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作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。
誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。
また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。
バルバトリア王国王都とシェルツェリア帝国帝都は、地図上では意外に近い距離に在る。単純な移動距離で言えば、英雄の生家ベーレンドルフ領までの距離の実に半分以下の近さ。
国の形を遠目で見ると、バルバトリア領土の北東部に帝国が無理やり突っ込んでいるような形だ。帝都の周辺は、北から反時計回りに南東までをぐるりとバルバトリア、東側を別の国々に囲まれていた。
そして国境の南側、バルバトリア側は、全てフリード公爵領が面している。その国境線の東半分が険しい大山脈でなければ、帝都のすぐ南まで公爵領が食い込んでいたに違いない。
帝都が無防備に見える様なこの歪な帝国領土の形こそ、バルバトリアが如何に無慈悲に侵略したかの証だった。
つーか、無節操って言うか・・・。
聞けば、フリード領の東、帝国の南東に位置するザンガという名の国とも、建国当初から続く敵対関係であるらしい。今は国中が反帝国モードだから休戦中らしいが、帝国の件が片付けば今度はきっとこちらとの問題が浮上するんだろう。
何も始まっていない内にうんざりだ。うん。詳しい事は聞かないでおこう。バルバトリアが死ぬほど嫌いになってしまいそうだから。
今回開戦に至った直接的な理由であるところの、シェルツェリア帝国バーソロミュー・エヴァンスド・クサヴァー・エッカート・ロシュフォール・リヴ・シェルツェリア93代皇帝陛下の現在地は、帝都から西南西にあるリ・リーという砦だ。
皇帝のフルネームを二度聞きした事は言うまでも無い。しかも93代ってさ・・・。
ああああやっぱ止めて待って!聞きたくない聞きたくない!
余計な情報でも伯爵様はすんなり教えてくれた。移動中の車内が退屈なのだ。私で暇潰ししようと目論んでおられる。結局文字練習と称して、皇帝のフルネームを50回書かされた。丸暗記してしまいましたよ。ふふふ。超無駄。
そしてこの砦は可愛らしい名前に似合わず永きに渡るバルバトリアの猛攻に耐え、背後の帝都を守り続けた難攻不落の大要塞である。なんでも大昔の皇帝が生涯かけても口説けなかった女性の名前が由来だそうで、最も有名な帝国ジョークがこれに纏わるんだとか。
もう!余計な話挟まないで!
人の緊張も知らず無駄知識織り交ぜてくる暗黒魔導師。めんどくさい。
つまりだ、このリ・リー砦の位置があんまり国境に近く、そこへ皇帝が帝国軍本陣を率いてやって来たもんだから、近隣の国境線が刺激されてしまったって事らしい。
何せリ・リー砦はバルバトリア王都からもとても近い。
リ魔ジンの移動力で言えば、王都―フリード領カルヴァート市都間が10日前後なのに対し、王都―リ・リー砦間は戦時中でなければ15日くらいだそうだ。地図上の直線距離なら、帝都までの距離の更に半分である。
ただし王都東には広大な草原が広がっており、そこは昔から魔獣の巣窟となっているため、王宮からも王都からも、真東へ直線的に伸びる道は存在しない。シェルツェリア帝国へ大急ぎで攻める時であっても、ここを迂回するのが定石である。
戦場で使用される魔法や魔導具から、大気中や植物等に魔力が漏れて停滞、それを摂取し過ぎた生物が魔獣化する。
だから戦争が頻発している王都と帝都の間にあるこの草原は、大昔の大街道を分断して地図上から完全に消し去ってしまうほど、魔獣蔓延る魔力の力場になってしまったのだ。
宮廷魔導院魔導管理室の最大研究課題の1つがコレ。魔力の力場を無効化する手段を探してるんだね。そしてその当代責任者が、今、私の足元でゴロ寝中のぐうたら魔導師様。
要するに、ただでは転ばないどころか、一石二鳥以上の能率が無いと自ら動かないのだろうこの人は、戦争を止めるという目的の影で、本来の仕事もこなそうという魂胆なのである。いつか罰が当たると良い。
