39
作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。
誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。
また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。
旅に出てからは、大街道沿いの宿場町の高級ホテルに宿泊した。導師ヴァレンティヌスが公式に出張するのに、その辺の安宿に泊まる訳にはいかないのだとか。毎日面倒極まりない。初日なんてその町の偉いサンが出て来て、夜会を開かれそうになったんだから。
戦地から離れている王都周辺だと、戦争が他人事って人の方が多いのだ。日本人的に物凄く理解出来る心理だけどね。
以来一々戦時中だから挨拶だけで勘弁なー的な言い訳をして回り、自粛という名の平穏をもぎ取る状態が続いている。
私だけリ魔ジンに籠ってちゃ駄目かしら。
この日は王家直轄地を出た事もあり、立ち寄った宿場町擁するラーゲフェルト市の領主が空気を読める人物らしい事もあって、旅立って初めて挨拶回りの無い静かな夜を過ごせた。
と言っても、町並みが賑やかなので、高級ホテル街の一角以外は大変姦しい。
歓迎云々が無い最もな理由はコレだろう。正式に歓待を申し出るにはぶっちゃけ相応しく無い町だ。この国のソッチ方面の価値観を正確には理解出来てないから聞いてみたら、伯爵様曰くラーゲフェルト子爵のこの対応は常識と言って良いらしい。
うん。まあ、何だ。つまりアレだ。歓楽街っつーか、ぶっちゃけ、風俗街。
普通の馬車なら王都から1週間強の位置で、周辺の街々からも絶妙に離れてて、世の男性ならそろそろイイかなあ?的な気分になる、丁度良い立地条件なのだろう。と推測。
伯爵様だって指を銜えてこう言ったくらいの、とっても素敵な夢の街なのだった。
「弟子が男なら迷わず繰り出しているのだがねえ」
「だから私の事はお気になさらずって申し上げてるでしょう?」
ほんと、妙に紳士で変に律儀なんだから。
この数日ですっかり距離感が縮まって、丁寧口調を維持するのが難しくなってきている。たまに本気でおっさん呼ばわりしそうになって、美麗な顔面見て我に帰る始末だ。
「めんどく・・・重責を負ってらっしゃるのです。たまには羽を伸ばしてらしてください」
「めんどくさいのかね」
しょぼんと項垂れて、近付いて来る。風呂上がりの水も滴るイイオトコが、無言でびしょびしょの頭を、洗濯物を部屋干ししている私へ差し出してきた。
流石にお休み前にいつもの分厚いローブはお召しにならないので、シルクっぽい生地のシンプルな黒い丸首のシャツとパンツ姿の伯爵様。暗黒魔導師で無くなった様な普通の人に見えるこの姿で初めてコレをされた時はほんと、全く意味分かんなくてぽかんとしてしまったものだ。
要するにこのヒト、生粋の上流貴族だったのよ。自分で自分の事をしないのが当たり前。
伯爵様は師団長野郎より余程酷かった。いや、あの人は貴族と言うより軍人として生活していたのか。何れにしろ彼との距離感が縮まった最大の要因はコレだ。
失魔症の私の世話をして貰うのと比較しても、断然伯爵様のが手が掛ってます。ちょっと慣れて来たけどね。
「さっきから何回娼館通りへ向けて同じ事呟いてらっしゃると思ってんですか」
その頭の小ささにイラっと来ながら、若干乱暴気味に髪を拭いて差し上げる。本当は白い筈の髪はしかし、どんなに近くで見ても、触っても、引っ張っても、一筋の濁りも無い艶やかな黒に見えた。
「痛い!」
「ああすみません」
「禿げたらどうする気かね!」
大袈裟な。
今日は洗濯物等の雑用をいつもより急いでしなくてはいけないから、余計な手間を省きたい。日中動く居間みたいな馬車に籠りっきりだから体力的には疲れてないんだけど、それ以上に気疲れで夜になると妙にぐったり来る。
着実に近付く戦場。
・・・ああ、早く別室のベッドでゴロ寝したい。
