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作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。
誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。
また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。
結果を言えば、この国は今、渦中にあった。長年引き摺った諸々が、佳境を迎えようとしている。その中心人物の何人かが、私が関わっている人達なのである。
私は何かの問題に巻き込まれたんじゃないかと、先日予感した通りだったワケだが、規模はやはり想像のずっと上を行っていた。
王政国家に良くある、血で血を洗う悲劇。
可愛らしいぷっくりした唇から零れ出た、物語は始まりから血みどろだった。
私の顔面をにじにじしちゃったあの王様君のお祖父ちゃん、バルバトリア28代国王の御世、大昔から戦争を繰り返していた隣国の1つ、大帝国シェルツェリアとの関係が緊迫状態となった。
形勢が不利になって焦った帝国側の失策が原因とかで詳しくは語られなかったが、伯爵様曰く「卑劣で愚劣で下劣」な事をされたバルバトリア側の国民意識が、完全に反帝国モードになったらしい。
しかして長きに渡る侵略戦争に、バルバトリア側も一気に攻め込むほどの余力は無く、爆発寸前の国民感情を抑える事を第一とした。
実はその数十年前まではこの大帝国が世界一の大国で、バルバトリアはその領土の半分以上を勢いで攻め獲っていった経緯から、国内外で微妙な舵取りも必要となっていた頃合いだった。もっと言えば、これ以上大量に国土や国民が増えても対応し切れない、なんてお粗末な展開も予期される内情だったらしい。
そんなこんなでバルバトリアが出した案は、無難に人質を取って休戦に持ち込む事だった。
お姫様寄越せー、したら許すー。おまけに侵略も止めたげるー。
で、時の皇帝は泣く泣く可愛い第一皇女を敵国へ嫁がせるのだが、皇女様自体はまんざらでも無い様子でやってきた。
何故なら嫁ぎ先は最強の軍事国家の第一王子。それも、美形で強くて聡明で優しいと評判の。
世界最高の文明国の王城で贅沢しーの、嫡子を産んだら威張り散らしーの、息子が玉座に座ったら好き放題しーの。むしろ彼女にとってはこれ以上無い結婚だよね。
でも、そんな素敵王子様に恋人が居ない確率なんて低いワケで。
彼は幼馴染で初恋の相手である公爵家令嬢と、その頃にはとっくにラッブラブだったのである。結婚の約束もしていたし、周囲の人達どころか、国内有数の美女で気さくな才女だった彼女と王子様の仲は国中の民に支持されていた。
だから、体裁的に皇女と結婚した直後、同じ後宮に令嬢を側室として迎えた王子様を止める事は結局、誰にも出来ず。
そして最悪というか当然というか、令嬢は後宮入りしてすぐ、皇女様を差し置いてご懐妊、あっさり男の子を産んでしまった。このお世継ぎこそ29代目国王、あの王様君である。
ああ・・・1つ、飛んでる。先代は、28代目は、お祖父ちゃんだ。
誰しもに心から祝われた次期バルバトリア王正妃は、シェルツェリア皇女では無かった。これが各事情を悪化させたのは言うまでも無い。挙句の果てに、やっと皇女様が男の子を出産しても、そのお祝いが終わらない内に令嬢の第二子懐妊が発表される。
元々悪感情が高まっていた敵国から来た皇女様の疎外感は、想像を絶するものがあったと思う。きっと有る事無い事言われたろうし、陰口とかまでならまだしも、下手したら陰湿な嫌がらせとかも受けたんじゃないだろうか。一番マシなケースを想像してみても、自分の世話をしてくれる侍女から見ず知らずの国民まで、皆が皆冷めた目と態度で接して来る感じ。怖過ぎ。
でも、そこに同情する間も無く聞かされたのは、その直後から始まる怒涛の展開。誰もが遣り切れ無い、惨い話。
まず、令嬢第二子懐妊発表から数日後、王子様の最愛の人が毒殺される。妊娠初期の為お腹の子も助からず。毒を盛った侍女は同じ毒で自害していた為、首謀者は不明のまま。
不明ですってよ!って言うか、首謀者は皇女様って考えるのが普通よね。○奥的に。
ともあれ王子様はまず、2人のご子息の保護を優先した。国としても王位継承権保持者の保護が最優先に決まっているが、この時普通の精神状態じゃなかった彼がその陣頭指揮を執ったのが間違いだった。
