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カレン  作者: f/1
お仕事
33/62

32

作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。

誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。

また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。




 ご褒美を取り付けた後、さっさとクリスたんを本宮へ追い帰した。忍ぶ時間は短ければ短い方が良い。

 パパ様に会ったよーとか、1回世間話とかしてみたい気持ちもあったけどね。

 護衛役の伯爵様ごと見送って、暫く、日中は会議室を出られない私はぼんやりと、師団長野郎の大きな紺青色の軍服を眺めていた。

 私の部屋には干せないのでこの会議室の窓際の角に太いロープを渡し、そこで師団長野郎の衣類を干してるのよね。生地の柔らかさの割に重い大きな長衣が案山子の様に両腕を広げるポーズで、上から目線でこちらを眺め返してる様な気がする。

 下着まで紺色なのがポイントだ。でもまさかボクサーパンツがヤツの標準装備なんてねえ。怖いくせに普通だがしかし生地は分厚い皮!何なのこのゴツさ!キモ怖い!

 決して陥ってはならぬ方向へ思考が行こうとするので、何とか余計な情報を取り入れて気を逸らそうとした。けど、同席者が余計な口を挟みやがって失敗する。

「あんまりワガママ言わない方が良いっすよー。カレンさん、立場分かってます?」

うっさいわハゲ!

 今のところ禿げたエヴル人には会った事ありませんが。荒みきった内心は、師団長野郎のパンツ並みに分厚い面の皮で隠す。チャランスは一体どれほどの狸なのか、無能な私には推し量りも出来ませんよ。ケッ。

 「ご忠告感謝致します」だけ言ってにっこり振り返った先には、全く気負わないのんびりした笑顔があった。

「あとねー、あんまり触んないでくださいね?」

 私から触ったんじゃないんですけどっ!と喚きたい気持ちをぐっと飲み込む。

「・・・そうでした。申し訳ありません。以降気を付けます」

 伯爵様は「失魔症は感染症では無い」と言い切った。実際、ずっと傍に居て私の傷を手当てしてくれたりもしたアンマリちゃんは、未だ失魔症になる気配すらない。毎日変わらぬ完璧侍女のままだ。コイツもそれを傍で見ている筈だ。

それでもこの言われ方・・・どうしてくれよう・・・。

 攻撃的な気分になるが、もちろん現実には表情筋の一筋にも不快感を乗せられませんのであしからず。

「導師や師団長はほら、普通のヒトじゃないっすから。あの人達を基準にして、他の人と接しちゃダメっすよー?」

 丁度良く話題を逸らせそうな言い方をしやがったので、精神的に余裕が無い私は咄嗟に食い付く。師団長野郎と同じ制服の胸元を肌蹴ているチャランスは、だらしなく椅子に座って寛いでいるが、同時に、次の瞬間腰の剣を抜いて斬り掛かってきそうな容赦の無さも窺えて、怖い。

 この怖ろしさは、師団長野郎より、王様君に感じた怖ろしさに近い。

 彼に殺される時は、私への嫌悪や憎悪が動機だと思う。

「そう言えば、師団長様はどういった英雄でいらっしゃるんですか? 伯爵様が特別なお立場である経緯はさっき窺いましたが、私、師団長様のは聞いた事無いんですよね」

「え・・・ああ、そういやさっきのでもハショられちゃってましたね」

 そう言ってチャランスが浮かべた苦笑は、極普通の若者に見えるものだった。このクソガキの嫌なところはココだ。根は悪いヤツじゃない、っていうのが見えるところ。

 極論、悪いヤツなんて居ない。誰だって親密な相手や大切な人には優しいものだ。分かってるんだってば。

「師団長はねー、えっとさっきのでいくと・・・『白い魔獣』が導師の薬で無効化して、でもそれ以上に北西部は荒廃したーって、あったでしょ?」

「はい。弊害、ってやつですね」

「そうそう。でね、たぶん、キレちゃったんだと思うんっす」

・・・は?

 たまにあるんっすよねー、とチャランスは苦笑しきりだ。若干右の頬が引き攣っている気がするが、その理由はすぐに説明された。

「師団長、あんまり我慢強いヒトじゃなくって、なんつーか、色々面倒になるとブチ切れて、問答無用でごり押しな力技で状況掌握しちゃったりするタイプなんっすよ」

「あー、なるほど」

 物凄く納得してしまった。そんな感じだ、あのヒト。三白眼で悪党面だから、というのは偏見かしら。

 チャランスはそこからは自慢げに語った。


 獅子がダニの影響で薄汚れた猫になってしまった頃。

 最も被害が大きかったのは、大陸西海岸北部のベーレンドルフ領だった。

 望む海の向こうにはヴァレンティヌス領、北は歪に抉れ出た半島にシュテンベルク領と王家第二直轄地、南は地続きのロレンシア領。どの主要都市とも航路や街道で直結していた師団長野郎の実家は、領主夫妻を亡くして壊滅の危機にあった。