さて、私達が今回使っている道はジークロードと呼ばれる3本の大街道の1つ、フリード大街道であります。
ジークは公爵という意味で、バルバトリア王国には3つの公爵家が存在する。
バルバトリアに吸収されるまでは一国の王だった人達の子孫だ。バルバトリアへの忠誠を誓った時に元の国名を捨てさせられたものの、ジークという特別な爵位を設けられて特別扱い受けてしゃーねーな的に納得したのだとか。
つまり国内最大の3つの街道はそれぞれ、亡国王都である公家居城が在る首都へ続く道なのだ。
狙ったのかどうか、この3つの都は王都を真ん中にして、北と南西と南東に綺麗に分散して在った。線で結ぶと二等辺三角形になる。頂点がフリードだ。
王都西門からほぼ真北へリンデ大街道、南西曲がりにムント大街道、そして南門から南東へ向けてフリード大街道が完備されていた。
南東のフリード領首都へ伸びる大街道は、王都の東側は件の草原なので、南門を出るとまず真っ直ぐ南へ向けて造られている。そして草原を抜けてすぐ、フリード領首都へ続く本道と、その他の主要都市へ向けて幾つかの道に枝分かれしていた。
フリード大街道本道は、その分岐点から暫くは真東へ直線状に走っている。エヴル基準の林、地球基準で言う森を挟んですぐ北は、魔獣犇めく大草原。草原部はぼっこりと標高が低くなっているので、大街道は魔の海を横手に見下ろしながら進む地形になっている。
魔獣の存在を忘れて眺めれば、壮大で雄大な大パノラマだ。180度以上の角度で、多彩色の地平線が続いている。道が東向きになってからは遠過ぎるのか森の影になっているのか、王都や王宮が見えないのが惜しい。
しかし実際に走行中の馬車から草原を眺めようと思ったら、相当大きな窓と車高が必要になる。王都からそう離れていないここは通行量が桁違いらしい。草原との境目の森だけじゃ無く、行き来する馬車や人も大パノラマを遮る障害物になっていた。
しかもこの大街道は国の大動脈の1つである為、とんでもない道幅だった。日本の6車線の国道の軽く倍近くある。
基本、この国の全ての道は王城に近い側を馬車が、遠い側を人が歩く様になっていた。その中でも更に、王城に近い側が上り、遠い側が下りという暗黙ルールがある。
草原と並走するここは、草原側の北が車道で南側が歩道だ。その境目は目印も無くはっきりしていないので、こんなに幅広の道なのに、徒歩の人は事故を避けて南側へ南側へ寄りながら歩いている。
一見馬車どもが威張っている風だけど、もっと性質が悪いのがVIP車だ。
車道と歩道の間を、異常な速度で突っ走る。
車輪が無いという利点はやはり、精々が石畳でコンクリが無いこの道路事情では、相当に大きいようで。もっと言えば、このリ魔ジンは余裕の4頭立て。更に更に、この4頭のお馬さん達は現役を引退したばかりの元軍馬だ。
そう、彼の黎明師団で、世界一の足として、つい最近までバリバリ活躍していた名馬達なのである。長距離だと、普通の貴族用馬車の倍近い速度で行けちゃいます。
ちなみに鹿毛に黒い尻尾がリーダーのオグロ君、綺麗な栗毛がマロンちゃん、青毛に栗色の鬣がブラックサンダーちゃん、青毛に栗色の鬣と尻尾がブラックサンダーRちゃん。引退と同時に名前も次世代に渡すからこの子達には名前が無いって言うので、全部私の命名です。まだ個性は掴めて無いけど、皆働き者のおりこうさん達だ。
で、リ魔ジンを含むVIP車は魔導のオートパイロットだから、危険回避などは全て馬任せ。人通りが多いからって、予め速度を落としたりしない。休憩予定場所や目的地までほぼトップスピードのまま。
そこ退けそこ退け、ってヤツだ。なんか無性に恥ずかしいけど、どうこう言える立場でも身分でも無い。ぐっと我慢。
しかしそれでも、黎明師団の機動力の足元にも及ばないらしい。
「昔はここまででは無かったがね。アレが黎明になってあっと言う間だったよ。団員を自分の手で片っ端から叩き直して、気が付いたらあんな滅茶苦茶をするようになっていた」
あんな、の所で伯爵様は軽く溜め息を混ぜた。が、私はとっくにその方向へ目を奪われていたので、浅い頷きしか返せなかった。