漸く迎えに来てくれたと思った王子様に、拠り所だった息子を無理やりに取り上げられ、彼女を一切顧みない彼に冷たくあしらわれ捨て置かれそうになった皇女様は逆上。なんと、その場で王子様を刺し殺してしまった。
もちろん周りには侍女やら近衛やらが居たので、即座に貴罪人用の監獄へ移送、投獄された。帝国は彼女の返還を要求したが、激怒したお祖父ちゃん王もバルバトリア国民もそんな要求を飲む筈も無く、両国間の関係はここで史上最悪の状態を迎えた。
もう冷静という言葉はバルバトリアには無く、国内での反帝国運動を、王が公然と黙認したからさあ大変。国中のあちこちで、特に皇女様が投獄されている監獄周辺では、反帝国過激派組織が大手を振って活動しだす。皇女様を処刑して、首を晒して、帝国と全面戦争しようぜ的な事を訴える活動だ。
そんな中、良からぬ事を企む有象無象が好機と見て動き出した。その内最も愚を犯した人物は、野心多き若者、シュテンベルク侯爵子息のディートリッヒだった。
証拠が無いからと今でものさばっているから、この名前は良く覚えておくように。
底無しに陰湿な笑顔の暗黒先生にそう言わせた彼は現在、この黎明騎馬師団と同じ王室騎士団の、闇夜魔道師団の師団長を担っている。闇夜騎士伯爵として、この王宮に仕えているのだ。
つまり、世間的には彼は、騒動の折に功績を上げた英雄である。
しかし現実には、彼は当時、怒りに身を起そうとする獅子の如き状態だったこの国に、ダニを蒔いた張本人だそうだ。
伯爵様と一部の人達はその事実を知っているらしいが、決定的な証拠を掴むには至らず、断罪するのは事実上不可能であるため、現在、彼の動向に最大限の警戒をする、という対応しか出来ないのだとか。
詳しい事は話してくれなかった。と言うより、主に語っているクリスたん自身、詳細を明確には知らされていないようだった。うん。だって年数を聞いてると、ここまではクリスたんが生まれる前の話だ。しかも内容が内容だけに、大人達も詳しく話して聞かせる事は避けているに違いない。私でもそうする。
だがそれに不満があるのか、時折伯爵様へ補足説明を頼むクリスたん。若さ特有の真っ直ぐさ。その様子がどこまでも、私に対して誠実であろうとしている様にも見えた。出来るだけ詳しく、正しい話を聞かせようとしてくれている。
正直、あんまり急に色んな話をされても受け止めきれないんだけど、でも、こんな姿を見せられて否も言えない。見えない何かと必死に戦っているような、悲痛な表情で強張り続けているクリスたんに、ちょっと安心させる様な笑みを浮かべて、頷いて見せた。瞬間、何故か泣きそうな顔をされたけど、踏み止まったらしい。
当たり前のようにクリスたんの要求を受け入れない伯爵様にもめげず、彼女は結局、最後まで話し切るまで何度となく、伯爵様へ要所要所の詳細を要求し続けた。
うーんなるほど。クリスたんは確信してるのね。伯爵様が全部、知ってるって。
で、小豆の話・・・じゃなくて、ダニの話。
『たった数ヶ月で、獅子のようだったこの国を、薄汚れた野良猫にしてしまうくらいに、ね。』と言ったのは伯爵様だった。
私が食べた薄味砂糖菓子はダミーだったけど、この時ディートリッヒ青年が使用したのは無論、本物の方。魔薬『白い魔獣』。
・・・麻薬、じゃなくて、魔薬、ね。
背筋を、胃を、何か冷たいものが降りる気がしたが、敢えて無視して聞くに徹する。
ちなみに魔獣というのは架空の獣の事では無く、実際に存在するモンスターみたいなものだ。つい先日のお勉強会で叩き込まれたエヴル事情の1つ。野生動物が空気中や食物中の魔力を過剰摂取してしまった際に起こる変異を魔獣化、また変異後の生物を指して魔獣と言う。
王家の象徴である白という言葉と、人を襲う怪物を差す言葉を結び付けた名前の由来は幾つかあるらしいが、一般的なのは効果の見た目。事情通の間では、最大の被害者を暗に示している名だとも言われている。
ディートリッヒ青年がバルバトリア北西部へ密かにこの魔薬を蒔いた時はまだ、名前が無かった。彼が開発したのか、昔からあったのか、その辺りは定かではないが、魔獣の血から魔法で精製するこの毒薬は今から14年前のその時、初めて歴史の表舞台へ現れた。
効果は疲労回復と塩化。
まず、服用直後から体の疲れが嘘の様に回復し、体力が倍増する。集中力も高まり、重病や重傷の者まで回復の兆しを見せる。その後暫くは何事も無く過ぎるが、極めてゆっくりと、服用者本人も気付かぬほどゆっくりと、内臓が塩化していく。
