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カレン  作者: f/1
お仕事
37/62

36

作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。

誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。

また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。




 馬車に関して、土足禁止ルールを設けたいと愚図ってみた結果、土足文化で生まれ育ったにも関わらず伯爵様は渋々受け入れて下さった。不潔にしてると病気になる云々の件が効いたようだ。よしっ。

 旅立ち初日は、そうして眠りに着いた。満足感と、解放感と、寝不足によって、失神じゃないのかっていうくらい深い眠りだった。座ってると感じないが寝転ぶと微かな揺れがあって、このリ魔ジンが眠るに最適過ぎるのも、より睡眠を深めた要素だと思う。

やっぱそれだよね、敗因は。

 ともすればぱっかり開いてしまいそうな口。瞬きの仕方を思い出せないくらいキョロ付く目。完全に浮足立って笑いがちな膝。気付くと力一杯握り締めてしまっている手。

 月光宮の壮麗な佇まいに、入る前から大絶賛飲まれ中。

 だってね、1回目を逸らせば良いんだと思って背後へ体ごと向いてみたら、うっかり地平線が見えてしまったのだよ。

 私が来たと思われる道を挟んだ両脇に完璧なシンメトリーの広大な庭園があって、その向こうにお花畑かってくらい色んな色の草が密生する草原みたいのが広がっている。ここは王都の南西に位置するらしいが、その王都と思われる街並みらしき影が地平線の端っこにちっちゃく辛うじて見える。

 この世界基準か、バルバトリア基準か、きっと地球とは比べ物にならないくらい1つ1つの物が大きいんじゃなかろうか。初めてエヴル世界地図を見た時、そんな風に考えたのを思い出した。

見事的中です。おめでとう花蓮ちゃん。

 有り得ない有り得ないとぶつぶつ言いながら、それでも伯爵様が行ってしまおうとするのが視界の端に入ったので、何とか無理やり体を動かす。カツリ、と第一歩目から美しい音を響かせた足元を見下ろせば、地球で言うところの大理石的な輝きの地面だった。

 大階段だ。

 馬車を置いた玄関前広場から玄関口まで続く、象の群れでも通るのかってくらい幅広な白い大階段に再び圧倒される。一段毎の段差は低くて控え目だけど、段数と幅がとんでもない。

敷いたの?この規模の階段全部に、この光度の石を敷き詰めたの?

「カレン、いっそ気を失ってくれたら抱いて行けるのだがね」

 もう随分先へ行ってしまった伯爵様が、声を張り上げてそう言った。立ち止まって振り返っているということは、今日は待ってくれるつもりがあるのだろう。エサを与えておこう。

「そう仰らないでください。下手したら玄関前のお庭だけで私の国の皇居より大きいんです。冗談抜きで腰抜けそうなんですよ」

 案の定地球に興味が有るっぽい伯爵様ははたと表情を変え、その場で腕組みをして考え事を始めた。よしよし。でもこのアオリ角度でそのポージングは、ただの踏ん反り返った偉そうなヒトですよー。

 しかも周囲が全て陽光照り返して輝かんばかりの白色系なのに、目深のフードまで真っ黒な彼は浮き上がって見える様だった。明るみの中にぽつんと置き去られた小さな闇のよう。タイトルは「迷子」。

 ともあれ声を上げたのが良かったか、これをきっかけに漸く開きっぱだった口を閉じれた。写真撮りたいなくらいまで考える余裕が出来る。写メでなく高画質のデジカメでね。


 気を取り直して辿り着いたこれまた豪奢な玄関口には、シンプルだが一目で上質と分かる薄紅色の服装の老紳士が笑顔で待ち構えていた。生地がベルベットに似た光沢で、カンフー映画の武芸者が着ている様なチャイナ服に西洋テイストを足した、微妙なような絶妙なような不思議なデザインだったのが印象に残る。

 新発見は、エヴル人も年を取ったら白髪になるっぽいって事。この紳士は60歳前後に見えるが白い物が混じる髪は所々艶やかな黒で、元は伯爵様のような烏の濡れ羽色だったのだろうと思わせた。

あ、伯爵様の黒髪は偽物なんだっけか。

「導師ヴァレンティヌス様、コーザック様、ようこそおいで下さいました。主が待ちかねております。どうぞこちらへ」

 挨拶したりお名前を聞いたりしないのがマナーなのか、伯爵様が偉そうに「ふむ」とか言ったっきり黙って彼へ続くので、私が何か言う訳にもいかず同じ様に黙って着いて行った。玄関扉もその中の内装も凄かったので、お喋りしても良いと言われても何も言えなかったろうけど。

 外壁と同じ様式の巨大扉が魔導で開かれたらまず、エントランスホールに出る。壮麗極まるロビーだ。ただでさえ天井が高いのに、最上階までぶち抜いた吹き抜けになっている。またあんぐり口が開いてしまいそうだったので、じっくり見ない様にした。

やっばい、上の方この視力でも霞んだよ!