部屋は同じだが寝室はもちろん別。所謂何部屋もあるスイートルーム的な部屋なので、毎日、夜寝る時はちゃんと密室で独りになれる。これが唯一の救いかも知れない。
「だいたいカレン、貴女は女性を求めている男が目の前に居たら、身の危険を感じたり、ロマンスへの期待に高揚したりしたまえ!」
「畏まりました。はい、水気取れましたよ。梳かしましょうね」
「ん、頼む」
基本ボケ気質の伯爵様は最後までツッコミ通せない。これももう慣れてしまった。このまま暗黒魔導師の扱いが上達しちゃって良いのか、悩ましいところである。
翌日、1隔になるかどうか辺りの時間、夜明け前の3時頃にホテルから出る。一睡もしていないが、昼寝し放題なので気にしない。
天候が崩れず晴れ続きの屋外へ出ると、まだ夜だから暗いかと思ったが、この町はどうやら眠らない的なアレらしい。建物の明りが煌々と道まで伸びているし、魔導の街灯がこれまでの町の倍以上の密度で設置されている。
良かった。ランタンが必要無くて。私用のランタンは魔導では無く蝋燭だから、場所によっては悪目立ちするんだよね。
茶色い大判の布を頭に巻き着けて目深に被り、コートの帯紐は4つ外して腰の1本だけにして、リボン結びじゃなく帯に捲き込んでおいた。
少しでも目立たない様に、軒を連ねる高級宿の明りの中、手ぶらで足早に歩く。
その一角を出る直前、数件在る高級ホテル共同の厩の傍を通る時、何気無く目を向けると青毛のブラックサンダーちゃんがこちらを見ていた。他の子はまだ奥で眠っている様で見えなかったが、一番若いらしいブラックサンダーちゃんの円らな黒い瞳とばっちり目が合って、思わず目で会話してしまう。
出発前と到着後はブラッシングをするのが習慣なので、彼らとはすっかり仲良しだ。ぱちりと瞬きした彼女の眼差しが「あれ?どこ行くの?」と言ってる気がする。
おはよ。ごめん、出発準備じゃないの。ちょっと行って来るから、まだ休んでてね。
お馬さんってほんと、知的な目をしてる。犬猫と同じかそれ以上に意思が疎通してる気がするんだよね。この世界で、一緒に居て手放しでリラックス出来るのは間違い無く、現時点では彼らだけだ。
「・・・・・・」
いってきます、と俯きがちに口パクで言いながら高級通りから出て、最も賑わう目抜き通りをそのまま横切る。
魔導の光で明るい中央通りは、こんな時間なのにまだ相当数の人々で溢れていた。数時間前到着した時と殆ど情景に変化が無い。
様々ないでたちの様々な年代の男女が、それはもう露骨に絡み合いながら行き来している。中にはあられも無い姿の者も居るし、完全に泥酔状態の者もあちこちで管を捲いていた。ちょーガラ悪い。
王都を出て5日目、4か所目の町だが、初めて居住以外の目的で発展した町だった。
んー、やっぱちょっと怖いなあ。
でもここは恰好の町なのだ。娼婦が居て、アングラが居て、フリード領に入ってすぐの立地。私のような得体の知れない人間とも、喋ってくれる人が居る可能性が高い。
実はこれまでの3か所の街では、王家直轄地でもあったからか、私は街中ではとても普通にして居られなかった。
顔立ちが珍し過ぎるらしくって。
バルバトリアに限らず周辺諸国でも、純粋なモンゴロイド的な顔立ちの人間は皆無なのだとか。
基本、地球で言う所のコーカソイド系の人種しか居ないと考えているのだ。純日本人の私の顔を見て、驚かない方がおかしい。
私の偽プロフィールに涙軌諸島出身とあるが、この諸島は大陸東海岸沖に実在する。そして大陸西側の国々では、東海岸に関する情報が殆ど出回っていない。バルバトリアの王宮や地下組織でさえ、大まかな事しか分かっていないのだと言う。
だから涙軌諸島出身って言っとけば「え?どこそれ?」ってなって、東海岸沖って言っといたら「へーあっちの人って顔立ち違うんだー」的に納得して貰えるんじゃないか、って狙いなのだ。
うん。道行く人全員とこの遣り取りして回れるワケ無い。かと言ってカレン・コ―ザックの設定を書いて首から下げて歩くなんてのも論外だし。
