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カレン  作者: f/1
光と闇
49/62

47

作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。

誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。

また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。


7/8:誤字訂正(内容変更無し)


 チャランスに急かされ、碌に涙も出なくなった私が町へ足を踏み入れてすぐ、伯爵様が現れた。不意に影が視界に入り込んだ様な無音の登場をした、黒い闇の塊みたいなその姿を見止めて、不思議な事に無意識、笑ってしまった。

 とても嫌な笑いだ。醜い自分を隠す為の、本物の作り笑い。

「おはようございます、伯爵様。お疲れ様でした。朝食は如何致しましょうか」

 漆黒のローブの裾や靴が汚れている。昨夜私はちゃんと新しい物と取り換え、古い物は洗っておいた筈なのに。それに、零れる黒髪が乱れており、微かに疎らな髭が生えかけている顎が汗に濡れていた。

 だのにいつも通りの美しい微笑の伯爵様はゆっくりと、私の全身と、私の手にある軍服と小袋と、最後に背後のチャランスを眺めてから答えた。

「おはよう、カレン。その袋は染粉だね。濡れて反応が始まってしまっている様だ。まず風呂へ行って髪を染めたまえ。ついでに温まりなさい。 そこの君、ご苦労だった。もう下がって構わんよ」

 それを聞いた背後のチャランスが、失礼します的な事を言って立ち去る気配がする。きっと休まず町の外へ取って返すんだろうな。行商人達の手助けをしに行くんだ。いってらっしゃい。

 伯爵様は、私が思っていたよりずっと早い段階で騒動に気付いたに違いない。そして、今の今まで駆け擦り回っていたのだろう。町の人達を護る為に、惜しまず魔法を施していたのだ。

 何も出来ず、人の邪魔になるだけだったのは、私だけ。

 足手纏いとは、こういう事なのだ。

 しかもそれを分かってたつもりになってた事が、最も救い難い。あの日、「お前は何も分かっていない」と言った師団長野郎の、その言葉の意味をやっと理解したと思う。うん、これ以上は無いと思いたい。

ああ、また逃げてるし・・・。

「抱いて行こうか?グズグズしていると染粉が全部流れ出てしまう」

 今の私に丁度良い毒素を込めた笑顔で、伯爵様は軽口を叩く。それを見て、妙な発想が湧いて自嘲する。我ながら陳腐な発想だ。

 この国の英雄は2人。光と闇。朝も夜も、安泰だ。

 ただし、私にはどちらも、強大過ぎる。


「国内の河川には全て、一定間隔毎に不純物を取り除く自動魔導具が設置されているのだよ。だからまあ、緊急を要する時は普通、水質は気に掛けないね」

 という説明をするのが面倒だったのだろうね、アレは。

 笑い含みにそう言うテノールを背後に聞きながら髪を洗う。染料はしっかり髪に染み込んで、案外手早く完了した。日本のカラー剤と違って刺激も臭いも殆ど無いのが嬉しいけど、モズクの倍くらいぬるぬるしてて正直キモかった。

・・・うわあ、枝毛がなーい・・・。

 改めて観察した髪は思いの外伸びていたけど、高性能美容液の力か、枝毛が全く無くて切りたいと思わせなかった。量やバランスはちょっと整えたいとこだけど、伸びる分には構わない。この国では余程の事が無い限り、女性は髪を長く保つのが常識だから。

 この話を聞いた時の私が、手間でも伸ばしていて良かったと心底胸を撫で下ろしたのは言うまでも無い。ここ6年間の自分、良くやった。

 頭の天辺から毛先までムラ無く真っ黒に仕上がったのを、非魔導具の小さな化粧用手鏡で苦労して確認し終え、備え付けの魔導大型姿見の傍の台へ置く。なんという格差。だがしかし非魔導具だったとしてもこの位置にこんなデカい鏡は要らん!

 風呂場ですよ?風呂場のど真ん中ですよ?ダンス教室並みの大鏡ですよ?ナニ用だ?

