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作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。
誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。
また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。
青年が律儀にテントへ品を取りに行ってくれるのを見送ってると、お鍋に汁的な物を放り込んだ金熊さんが、とっても優しい声を掛けてくれた。
「ご主人様に言ったら、もっと上質な店でもっと高級な染粉を買ってくださるだろうに」
「えー?でも多めにお小遣い貰ってるから自分で買えるわよ?」
とか何とか適当言っておく。伯爵様の評判を落とさない様にだけ気を付けた。口元しか見えないのもあって、どうやら随分若く見積もられているらしく、背の低いすばしっこそうなおじさんには「意外としっかりさんだな」と褒められた。てへ。
「あら、あたし結構イイ年なのよ? それでそれで?なあい?変な物の話」
「うーん、そうさなあ・・・おれんとこはねえなあ」
「うちもないなあ。変な物、だろ?」
「もしくは危険物、か」
伯爵様が英雄的な人物だからか、彼らは存外素直に考えてくれだした。娼婦の時と違って貴族に悪感情が無さそうだから、少し気分が楽になる。私の関係者はほぼ上流貴族のヒトばっかだから。
おおっ!今の言葉日本で言ってみたい!
行商人達の会話に相槌打ちながら、目ぼしい情報を探す。
とは言え、特に何か期待しているワケでも無い。それ以前に、どんな情報を得ても、私がそれを重要な情報と理解出来るか、その可能性は低いのだ。
ただ、何かしないと居られなかった。
この世界に慣れる、その為だけでも良い。とにかく、何かしないと気がふれそうだった。
今日、この後、今すぐそこに見えている道を北上し、国境側へ向かう裏街道に乗る。そしたら凡そ5日で、戦場へ着いてしまう。
それに向けて、伯爵様は色々な話をしてくれる。でも、護身術を教えてくれる訳でも、魔法の防護服を作ってくれる訳でもない。チャランスだって、私の目の前に居てくれる訳じゃない。
いざという時は彼らが護ってくれるのだろう。けど、その瞬間、私にその価値が有るかが問題だ。彼らが咄嗟の判断を迫られた時、私がどれほどの存在なのかで、どこまで護ってくれるかが決まるんだと思う。
私は自分の存在価値をアピールしなくてはいけない。私にしか出来ない事がある、って証明し続けなくてはいけない。
私にあって、彼らに無いもの。そんなのは限られている。
異世界知識と、身分の低さと、素性の無さだ。
ネガティブなこれらを、ポジティブに活用して見せなくてはいけないのだ。例えば平民に紛れ込み、平民の目線にあるものを直に見聞きする。クリスたんからの仕事の1つがこれだ。
もちろん、他にやりようはいくらでもあるんだろうし、こんな事したって何にもならない可能性のが高い。でも、今は他に思い付かない。思い付く事からやってくしかない。
何もしないよりは良い。その気持ちだけで動いて、呼吸をしてる気がする。
あああ、考え込んだらダメだ。気持ち悪くなる・・・。
「ほら、おじょうさん、染粉。銅3枚で良いよ」
「あ、もう持って来てくれたの?ありがと!」
愛想笑いがこびり付いた口元だけが見える格好なので、何とか不気味に見えない様明るく振る舞う。
青年商人から購入したのは、掌サイズのしっかり口を閉じた黒い布袋だった。振ると中からさらさらと、砂が磨れるような音がする。使い方を聞いたら想像通り、水で練って塗り込むタイプだった。
これでプリン状態になっている髪の問題が片付く。王宮出た辺りから気にはなってたのよね。前回美容院に行ったのがもう2ヶ月近く前だ。現在のカラーであるブラウンではなく黒にしたのはもちろん、プリンの再来を防ぐ為。髪を黒くするなんて、何年ぶりだろう。
「あたしの髪、腰まであるんだけど足りるかな?」
「染めるの初めて?大丈夫、アタシの長さで3回分あるわよ、それ」
教えてくれたのは髭剃り中の痩躯な30代後半くらいの男性だ。綺麗に手入れされたライトブラウンのさらさらロングヘアが風に揺れる。
おおお!この世界にもオネエの方が!