そしてある日、真っ白な塩を吐いて、異常に気付く。
痛みが出だした頃にはもう手の施しようが無い状態だが、大抵、多少塩を吐く程度の時期にはまだ殆ど痛みが無い。そして痛みをはっきり自覚する頃から急速に進行。大量の塩を嘔吐・排泄し、そのまま死に至る。
この魔薬の怖ろしいところは、服用者の排泄物や体液が同様の効力を得る特性である。吐いた塩のみならず、感染者の汗や唾液や血液といった体液等を、ほんの少し取り込むだけでも感染するのだ。
これによって未知の流行病か魔術と考えて治療に当たった者達が、皮膚からの吸収等で次々に感染。まず医者と魔導師が激減し、次により知識の無い者達が看病に当たった結果、あっという間に、爆発的に、この呪いの様な毒は広まって行った。
実際に魔薬を服用した人物は少なく、伯爵様はこの感染力こそをダニと揶揄したのだ。
そしてこの時、クリスたんのママであるパパ侯爵様の奥様と、パパ侯爵様のお父上、更に師団長野郎のお母さんが、この魔薬被害に遭って亡くなっている。この3名は同時期に感染し発症、死亡した。
特にクリスたんのママさんに至っては、クリスたん出産後の肥立ちが悪かったからという理由で、当初最新の体力増強剤と言われていたこの魔薬を、苦心して手に入れて服用したらしい。それをクリスたんが平静を装って話す姿を見るのは、胸の奥をきつく引き絞られる様な心地がした。
そんな彼女が唯一、ほんの少し頬を緩めて語った件は、『白い魔獣』の解毒剤について。
何を隠そう、目の前の赤い瞳の魔導師が、その開発者だそうで。
当時既に友人であった師団長野郎やパパ侯爵様の状況を見て、伯爵様は感染の危険を顧みず無我夢中で魔薬と感染経路の研究をし、ついに解毒薬を完成させた。それが誰もが驚くような短期間だった事で、伯爵様も英雄的な人物として称えられているんだそうだ。
クリスたんが余談を挟んだのもこの時だけだ。伯爵様も「それは態々語るような事じゃない」と苦笑しきりだった。
でも、その功績によって最悪の魔薬被害が食い止められたのも事実。彼の脅威に晒されていた人々にとって、伯爵様は救世主だったに違いない。そういうのはこの人の柄じゃない様だし、動機は純粋に友人らを助けたかっただけなんだとしてもね。結果型の英雄だ。
ちょっと、伯爵様、格好良いじゃないの。
しかし、魔薬被害が鎮静化しても、最早事態は深刻だった。
バルバトリア北西部はその頃には既に未曾有の大混乱に陥っており、治安が荒れ、農耕が滞り、人が寄り付かなくなり、商業が廃れ、衰退の一途を辿っていたのである。
特にベーレンドルフ領は渦中のど真ん中にあり、その南隣であるロレンシア領も北部はほぼ絶望的。ヴァレンティヌス領は海を挟んだ島である為直接的な被害は少なかったが、領港の4割がベーレンドルフ領、3割がロレンシア領へ向けて造られていた為、荒廃が酷くなって来ると物や人の流れに深刻な影響が出た。
無論バルバトリア国内全体への影響も甚大だった。国土のほぼ真ん中に位置する王都以北が、国の半分近くが、たった数年で、大文明国家の中にあって見る影も無く荒廃したのである。
信じられないのは、ベーレンドルフ領の北、大陸最北西にある領地がシュテンベルクである事だ。ディートリッヒは自領民をも大量に犠牲にしたのだ。
そこまでして何がしたかったのか。何を得たのか。
そして更に言い足されて、もう、何か、すごく疲れた。
後にこの魔薬で、28代目国王が暗殺される。
『白い魔獣』は、誰にとっても家族の命を奪った、憎悪と恐怖の対象なのだ。
この様な稚拙な駄文に大切なお時間を頂き、心から感謝致します。
以下小ネタ・小話
主人公の思考内に時々オタクのヒトやゲーマーなヒト特有の言い回しとか出てきますが、彼女自身はほぼ全て元ネタを知りません。
会社の後輩ミキちゃんに「こういう時はこういう言い回しするんですよ、最近の若い子は」的な事を吹き込まれ、本人は流行語とかアンチエイジングな扱いでそういう言い回しを使ったりします。
でも実際に口に出して言う事はそんなに多くありません。若作りし過ぎって言われない様に、脳内でだけに留める事が殆どです。
なので唐突に作為無く「ぐぐれかす」とか言ったりします。
それを見てミキちゃんは大喜びします。
元ギャルで大人(最近)になってからゲームやアニメに目覚めたミキちゃんに、密かに遊ばれている主人公です。
この2人の関係はとても気に入っています。もっとやれミキちゃん。