 お母さんだけではなく、魔薬騒動前に領主であったお父さんまで亡くしていたらしい。祖父母などご親戚も、騒動の中で殆ど喪ってしまったという。

 その状況に領民は誰もが絶望し、荒廃に益々拍車が掛った。ヴァレンティヌス領や王都から支援が来ると、暴動が起きるほど荒れた状態に陥っていた。

 という状況にブチギレしたゲルハルト君13歳。緊急措置的に爵位を継いで当時伯爵様だったにも関わらず、その立場も弟もほっぽって現場で大暴れ。幼少期から天賦の才があったとかで鍛えられていた彼は、領内のあちこちで暴動鎮圧、支援物資の警護運搬、病人怪我人の手当て、壊れた家屋や施設の修繕、魔導設備の修復・・・等々、とにかく片っ端から自らの手で行っていった。

 暫くもしない内に、幼き伯爵はそのカリスマ性を発揮。自領民の若者達を中心に、見る見る活動参加者を増やしていった。

 これを知った友人のヴァレンティヌス伯爵様が、いっそ大々的にやっちまえと組織を結成。「白い魔獣鎮圧旅団」と名乗り、団長をロレンシア侯爵様に、副団長を自身にして、師団長野郎を全力サポート。その活動範囲をベーレンドルフ領に限らず、『白い魔獣』の影響があったバルバトリア北西部全域とした。

その頃から暗黒魔導師は鼻持ちならない策略家だったのね。怖っ。

 解毒剤を開発した英雄の名と侯爵家の名を使えば、資金や物資、人材を集めながらも、下心有る権力者の介入を最低限に抑える事が出来る。実際に現地で活動しているのが不幸な少年伯であれば、広告塔は新たに用意する必要も無い。しかも最後に祭り上げられるのは、人々と共に血と汗を流したその少年だ。

 自分は後の面倒事から上手く抜けられるワケだ。

 事実この活動が北西部の、ひいては国家の危機を救い、少年ゲルハルト・イル・ベーレンドルフは「西海岸の小さな英雄」と呼ばれ国中から称えられた。後に別の活躍をした折に甘い部分が取れて「英雄」と成り、伯爵位を捨てて黎明騎士伯爵の称号を得るが、その基盤がこの時に形勢されたのだ。


 踊らされているのは、私だけでは無い。


 部屋の隅の英雄の服を、今度は複雑な心境で見遣る。同情か共感か判別が付かない中、チャランスは至極軽い調子のまま続ける。

「それで古代ヴァレンティア人ブームとかちょー流行って、今でも国民の憧れーって感じっす」

「古代ヴァレンティヌス人?」

 ぼんやり聞き流した中に初耳な言葉を見付けて、我に帰る。えっと、何の話だっけ。

「ア、ですよ、ヴァレンティア。もしかして導師から教わってなかったり?」

「ヴァレンティア、ですか。初めて伺う言葉です」

「マジっすか。ほんと導師って控え目っすよねえ」

・・・・・・・・・控え目?・・・誰が?

 物は言い様、とはこの事ですか。内心では完全にぽっかーん状態だったが、狸君とマンツーマンな時に素直に表情へ出す気にはなれず、それこそ控え目に先を促す。

「あのね、色素、薄いでしょ?」

 という語り口で何か分かってしまった。要するに、これもある種の差別だ。いや、ちょっと穿ち過ぎかな。

「古代ヴァレンティア人は、バルバトリア王家のルーツっす。北西のヴァレンティア群島が発祥の地で、ヴァレンティヌス領が8割占めてんですけど、残りは今でも王家の直轄地っす」

 例の建国物語だ。大陸に渡って来た傭兵旅団は戦闘部族の精鋭達で、残りは無論そのまま残ったのだ。建国後も、自分達の母体であり故郷であるヴァレンティア群島は別格で優遇したのだろう。

 ヴァレンティヌス伯爵家は、その母体側の統治を任された人の子孫という事か。

「だからね、遠い遠い親戚なんっすよ。陛下と導師は」

 チャランスの声が鋭く尖る様な気配を混ぜ、明るい茶色の瞳にははっきりと不快感を乗せた。部屋の温度が下がったかの様な悪寒に、二の腕がざわりと鳥肌を立てる。

「アンタが普段気安く接してるあのヒトは、ただの魔導師じゃないんっすよ。百年ぶりの先祖返りで、宮廷魔導院史上最年少の筆頭魔導師で、救国の英雄で、陛下の遠いご親戚で、師団長とロレンシア侯爵の親友なんっすよ」

