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作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。
誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。
また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。
2012/5/10:改行ミス訂正(内容変更無し)
2012/11/25:公爵→侯爵に訂正(内容変更無し)
同 :テレポーテション→テレポーテーションに訂正
口惜しい事に、この世界で最初に私を本気で笑かしたのは師団長野郎だった。
無論死ぬ気で我慢しましたとも。でも内心は大爆笑だったから、その日の夜、独りになった瞬間大声で大笑いしてやった。師団長野郎が恋という言葉を口にした瞬間を繰り返し思い起こし、腹筋が捩れるまで笑った。
その所為だろう、彼に対する恐怖心がまた少し、減ってしまった。
そして笑い疲れて、前日の分を取り戻すかの様に深く眠って。
条件反射でいつも通りの時間に起きたら、すっかり冷静さが戻っていた。
具体的な戦場での予定を聞かされて、笑ってられる神経の太さはマグレだったみたいだ。もしくは寝不足で自覚以上にまともじゃない状態だったのか。目覚めて3分で、恐怖に悲鳴を上げそうになった。
それでも睡眠って重要なもので、頭の中が確実に一段階、すっきりした。気持ちはある程度、置き去りに出来たと思う。
その日から、旅するに当たって気になっている部分を、それまでより積極的に伯爵様へ相談するようになった。例えば、予定通りなら出発前日くらいに生理が来るから痛み止めが要るとかね。移動中のトイレとか、寝巻とかね。ほら、寝る時パンツ一丁だから、今。
伯爵様にとっては思い付きもしない些事ばかりだったらしく、その日の内に「女性って大変だね」と心底同情的な様子で言われた。伯爵様がそう仰ってくださるタイプの男性で良かったです。そう素直に言っておいた。
たまに居るから。何故か馬鹿にする人。
何れにしろ伯爵様は、アンマリちゃんに代わって私の面倒を見てくれると言うのだ。現実問題、私がどれほど手が掛るか知っておいて貰わないと。覚悟してね。
そういう失魔症の具体的な部分を、ずっと傍に居て観察しているチャランスにも、敢えてきっちり晒しておいた。失魔症への嫌悪感を煽ってしまうかも知れないが、彼は移動中も影に潜んで私に付いているというのだ。無用な誤解を避ける為にも、私がどれほど魔力が有る人とは違う生活をしているのか、予備知識を入れておいて貰おう。
理解も同情も要らないから、これ以上不用意に私をヘコます言動は勘弁して欲しい。
今更ながらアンマリちゃんは余程出来た娘なのだと痛感する。後数日で、それも今とは比べ物にならぬほど不自由な環境で、彼女が居ないエヴル生活が始まる。
正直、自信無い。やらかしたりやらかされたりしそうで、今から胃が痛い。
そしてたぶん、その前後日からだったと思う。忙しいのか、師団長野郎の不在が増えた。
元々昼食は私の管轄外だったので知らないが、朝食も夕食も要らないと言われたり、とうに外出していたりする。私を殺したがっている人との接触が減るのは喜ばしい限りだが、軍人さんの偉いサンが忙しいってのは喜べない。
・・・戦争の事で、なんだろうな。
夜の伯爵様の日報は必ず聞きに戻っているらしいが、その気配を察した事は無い。アンマリちゃんも去って、真っ暗な部屋で私がベッドへ転がった後の事のようだ。魔導の扉はある程度近付かないと、外へも中へも音が全く通らないからね。
報告には必ず私も同席しなくてはいけない筈だったが、伯爵様曰く、女性を真夜中に部屋から引き摺り出して連行するような真似は言語道断、なんだそうだ。結局伯爵様に弱い師団長野郎は押し切られ、私が居なくても伯爵様がその日の出来事のあらましを聞かせたら、寝物語を聞いた子供みたく大人しくなるからオッケーってさ。
そんな例え使っても可愛くないからね。三白眼の悪党面だからね。
しかし伯爵様は実にマイペースだ。この人も現在、多忙を極めていておかしくないと思うのだが、一切そんな様子は見せなかった。それが魔導師故か、彼の個性かは分からないけど、損な性分だと思う。
黎明騎士伯爵の遠征に導師ヴァレンティヌスが随行する。と言うから、私はてっきり一緒に行く的なのを想像していたのだけど、現地で合流するって意味だった。
と言うのも、世界でも隋一の機動力を誇る黎明師団の移動は常人ではとても付いて行けないらしく、伯爵様は常人では無いので単独なら可能だが、今回は私を伴っているので不可能って事で。よって私達は先に出発する予定になっている。もう既に足手纏い発動中です。