 以前、ミキちゃんが言っていた。

『だってね、もりもっちね、鏡プレイフェチだったんですよ?ドン引きですよ。2度目はナイですよ』

 のん気なミキちゃんの声が脳裏を上滑っていった。目の前の装飾美しい大鏡は、用が済んだ今はただの美しい邪魔な仕切りと思っておこう。

 さて、ここは列記としたお風呂場だが、哀しいかな浴槽とかは概念から存在せず、高級ホテルの最上階スイートのバスルームですらお湯を溜める設備は無い。床はどこまでも一律に美しい平面だ。無念。

 その床に排水溝が見当たらないのは匠の技なんだとか。理解不能だけど、水を流すとまるでスポンジみたいに即座に吸収して、何の変化も見せないまま排水を完了してしまう。これを見る度に、技術と石材の優秀さには感心しきりです。

 風呂場全体もその優秀石を使った石造りで、大鏡の他にも色々と設置されている。幾らでもたっぷり水やお湯が出る魔導具、各種ソープ類、美麗な陶器金属パターンな魔導桶が幾つか・・・等々。

 水とお湯が出し放題の手動魔導具は掌サイズの楕円の蓋みたいな形で、壁や床とは別の材質の石だ。くすんだ青色をしていて装飾としても綺麗。

 石鹸は置いている場所によって、ちゃんと何用か分かる様になっているので問題無い。使用感も王宮から持って来ている物と大差無いし。やっぱ今まで使ってた物も最高級品て事だろうね。

 更に、優秀石の巨大ベンチがあったり、どう見てもキングサイズ以上のベッドでしかない物があったりと、ご多分に漏れず日本の平均的な規模価値観は通用しない。ぶっちゃけ超ハイソサエティ向け風俗サービスが営めそうな設備環境だが、これはこの町特有のものでは無く、国内の貴族向け宿泊施設のほぼ全てに完備されているものだ。

 ほんっと一々がデカい。風呂に関しては真っ裸な分、慣れるまで所在の無さに苛まれ続けるんだろう。ぽつーん。

 何れにしろ湯水関係が自力で扱えない私は、伯爵様に手伝って貰いながらの入浴となる。ので、風呂場とリビングを繋ぐ脱衣所的な場所で伯爵様に待って貰うのが常だった。申し訳無い。

 しかしその脱衣所的な場所も、一般の感覚からすると脱衣所とは言い切れない広さと豪華さでふっかふかの大きなソファセットがあるから、風呂介護の為に待たせている事に対してはあんまり罪悪感は無い。予めお茶等を用意しておけば、リビングで寛ぐのをちょっと移動して貰っただけと考えられる。精神衛生上、目下その考えを採用中です。

 と言う訳で普段伯爵様には、入浴前に掌サイズの石ホース(水がシャワー的な出方じゃない)のお湯をオンしてもらい、入浴後にオフしてもらうだけなのでドアを開けっぱにしたりしない。が、今は時間が惜しいので自然何をするにも話をしながらになり、彼の紳士度を信用してフルオープンで入浴中だ。バッチコーイ!

「まあ、アレの口数が足らぬのは昔からだがね」

 水音の合間に聞こえる呆れ声へ「左様ですか」と返しながら、吸水性抜群の大判布を手に取る。

 このバスタオルも一々デカいし、大量に設置されている。でも件の石で造られているこの巨大風呂場は、大量にお湯を出しっぱ状態にしてても湿気が殆ど籠らないので、バスタオルもとっても清潔で乾きたての様に柔らかい状態だ。

 それで体を拭きながら、試しに愚痴ってみた。

「でも足らない割に、黙ってるのに黙れとか言うし。質問の答えにもなってないし」

「おやおや。余程拙い事を言ったようだね。困った英雄殿だ」

 返って来た低い声がほっとしたような安堵感を滲ませた気がして、愚痴が二重の意味で功を奏したと胸中撫で下ろす。まだともすれば体が強張るので意識して肩の力を抜き、これ以上伯爵様に心配掛けない様に自分へ言い聞かした。

 雑事に感けたり愚痴れる元気が残ってるなら、大丈夫な筈だ。

「伯爵様は何してらしたんですか?」

 言いながら濡れ髪を小さめのタオル布で纏め上げさっさと新しい服を着、師団長野郎の上着とさっきまで着てた自分の服の洗濯に取り掛かる。地面に置いた魔導桶にしゃがみ込んで洗い始めると、一瞬王宮の暮らしを思い出した。でも流すお湯が血で濁るのが、ここが安全な黎明棟で無い事を教えてくれる。