 玄関扉から正面向かいにはバーカウンターがあり、その手前にはあちこちへ大きなソファセットが設置されていた。その分広さも凄まじい。音が響く石造りの屋内じゃなかったら、端から端まで、叫んだって肉声が届くかどうか怪しいくらい広い。

 バックバーにも瞬きを忘れそうな量の瓶や水差しが美しく並べられている。殆ど芸術だ。しかも後に聞いたところによると今日の来客は私達だけらしいので、怖ろしい事に全て常備品かと思われる。

 そして調度品は言わずもがな、ソファや絨毯にも外壁と同じ銀の模様が入っていて目が回りそうになった。見れば、階段の手摺りにさえそれがある。ホール正面の両端には大きくカーブを描いた階段があってどちらからでも上階へ行ける様だったが、その手摺りの模様を見るだけで近付く事も無かったけど。

 何か意味のある図柄なのだろう。私には、象形文字なのかマークや記号なのか判別が付かない、不思議絵柄としか認識出来ない代物だ。一定の法則に従って、何種類かの細い図案の折り重なりが繰り返されている。

綺麗だなあとは思うんだけどね。

 歩きながら窓から玄関と庭を見下ろせる様にだろうか、前庭から室内が見えない様にだろうか、エントランスホールの両サイドはそのまま1階の廊下へと繋がっている。私達がこの時通されたのはその左手側の廊下にある1番手前の応接室だった。

 その室内も然り。王妃様の寝室を彷彿としたくらい、淡い色で統一された美麗な内装だ。

 ここは全ての空間が、明るい。

 黎明棟とは比べ物にならないほど、たっぷり設置された窓から明かりが取り入れられる造りになっている。やはりあそこは軍事施設だったのだと再認識すると共に、ここを価値観の基準にするのも絶対止めとこうと心に誓った。

「大丈夫かい?」

 余程疲れた顔を晒していたらしい。骨髄反射で再会の挨拶を完璧にこなしているつもりが、パパ侯爵様は挨拶の次の言葉で私を気遣ってくれた。しまった。

まあでもしょーがないじゃんね?

 出不精で海外旅行経験の無い日本人の目の前に、ヨーロッパ随一の観光名所みたいな代物をいきなり持ってこられたら、誰だって5分で気疲れ起こすって。

「ここへ来てからずっとこの調子なのだよ。先が思い遣られる」

 伯爵様がソファへ身を沈めながら鼻で笑う。そのシルバーホワイトのソファもテーブルも大きくて美しく、美貌の魔導師にぴったりお似合いだ。

 しかしてお叱り通り、余りにも酷い無様を晒している自覚はあったので、ちょっと真面目にパパ侯爵様へ謝罪しておいた。

「申し訳ありません。こんなに大きくて美しい建築物を見たのは初めてで、心が受け止めきれなかったのです」

 世界で最も美しい応接室、と言われても信じてしまいそうな、決して過度では無い秀麗な美を持つ調度品群。曲線の多い切子としか思えない造作の淡いラベンダー色の花瓶が一番濃い色で、8割以上は銀や白色系で纏められている。

 その花瓶にも他のどこにも花等が活けられていないので、部屋の色の印象はどうしても白銀だ。

うん。きっと庭を引き立たす為に違いない。

 廊下の反対側の壁はガラス張りで、中庭と思しき幻想的な庭園が全面に映っていた。信じられないほどの量の見た事無い草花が咲き誇っていて、庭の端っこが見当たらない規模だ。世界中の色という色が集まってるんじゃなかろうか。中には発光してんじゃないかってくらい鮮やかな物もあった。

 調度品の色彩が過剰なくらい纏められてるのも、室内には一本も花が活けられてないのも、この庭を引き立たせる為と考えれば心穏やかで居られそう。よし、コレ採用。

 謝罪した後もあっちこっちへ目を奪われる私に、パパ侯爵様はとっても優しく微笑んで、動けず固まっていた私の背をそっと押してくれた。

「取り敢えず座ろうか。疲れているだろう?」

「え?座って良いんですか?」

 いけない、しっかりしないと。また気を取り直すよう自分に言い聞かせながら、侯爵様と伯爵様を見比べる。どちらも少し、苦い表情をした。

「もちろんだとも。貴女は僕の友人で、親友の弟子だ。今は大事なお客様だよ」

 分かってる。貴罪者用のあのワンピースはもう脱いだ。私を犯罪者として扱う人は、ここには居ない。事実上放免になったんだ。

 代わりに、囮としての身の危険が迫るけれど。

「そうでした。申し訳ありません、ぼんやりして」

 暗に設定が頭に入って無いのではと言われ、ご心配をお掛けしてしまった事に大反省。もう一度頭を下げ、伯爵様の隣に座る。仕事だ、と脳裏に言葉を浮かべれば調度品や庭園への興味は落ち着き、ちゃんと集中力が戻って来た。

・・・なんだ。仕事って念じるだけで良かったのか。


 そうだった。ここは日本どころか地球ですら無いかも知れないが、その事は私が私で無い理由にはならない。

 よし。まだ大丈夫。






 この様な稚拙な作品にお時間を割いて下さり、まことにありがとうございます。



以下小ネタ・小話

 次話にて「お仕事」の章が終わります。

 

 という初の予告をしてみましたが、深い意味はありません。ごめんなさい。

 最初、プロローグからこの章までを「王宮編」とし、次章からを「戦場編」に別けてシリーズ物にしようかとも思ったのですが、まだ完結まで書けていないので編仕立てに纏められそうになく、大人しく1作品にしときました。

 1作品につき何話まで、または何文字まで投稿出来るのか知らないので、実はちょっと怖いんですが。まだまだ続きますし。。。

 ともあれ、主人公、とうとう旅立っております。

 ここまでは、明瞭で前向きで一気に視界が広がる如何にもな「旅立ち」って感じでは無く、ぬるっともやっとこっそりと旅立っちゃった感が出ていれば幸いです。


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