万年運動不足で出不精のOLを戦場へ連れてこうとする方がおかしいと、私は声を大にして言いたい。ダイイングメッセージはコレに決定。
ともかく、私達の出発はもう数日後、片手で数える程も無い近々なのだ。テンテコマイで当たり前な時期なのだ。なのに、伯爵様の胡散臭い笑顔は小揺るぎもしなかった。
きっと、どんなに辛くても、人前では飄々とした態度を崩さないんだろうな。
例え心から愛する人に対しても弱みを見せないんじゃなかろうか、そう思わせるような様子に、ふと寂しいような気持ちになった。私がそんな風に考えてしまうのは、やっぱりあの服装が気になる所為か。もしくは事情を垣間見てしまった所為か。
王妃様と侯爵様と伯爵様と師団長様。
独り蹲って泣く娘と、娘の涙を止めてやれない父。
罰を受けたい魔導師と、昔とは変わってしまった騎士。
誰しもの中に、哀しい孤独がある。
関わっては面倒な事になると強く予感しているのに、頭の隅っこから離れようとしない。当事者と毎日会うんだから、気にしないで居る方が無理だ。
例えば。
昔、伯爵様は何らかの事情で、仲良しだった師団長野郎が嫌な奴になっちゃう様な何かをしでかした、とか。伯爵様が妙に師団長野郎へ辛辣だったりするのは、そういう態度を取る事で怒らせたい、怒られたいからで。
師団長野郎に昔やった事を罰して欲しくて、赦されたくて、伯爵様は彼への風当たりを強くしている。
・・・・・・いやあ、流石に直接結び付けるのは強引過ぎるか。
でもだって、伯爵様ったら侯爵様へは結局優しかったのだもの。私へするのと変わらないような接し方。それが伯爵様のニュートラルだと思うんだ。アンマリちゃんにだってそうだし。
師団長野郎にだけだ。時折本気で、鋭く強く当たるのは。
たぶん、伯爵様に素直に訊ねればあっさり答えてくれる気がする。でもそれじゃダメ。きっと肝心なところは隠される。
伯爵様が悪者になるストーリーを聞かされて終わりだ。
・・・って!だから関わっちゃダメだってば!考えちゃダメだ考えちゃダメだ考えちゃダメだ考えちゃダ・・・。
いけない。去年の忘年会で泥酔したもりもっちを思い出してしまった。逃げちゃダメだ、って言葉を延々小声で呟いてたのが、とっても強く記憶に残ってるのね。すっごい怖かったんだから。でも酔いどれミキちゃんはその様子を指さして笑っていた。どうやら元ネタがあるギャグだったらしい。
そんな調子で流れにぐらんぐらん身を任していた私に、新たな流れが与えられたのは異世界生活13日目の事だった。不吉な数字の様な気がするのは地球感覚。
こちらでは何の事も無いこの日に、世界一の大国バルバトリアの正妃クリスティーナ・ロレンシア・バルバトリア殿下が、秘密の囚人に会いにおいでになりました。
黎明棟の5階には、部屋じゃない部屋がある。開かずの間みたいな、日本人にも馴染みのあるタイプじゃない。正式名は「転送室」だ。発着点固定型テレポーテーション。移動魔法の為の魔導具なのです。
物質転送ですよ奥さん!瞬間移動ですよ旦那!
転送室は私の部屋と大体同じ大きさで窓が無く、黎明棟には5階の中央付近にある1室しか設けられていない。が、王宮全体だと幾つかあり、本宮に至ってはそこら中にあるらしい。どの転送室も天井から壁から床から扉から、内側は全て魔法が書き込まれていて、ある手順でその部屋に入ると指定した別の転送室へ一瞬で移動できる。
つまり、部屋そのものが手動魔導具になっているのだ。これは大変な代物で、全エヴルでもこの王宮にしか存在しないのだと伯爵様は仰ったけど、幾つだろうとドコデモ○ア的な物が実在する時点で日本人的にはアウトである。反則感極まりない。
が、もちろん、ネコなロボと友達になるのと同じくらいの難しい条件をクリアしないと、転送室を使用する事は出来ない。その条件は2つに1つ。
王族に生まれるか、王族に成り上がるか。
つまりこの超絶便利部屋、名字がバルバトリアの人専用なのだ。
バルバトリアの名を持つ使用者が許可した人物も一緒に転送して貰えるらしいが、尋常ではない負荷が掛る為、普通はご遠慮致しますなんだそうだ。極一部の膨大な魔力の持ち主を除いて。なので事実上、この転送室の恩恵に預かれるのは王族と、王族からカモンと言われた宮廷魔導院の幹部くらい。
我がお師匠様はこの日の授業に、この転送室をクリスたんに使って貰ってけろりと便乗、いつもの会議室へ一緒に現れた。
この時、彼女はお忍びだった為、乳白色のフード付きポンチョを目深に被り、中はアンマリちゃんと同じ侍女服を着ていた。
だから会議室に入って来るや否や、それが誰かという説明も無いまま唐突にフードを取って、深々と頭を下げて陳謝された瞬間、私は何重にも驚いてぽかんと固まるしか無かった。
「ごめんなさいっ、本当に、カレン様には何とお詫び申し上げたら良いか・・いえ、きっとどんな謝罪も足りません。本当に、本当に申し訳ありません。ごめんなさい」
いやいやいやいやいや!なに、何でクリスたんが私へ平謝り?!