沈みかけていた気分が一気に浮上する。こんな簡単に浮き沈みして、ちょっと情緒不安定が過ぎるなあ。
と、自嘲を漏らしたと同時。思い付いた。
「ありがと。 じゃあさ、ダニーって人知らない?」
言ってみると、金熊さんの朝ご飯を横取りしていた、40代中頃の色黒ダンディが「ああ!」と大きな声を出した。当たったかしら、と心拍数が上がる。
「ダニー!そうそうそうそう、あったよ、あった」
「ほんとですかー?教えてくださーい」
敢えてのんびり促したのは、自分を落ち着かせる為だった。
ここまで情報収集っぽい事が出来るとは思って無かったので、ただでさえ若干浮足立ってるのに、なんだかとっても上手く行っている予感にドキドキしてしまう。
「藁だの干し草だのを用意させられてる仲間が居たよ。見るからに傭兵のくせに、研究材料とか言って、やたら大量にせっつかれたって愚痴ってた」
藁?干し草?
それが変なんだろうか。研究って、と私が口を開こうとするより先に、周りの商人仲間達が興味津々に問い質してくれる。
「なんだいそりゃ?傭兵の研究?」
「藁と干し草の何が変なんだか」
ダンディさんは「待て待て最後まで聞け」と言いながら、その間に脳内を整理しているような顔をして、勿体ぶったりせず順序良く話してくれた。
「フリードの首都に向かった隊商の仲間なんだがね、9日か10日前くらいだったと思うんだが、ダニーって名乗る傭兵に真夜中叩き起こされて、魔力を十分吸った藁や干し草を大量に用意しろ、って迫られたって話だ。魔導研究に使うから、お偉い貴族の方が資金を出してくれてて、報酬はたっぷりやるって。魔導院関係かどうか聞いたら誤魔化しやがったらしいから、たぶん違うな」
「うっさんくさーっ」
「だろう?で、おっかねえって愚痴ってたんだよ。金と力で脅されて仕方無かったとは言え、何かの事件の片棒担がされちまったんじゃねえかってよ」
その場の全員が似たような唸り声を出した。私含めて。
それはもう真っ黒じゃないの?
「ふうん。 魔力を吸った藁とか、そんな簡単にいっぱいあるもんなの?」
聞いてみると、金熊さんが鍋を掻き混ぜながら答えてくれた。
「普段ならねえな。 だがな、お嬢さん。国境付近じゃもう珍しくもねえんだよ。ちょっと町の外駆け擦り回ったら、いくらでも集められらぁ」
伯爵様の研究課題だ。戦場で使用される魔法や魔導の余波を吸った植物。動物が魔獣化して人を襲う、原因。それを大量に買った傭兵、うだつの上がらないダニー。
「でもそんないっぱいなら、目立って皆気付くよね?見てる人達に助けてーって言えば良かったのに」
「そこだ。 夜中に、こっそり、誰にも見られない様に、ヨハンソン市の北西の端まで運ばされたらしいんだ。運搬料もたっぷり握らされたって・・・って、オレにすぐ喋ってちゃ世話ねえわな」
わはははは、と笑い飛ばすダンディさん。他の行商人達も呆れたように笑っている。そのたっぷりの運搬料は口止め料だったのだろうけど、人の口に戸が立てられないのは地球と同じらしい。
それにしたってきな臭い話だ。
傭兵ダニーはそれだけ支払ってもまだ、羽振り良く遊び回る事が出来るほどのお金を、誰かからかどこからか受け取ったのだ。
・・・お偉い貴族の方、ね。
「ねえ、それって」
その出来事があった場所とかもっと詳しく聞いておこうと、そう声を掛けた瞬間だった。
ダンディさんの背後、裏街道への道のもっと向こう。遠く大草原がある方角の茂みから、薄黒い何かが沢山飛び出して来たのは。
当駄文をお読み下さった全ての方に、心から感謝致します。ありがとうございます。
以下小ネタ・小話
バルバトリアの公爵家を表す「ジーク」ですが、決して某ドイツ語とは関係ありませんのであしからず。
他の横文字も大抵そうですが、ただの語感で選んでます。
異世界ですから。
主人公の中でもだいぶぐちゃぐちゃです。
自動吹き替え状態はオン・オフが出来ないので、彼女は純粋なバルバトリア語を聞いた事がありません。
なので読み書きから入り、文字から発音を知る方向な訳です。
って、ちゃんと説明出来て無かった気もするのでここで補足です。ごめんなさい。