 純粋な嫌悪が肌に刺さる様だ。若い男の子に面と向かって悪意をぶつけられる事が、どれほど私の心を抉るか知ってるんだろうか。根暗根性発揮しそうになって、慌てて気力を振り絞る。せめて平然と笑って見せなくては、泣いてしまいそうだ。

「・・先祖返りって、赤い瞳の事ですか?じゃああの髪の色はやっぱり染めてらっしゃるのですか?」

 途端、取っ付き易い若者の顔と空気を被り直した狸は、今の悪意が嘘のような陽気さでベラベラと喋った。

「そうなんすよ!ピアスの1つが髪を黒く見せるための魔導具になってるらしいっす。師団長に聞いたんっすけど、ほんとはそりゃあもう綺麗な真っ白らしいっすよー。陛下みたいな銀じゃなくて、ほんっとに白いんですって。 そうそう、古代ヴァレンティア人の血は白いって噂があるんすよね。それはさすがに眉唾と思いますけどー。 まあ、だからヴァレンティア群島とその近辺には白っぽい人が多いんすよ。あ、あと王家ね。 しかも大体どえらく強いんっす。体力も腕力も魔力も反則級で。師団長もほんっと典型的っすよね。隔世遺伝的な?白くてーデカくてー強過ぎー」

・・・そういうことか。

 差別意識と言うより、選民思想が強いのだ。そしてたぶんこれこそ、伯爵様が何度も私に警告している実情なのだろう。決してチャランスが特殊なのではない。数日後に飛び出す世間の、殆どの人がこの考え方を持っていると考えて損は無い。

 日本にだって差別意識や選民思想はある。人種は言わずもがな、格差社会だの何だの、職種自体や社内階級にある種の付加価値が存在する事だってざらにある。血筋もそう。それらのより「上」を手に入れる為なら、ある程度の非道はやむなしと考える人だって少なくない。

 それでも、無責任に差別発言をする人の方がずっと少ない。腹の中は別としても。

 相手を傷付ける、って分かってるから。

 そして例外無く私もその価値観に染まっている。ええ、骨の髄まで染まり切ってますよ。

 人を色や形で選り分けるもんじゃない。ましてや、体質や血筋を理由に「優秀で当然だ」みたいな言い様、当人の努力や苦悩を馬鹿にしてるとしか思えない。逆も然り。

 この世界の人間は、私とは内臓の造りや血の色が違ってるかも知れないけど、心の痛みは似た様なモンの筈だ。

 それは王妃様の涙が証明してる。

「ロレンシア家も白いっすよね。侯爵閣下は昔、陛下を暴漢から庇って右足、失くしたんですよ?知ってました?んーでも身長は閣下も妃殿下も普通っすね。 あ、師団長もほんとは色白なんっすよ?仕事柄日焼けしてますけど。弟さんは妃殿下並みに色白だったっす!導師ほどじゃないっすけどね」

「ランスさんも、古代ヴァレンティア人に生まれたかったですか?」

 聞くに堪えず、口を挟むと即答された。当然のように。

「まさか!恐れ多い!」

もう結構です。

 お腹一杯。後は文字練習をしながら適当に聞き流して、伯爵様のお帰りを待ち望んだ。


 早く戻って来て、あの胡散臭い笑顔を見せて欲しい。

 私がまだ、軽口を叩ける価値観を繋ぎ止めている内に。


 そうして暫くの後、戻ってきた伯爵様の望んだ通りの笑顔を見て、心底ほっとしたのは言うまでも無い。彼から貰った指輪が無ければ、知恵熱でも出していたに違いない。顔が引き攣っていたか青褪めていたかしたんだろう。目が合うなり、伯爵様に心底呆れた様な苦笑をされてしまった。

「お昼寝でもしようか、カレン。貴女は思いの外、器が小さい」

 余計なお世話である。


 地球の白皮症とは違って、先祖返りの特性だったらしい、赤い瞳と白い肌。

 私を保護し、利用し、戦場へ連れて行く、漆黒の魔導師。

 その指に絡む操り糸は何人分あるのだろう。そんなに沢山絡めて、食い込んで千切れたりしないのだろうか。

 せめて彼が、他人の心の痛みを知らない人なら、まだ救われたのに。






 自己満足作品にお付き合い下さって、本当にありがとうございます。



 本作は戦争に纏わるお話でもありますが、異世界人一人称でお送りしている為、戦争に関するあれこれは本編では殆ど詳しく語られません。

 戦況や内政を掘り下げる作品では無いので、そっち方面への過剰な期待はお捨てください。

 しかし主人公の立場上、今後若干そっちの描写も出ます。

 戦争という言葉に少しでも苦手意識をお持ちの方は、お読みにならない様お願いします。


 そもそもその辺りの書き込みが出来ない筆力不足を誤魔化す為の一人称なのですが、その一人称の裏で物語が進んでる感の出し方さえ分からない始末です。精進します。。。


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