 そう、あそこは安全だったのだ。私が思うよりずっと、遥かに。

 私の質問にテノールは、少し間を置いて不思議そうな返事を寄越す。

「何って、貴女を迎えに行こうとしてたのだよ? 夜中に出て行って戻って来ないから、何事かと思ってね」

 文字練習用の紫板に「出掛ける。チャランス、一緒。鞄、頼む。朝まで、戻る」って書置きをして出たんだけど、その書置きがリビングのテーブルにあるのだけど、そんな事はどうでも良い事らしかった。なんでだ。まさか解読出来なかったのかって言うか無視ですよねきっと恐らく完全に無視られたんですよねコレ。

 手提げトランクが部屋に放置されてたのには肝を冷やした。無事だったから良かったものの、これは大反省事項だ。中の書類は全て力を持つ原本なのに。

「・・・そうでしたか、お手数をお掛けしてすみませんでした。 それで?」

「で、途中で魔獣のニオイが幾つもしたのでね。慌てて防護柵の強化に向かったのだが、これが厄介だったのだよ。綻びだらけでねえ」

 ここの防護柵はどうやら何年も前から酷い状態だったらしい。迫る魔獣の群れを察知した伯爵様は、防護柵の強度を上げる事に集中し、それが先ほど漸く完了したのだとか。結局全面改良に近い大仕事だった、って。

 ちなみにニオイというのは嗅覚とは関係の無い、勘に近い感覚の事だそうだ。魔力が高い人特有の第六感。伯爵様のそれは国内随一だと、いつかチャランスが言ってた。って事は、基本が高魔力な古代ヴァレンティア人の血が濃い師団長野郎や王様君も、この能力を持ってるって事だ。こっわー。

 黎明棟に居た時、逃げたってすぐに見付かって捕まるって言われたけど、脅しじゃ無くただの事実だったのだね。変に勇気出して試さなくて、ほんっと良かった。

 しかして我がお師匠様は、町を丸々一個守っちゃう様な大事を、当たり前の如くこっそり無償でやっちゃうのだ。普段は手の掛るおっさんのくせに。

「ああ、もちろんその時貴女を放置したのは、貴女の近くに若狸が居るニオイと、群れを追ってアレが来ているニオイがあったからだよ。見捨てた等と思われては哀しいのだがね」

「それくらいいくら私でも察してましたよ。ニオイの事は分かりませんが、伯爵様なら何らかの方法でお気付きになって先に動いてらっしゃるだろうなって。 でも想像以上でした。この度の伯爵様は間違い無く問答無用で素敵です。最高です。感無量です」

 心底そう思って言ったら、照れられた。

「知っているとも! もー、何度も言わんでよろしい!」

 急に早口でそう言った伯爵様に、朝ご飯の支度をしてあげる事にした。先に洗い終えた紺青の軍服を絞れるだけ絞って、立ち上がる。半信半疑で試したけど、やっぱりって言うか、ほんとにすっかり綺麗に返り血が落ちてしまった。凄い石鹸だ。

 そしてここで、漸く、地に足が付いた。しかと立っている感触がする。

ああ・・・せめて塞ぎ込めたら楽だったのになあ・・・。

「では宿の方に朝餉を頂いて来ますね。その間に顔くらい洗っててください」

「ふん。仕方あるまい」

 良く分からない返答を聞きながら、何て事無い風を装って懐の深い暗黒魔導師の傍を横切り、少し迷って、やっぱり言い足してから脱衣室を出た。

「・・・ごめんなさい。午後までには立ち直りますから」





 お読み下さって、誠にありがとうございます。お目汚し大変失礼致しました。



以下小ネタ・小話

 伯爵様のお髭はちょろりです。たまに居るうっすーいタイプの人です。

 日本では髭が薄い男性は女性には好まれがちですが、男性にはそうでもなく。

 あんまり髭が薄い人は、髭の濃い人に憧れや妬みを抱いているもの。

 伯爵様も、口の周り青い人とか見ると内心穏やかではありません。

 だから他の身の回りの事は出来無いくせに、髭剃りだけは朝起きてすぐ侍女も来ない内に自分でやります。

 将来の夢はカイザー髭に成りたい!ですが、現実は甘く有りません。

 なので魔法でどうにかしてやろうと色々研究中です。

 そして以前、師団長が顎髭生やして貫録付けようとした際には、色気付いてんじゃねえよクソムシが的なキレ方をして無理矢理押さえ付けて師団長の剣で剃ってしまわれたので、以来、師団長はきっちり髭を剃る習慣の人と相成ってたりするエピソードがあると良いです。

 以上、鬼畜スキーに捧ぐ。

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