なので最初の街で、顔を隠して歩く事を覚えたのでした。
しかしそうすると、厄介事を嫌う一般市民には、近寄ろうとしただけでさり気無く逃げられるワケだ。私でもそうする。で、これまでは街中だと超ひとりぼっちと化し、伯爵様がご利用になった店や貴族用の宿屋の従業員くらいしか、碌に話しかけられなかったのだ。
残念ながら、ヴァレンティヌス伯爵のお墨付きが無いと、私はただの不審者なのです。
思えば、クリスたんと伯爵様は規格外だったんだね。
初見から、顔立ちの違いに対する違和感や嫌悪感を、全く感じさせなかった。クリスたんに至っては、最初に出会ったあの時私はあちらの服装だったのに、だ。
・・・微妙なとこだわね。
私の顔立ちの珍しさを予め教えてくれなかった彼らはどうやら、その事を問題視していなかったらしい。器云々じゃ無く、物事を捉える視点がズレてるタイプなだけかも。
もしくは彼らは、私に関して、顔立ちがとんでもなく珍しい事以上に問題視している事があったのか。
取り止めも無く考えながら暗い方へ暗い方へ歩みを進めていたが、不意に、暗さの質が変わった事に気が付いて足を止めた。
・・・なんだろ?なんか、薄ら寒いような・・・。
実際に気温が変わった訳じゃなく、気持ちが滅入る度合いが変わったような感じ。
無論人気の少ない裏通りを目指していたのだからこれは歓迎すべき変化なのだが、その原因が分からないと足が竦んで動かなかった。本能が嫌がってるんだろう。
大丈夫。落ち着け。チャランスが居る。
脳内で唱えて周囲を見渡す。姿も気配もちらとも見えないが、彼の黎明師団の上級騎士が絶賛ストーキング中なのだ。何があっても助けに入ってくれて滅多な事にはならないと思ってるけどほんとはあんまり仲良く無いから微妙かしらー。
「っ!」
と、原因に気付いて、肩が跳ねそうになった。
この国の基本建築様式である石造りの、目抜き通りには無かったうら寂れた家々。どんな景色も広大なのが特徴のこの国では珍しく、建物が犇めき合っていて、私の価値観を驚かさない程度の規模の裏通り。中世から近代のイギリス映画に出て来る、治安の良く無い地方の裏路地の様な。
見るからに、余所者が迂闊に足を踏み入れてはいけない区画。
そう訪問者に理解させるのは、密集して建っている家のどの窓もが暗いという、視覚効果だった。
室内の明りは灯っている。どの家も、こんな時間なのにどこか一部屋は必ず明りが付いていて、光が外へ漏れ出ている。ただし、表通りには無かった色合いの光だ。
明り自体か、窓ガラスか、黒い墨を数滴垂らして濁した様な朱色をしている。
ぐっと数が減った街灯が届かない灰色の石畳を、その明りは音も無く忍び寄る様な不気味さで染め、この先へ進めば陽の下へは帰さないと警告している様だった。
悪寒が背筋を這い上がる。
スラムらしいスラムも無い日本で生まれ育ったのに、これは難易度が高過ぎる気がしてきた。
「・・・・・・・・・」
あああああもうっ!頼むからねチャランス!
勇気を振り絞ると言うよりは、もう何かヤケクソな気分で足を動かした。最初の一歩を踏み出せばもう、後は大丈夫。
どの道この命は風前の灯火なんだから。
燃え尽きる前に、のた打ち回ってみた方が良いに決まってる。
稚拙な作品を晒し、申し訳ありません。お読み下さって、まことにありがとうございます。
以下小ネタ・小話
ご感想への返事に「甘味処を増やす」的な事を書いた頃、この辺りの1回目の調整をしておりました。事を思い出しました。
お話の流れ的にやっぱラブ展開はまだ難しく、番外編書くとネタバレゴメンになるのもあり、悩みに悩んだ挙句違う方向の糖度が増してしまった事を本当に申し訳無く思うっ(24)。
いやほんと、申し訳ありません。。。
ラブ甘に関しては、今執筆中の60話辺りでもまだうすらぼんやりしてます。
読む方によってはうそおおげさまぎらわしい状態に違いありません。本当にすみません。
後半や完結後などで頑張りまげふんげふん。。。




