感が縮まってしまい、ラーゲフェルトの宿場町出立から2日後の昼食には、妙なテンションですら共有出来る仲に至ってしまいました。
「カレン!これは不味くないぞ!成功だ!」
「ほんと!味が無くて不味くないですね!見た目ゲロですけど!」
「うむ!ゲロだな!わはは!」
「わはは!」
その後の昼寝でとうとう、伯爵様は私の腹を枕にする技を覚えてしまわれた。うーん寝難い。
3つ目の変更は「戦場フォーリンラブ」の台本である。最初の出会いが変わってしまった。
あれだけ目撃者が居たのに無かった事にするのは、最早おっちょこちょいでしか無い。聞けば、あの隊商は王都行きらしく、私が師団長野郎に助けられた時の様子は、もう尾ひれ付きで中央に広まったと考えた方が良いらしい。
そこで、英雄と失魔症の女の初対面を、5日後のエミリオの森から、先の宿場町魔獣襲撃事件に変更。エミリオの森では再会をする事になった。
日付を変更すると行軍とかに影響出ちゃうので、他は予定通りのまま。
実際に起こった偶然にしろ、ちょっと出来過ぎな出会いじゃないかと不安になった私に、伯爵様はこう言った。
「偶然? 違う。あれは必然だったのだよ、カレン。 あの魔獣どもは、この近辺で起こっている戦闘で最近魔獣化したものだった。つまりまだ定住処置をしていない、若い群れだったのだよ」
魔獣は人を襲う。実は食う訳でも無く、ただただ人を襲って殺すのだそうだ。時には単体で、時には群れで、より人を襲い易い場所を求めて移動し続ける。
何れの原因も解明はされていないが、人を殺した直後は暫くその場に留まる習性を発見し、遺体から大気へ拡散する魔力を吸っているらしいと言う事が判明。以来百数十年、簡単に手を下せない大きな群れは、任意の場所へ誘き寄せ自動魔導具を使って定住させ、人々の生活圏から引き離す事に成功している。
つまり、国軍や市警軍の主な仕事のひとつが、発生したての小規模の魔獣駆除と、大規模の魔獣の定住処置と掃討なのだ。
しかし、戦争により増え続ける魔獣に各対応が追い付かなくなってきている。とうとう、最優先な筈の大規模の群れの定住処置すらも。
そして、それを放置して先へ進めるほど英雄は豪胆ではないと、お師匠様はどこか自慢げに言う。
「要は、黎明の進軍中の露払いに行き当たっただけなのだよ。同じ場所へ向かう、数日後に合流する予定の黎明の、ね」
なるほど。日程的に、伯爵様と師団長野郎が最も接近する日だったのだ。
元々が随行なのだから、黎明師団と導師一行がスケジュールを同じくしているのは周知で、道中遭遇する確率が高いのは当然と言えばそれまで。そしてその遭遇条件が一番高まるのは、英雄の職業上、対魔獣か対帝国の戦場だ。単に遭遇確率が最高値になっただけだったのだ。
「無論、全く偶然の要素が無かったとは言わないがね」
それでも、命を救って貰った実感は時間を追う毎に増して、感謝の気持ちを抱かずには居れなくなっている。あの時助けられてなかったら、なんて、想像だけでも震えが止まらなくなる怖ろしさだ。
最有害人物とか思った人が数日後には命の恩人、って皮肉も良いとこだけど。
今生きている感謝は、神様へでも幸運へでも無く、居合わせた全ての人へと、特に黎明の英雄へ捧げなくてはいけない。
ともあれ、この予定変更にはそれほど気を揉まなくても良いという事だ。元より英雄の虫除け係が最も気力を削がれる仕事。きちんとやり遂げる為にも、擦り減る神経は最小限に留めたい。
問題は恋人として纏まった後、暫く人前でいちゃいちゃしたりしなきゃいけない事だ。
脳内シミュレーションだけでも恐怖で失神しそうだけど、恩返しと思って頑張る方向へ変更だ。
本作をお読み頂いている方が居る事に、日々感謝しております。ありがとうございます。
以下小ネタ・小話
チャランスは所謂チャラ男です。イケメンです。オサレさんです。
現在、主人公から見ると「ただの旅の剣士様」な恰好ですが、バルバトリア住民の平均を大きく上回るオサレ剣士です。
ぶっちゃけ美形過ぎる伯爵様なんかよりよっぽどモテるのですが、本編で全くその設定が生きていない事に今、気付きました。
イケメンでオサレでモテて目立つくせに、何故か密偵とか偵察とかに向いている、ハリ○ッドのスパイ映画の主役みたいな無茶キャラなのです!
と、ここで宣言。相すみません。
ごめんよランスロット。