ていうか!クリスたん何でここに居るのっ?!護衛も無しに!!
私に危害を加えたのは確かにこの少女の夫と臣下だが、どう考えたって、どう見たって、やっぱり精々10代半ばの幼いこの娘が、大人達の代わりに頭を下げるなんて道理じゃない。戦場へ行く事になった事についての謝罪だとしても、この娘は戦争しないでよと訴えている側という話だったはずで。
私はこの娘に謝罪されるような事は何もされてないのに、むしろこっちが礼を言っても良い立場なのに。
けれど、そんな大人の勘定なんて見向きもせず、真っ直ぐ、沈痛な面持ちで頭を下げ続ける女の子の姿は、乾いた肌に水が染み込むように、私の心の奥の方へ入り込んだ。
・・・・・・なんでこんなに、胸を突かれるんだろう。
不思議な娘だ。完全な疑心暗鬼兼人間不信状態の私の奥底に、ほんの数秒であっさり入ってきてしまう。言葉で説明できない力を持っている。子供特有のものなんだろうか。
「・・っひ、妃殿下?!ちょっ、近衛は!護衛はどうしたんです?!」
チャランスの悲鳴に近い声で我に帰る。あまりの展開に固まってしまっていた。妃殿下ご来訪の予告をくれなかった先生様が、いつもの席へいつもの様に優雅に腰掛けながら答えた。
「私では不服かね」
「「そういう問題じゃないでしょっ!」」
私とチャランスがステレオで怒鳴ると、伯爵様は拗ねてそっぽ向いて、クリスたんが泣きそうな顔になって間に入って来た。
「申し訳ありませんっ。どうかおじさまを責めないでください。わたしが無理を言って連れて来て頂いたのです」
サファイアの大きな瞳がうっるうるだ。しかも暗黒魔導師を「おじさま」呼ばわりとかツボ過ぎる。死ぬほど可愛い。何これ妖精?
・・っは!いかん!メロメロに癒されている場合では無い!
「そうはいきません、王妃様。貴女がここに居るという事は、どう転んでも悪い事態しか招き、ません、よ・・って、分かっててやってるんですか」
心を鬼にして厳しくお説教、の途中で、可愛いばかりではない青い瞳が、何かを訴えるように輝きを増した。人が何かを決めた時に見せる目力だ。
不安げに細い柳眉を寄せ、小さな白魚の両手を胸の前で握り締め、大きな目にいっぱい涙を浮かべて私を見詰める少女は、眼差しの奥に悲壮な決意を込めて訴える。
目は口ほどに物を言う。それを知ってか知らずか、真っ直ぐ私を見詰め続けて、十分沈黙が降りて、溜まった涙が乾いてから鈴を転がすような美声で言った。
「それでも、どうしてもカレン様にお会いしたかったのです。全て、わたしの所為だから、わたしから、ご説明させて頂きたかったのです」
そうして彼女は語り出した。
究極に愛らしい外見を裏切るきちんと整理された言葉が、彼女の思いが昨日今日のものでは無いと証明した。
ダラダラと長い説明文にも拘らず、お読み下さってありがとうございます。
ですが、次回はもっと説明です。流し読み推奨です。
どのキャラがどこまで把握してるのか、頭がこんがらがってきました。
作者ですらこの体たらくですので、詳しく読み込むのはご勘弁ください(笑)
そしてこの章から、章の最後に登場人物のまとめ的な物とか書いてみようかと考えてます。
重要人物自体はそうでもないのですが、この短い章の次の章から地名や人物名が倍増しますので、途中からお読みになる方が少しでも楽になる様に。
という地雷踏み予告でした。ほんと色々ごめんなさい。