王都を出て4日目。突然伯爵様が予定に無い休憩に馬車を停め、街道の北側側道に流れる小川でオグロ君達に水をやりながら、眺めた眼下の大草原。
地球と良く似た色合いの夕焼けの中、耳を澄ませばここまで届く地響きと共に現れた、紺青の軍団。
「良くご覧。蹴散らしているのが見えるかい?」
王宮の東側に在るという専用門から、2日前に飛び出した騎馬師団の群れ。それが今、魔獣の巣窟である大草原のど真ん中を南東向きに真っ直ぐ、槍の形のような陣形で突っ切っている。目を凝らせばその槍は、色とりどりの何かを切り捨てながら進んでいた。
帝国軍のみならず、バルバトリアの他のどの軍隊も避けて通る魔の草原を、英雄を先頭にしたこの軍団だけが道として使う事が出来る。その理由は、魔獣の大群に襲われようがどうしようが、数日間不眠不休で一時も止まらずに蹴散らし進み続けられるからだ。
最短距離を最速で駆ける。
3日もあったアドバンテージがもう無くなった。元より、現地へは彼らが先に着く予定ではあったのだが、やはり、目の当たりにすると胸に迫る。
難無く一直線に走行している様に見えるけど、今現在、この目が見ているあそこの彼らは、命懸けで化け物の群れの中を駆け抜けているのだ。
そして数日後には、切り捨てて進む対象を、人間に替える。
その先頭の一騎から、どうしても目が離せない。
「凄まじかろう。 間近で見るのはお勧めしない。暫く夢に見るだろうよ」
アレは眉一つ動かさずに斬るよ、と教えてくれた先生の声に陰鬱さが宿る。
「相手が何であれ、進む為ならば斬るだろうよ。ああやって」
それが英雄という事なんだったら、私はそんな哀しいものにはなりたくない。伯爵様もそうなんだよね。だから昔、魔薬騒動の時、あのヒトへ英雄業を任せたんだ。
・・・・・・ずるいよ。
「伯爵様、お聞きして良いですか」
これまで抑えていた心の一部が、ぽろり、零れ出た。何故か、逼迫した気分になって、黙って居られなくなってしまった。
なんでだろう。
視界に映る紺青の英雄と、すぐ隣に立つ漆黒の英雄と。
「構わないとも。答えよう」
すんなりと返ったテノールは暗に「答えの内容は保証しない」と言っている。誠実で優しい甘い側面と、辛辣で高慢で厳しい側面と、この人の頭の中身は整理整頓されていて案外見易い。
いや、見える部分を見易い様に整頓してくれているのか。
「私を異世界人と断定した根拠と、戦争を止める為に貴方がご用意なさっている策を教えて下さい。 それから、本当は何をなさるおつもりなのかも」
この人はまだ、見えない部分にある大切な事を、ひとつも教えてくれていない。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
意外にも、苦笑も叱咤も誤魔化しも返って来なかった。英雄の影に巧く身を潜める英雄は、少しの沈黙を挟んでから、飾りの無い平坦な口調で短く答えをくれる。極端な変調に、少し背筋が冷えた。
「・・・どの質問の答えも、貴女が知る必要は無い」
それが答えだった。
それが彼の中での、私の価値だった。
結局、調子を取り戻した伯爵様に背中を押されるまで、夕暮れが夜に代わるまで、真っ直ぐ突き進む紺青色から目を逸らせなかった。
この様な稚拙な作品に懲りずにお付き合い下さって、本当にありがとうございます。
以下小ネタ・小話
バルバトリア道路事情は、他の生活関係同様、格差がものっそいです。
でも、大街道は最も快適・安全ですが、盗賊団出たりで、日本の道路よりは危険です。
あと、貴族は大街道以外の道は極力使わないので、暗殺目的の事故を起こされたりとかもして、案外のんびり出来ません。
また、田舎や辺境と呼ばれる地域の道路は、ほぼ補正されていません。踏み固められただけの剥き出しの地面です。石がゴロゴロしてても普通です。
でも車輪の無いリ魔ジンは割と平気です。お馬さんの足しだいです。羨望の的です。
お馬さんも元軍馬なので、普通の馬車馬より一回りデカかったりします。
エヴル人にとっても近くで見ると超迫力ですので、走行中はどこでも余計めに避けて貰えます。
ぱらりらぱらりら。




