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カレン  作者: f/1
お姫様の涙
3/62

2

作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。

誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。

また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。


3/27:前書き変更

4/4:行頭空白挿入(内容変更無し)

1/29:誤字訂正(内容変更無し)




痛い!

「お怪我は?」

 頭上から聞こえた低い声が、一瞬、私に向かって言ったのかと思った。だから、死ぬほど痛いって答えようとした。顔と頭と肩と右腕と背中と腰が死ぬほど痛いです、って。でもその内の幾つかは熱いかも知れないし、重いかもしれない。入り混じってるかも。しかしそんな事はどうでも良い。1秒毎に増す痛みに気が狂いそうだ。

痛いんだ、痛いんだよ!

重いし熱いし息が出来ないし痛い!

「やっ、止めて!!」

「何です?」

 恐らくあの美少女の声だろう、甲高い悲鳴のような声に続いて、また真上から最初の低い声が言った。暫く、同じような言葉がその2つの声でやり取りされたようだったけれど、私はあまりの痛みに、訳が分からないまま叫んで、その自分の叫びで気が付いた。

「ったい!どいてっ!!」

「黙れ」

 頭上から聞こえる、抑揚の無い鋭いバリトン。この声の主に、私は絨毯の床へ押し付けられている。全身で圧し掛かられていたんだ。こじ開けた視界の端に、私の大事なメガネが転がっているのが見える。

 見知らぬ場所で、見知らぬ成人男性に、背後から突然右腕を捻り上げられ、後頭部の髪を鷲掴みにされ、顔面を地面へ叩き付けられた。そしてそのまま、膝で左肩と腰を、髪を掴む手で顔を、体重を使って押さえ込まれている。傍目から見れば、きっと映画の犯人のように「取り押えられている」の図だ。

 そう知覚して一層、強烈な痛みと、恐怖が噴き出す。

 足掻こうとも思えなかった。振り払おうという気力すら沸かなかった。

怖い!!

殺される!!

 死への恐怖とか、これまで経験した事なんて無い。これが白昼夢だろうが何だろうが、痛みと恐怖で恐慌状態な思考では、ただただ怖ろしさしか感じられなかった。

 いざという時、あんたって絶対、声が出ないタイプよね。

 誰かがそう言ってたな。なんて、そんな悠長なこと、随分後になってから抱いた感想だ。

「そっ、その方はわたしの客人です!」

 右腕の感覚が完全に無くなったころ、一際高い声がそう言ったのが耳に届いた。一拍以上間を置いて、私を押さえ付けている男が短音で答える。

「・・・・は?」

 半分疑問、半分威圧。冷淡な声がなんとも複雑そうな色を見せた。が、今の私はそれどころじゃない。会話の内容だって殆ど聞いてなかった。脳に届く前に千切れて消えたんだと思う。とにかく痛くて痛くて。怖くて怖くて。

「今すぐ彼女を解放しなければ、ふっ、不敬罪で首が飛びますから!」

 震える声を力の限りに振り絞って、彼女は叫んだ。

「黎明!従いなさい!」

 言葉のわりに、声音は懇願の色が強かったけれど。


 優しい少女の、それが、全てを懸けた第一声だったと知ったのは、ずっと後の事で。


 自分の呼吸が変なリズムになっている事に気付いたくらい、静かになって。

 ふと、圧が、重みが立ち消えて。

「――っ」

 まず眩暈がした。寝転がってるのに眩暈なんて、と思ったら、次の瞬間右肩に激痛が奔って涙腺がぶっ壊れた。ひゅっと喉がなって、体が痙攣する。呼吸がちゃんと出来ない。すごい苦しい。

 滅多に水分が出ないドライアイな私の目が、びっくりするぐらいの量の涙を流す。ついでに酸素を求めて開いた口からも、唾液が溢れて高そうな絨毯を汚した。ごめん。生理現象だ。暫く押さえ付けられて麻痺しかけていた痛覚と呼吸が、どっと一気に戻ってきやがったのだから。

 泣きながら咳き込んで、痙攣しながらのた打ち回って、右肩を左手で掴みながら体を起こそうとする自分の体。落ち着けよ。いっぺんにそんなに色んな動作出来るわけないでしょと、別の自分が呆れている。渋滞渋滞ー。

 薄情な脳内の自分はしかし、的を射た事言ってるよ。私はまず呼吸から整える事に集中してみた。喉と鼻腔を開いて、空気を吐く事を優先する。過呼吸にならないよう、吐いてから吸う、吐いてから吸う、と繰り返し念じた。そうして暫く、やっとちょっと呼吸が落ち着いてきた。

 そしたら上半身が潰れたんじゃないかと思うくらい痛い事を知覚してしまった。

何これ。やっぱ死んじゃうの?

 いやいやいや、痛いって事は生きてるって事だ。痛みを逸らす為に、次は意識を外へ外へと自分に言い聞かす。とにかく痛み以外の何かを見付けるんだ。

 すると、背中を摩る小さな手の感触に気付けた。

 あの少女の声が、泣きじゃくりながら「ごめんなさい」と言い続けている。


訳が分からない。

痛くて、苦しくて、怖くて、ほんともうなんなの。


 柔らかい甘い香りと、謝り続ける痛ましい涙声と。

 知らない部屋。

 知らない暴力。

 知らない人達。

「・・・・も、いいよ。だいじょうぶ」

「ごめっなさ・・っ・・」

ああ、でも、こんな風に子供が泣くのは嫌だね。

 全身の痛みも、苦しさも、恐怖心も、何もかもまだ頑としてここにあるけれど。

「ああ・・・よしよし。怖かったね」

 怖いのは、こっちだったけど。

 私って基本、状況を省みない馬鹿だから、痛む体に鞭打って寝返り、仰向けになって少女の小さな頭へ手を伸ばす。生理的な涙は止まって視界はクリア。私以上に傷付いた表情の少女が見えた。私の脇に座り込んでこちらをのぞき込んでいたけど、頭へは流石に手が届かなかったので、その頬へ行き先変更して撫でてみた。

「よしよし」

 ってされたいのもこっちだったけどね。

 しゃくり上げて筋肉が引き攣っている頬は、大量の涙でべちょべちょだ。幾粒かが私の胸元に落ちて、ベージュのブラウスに染みを作る。

「もう平気よ。優しい子ね」

 いい年の私の脳みそは、私が拒否しようとどうしようと、一部分が常に冷静に働こうとしている。恐慌状態の中でも、耳が拾った少女の声が、私を庇う発言を必死に繰り出していたのを何となく記憶していた。

 まだ、訳が分からな過ぎて、謝られても許す許さないまで思考が行かないけど。

「もう、大丈夫」

 体の右側は、当分動きそうにないけれど。

 人を安心させる表情を、声を、作ってやるだけなら造作も無い。

「私は花蓮。あなたは?」

 止め処ない涙で私の手をずぶ濡れにしながら、絵画のように美しい少女は、何か、深い感情に青い瞳を震わせて答えた。

「わたしは、クリスティーナ・ロレンシア・バルバトリアと申します」

 クリスティーナか。イメージ通り綺麗で可愛い名前。ヨーロッパかしらね?でも顔立ちは純粋なコーカソイドとはちょっと違う感じね?混血?

・・・ん?

その顔で、その名前で、なんで・・・。


・・・・・日本語が難しいって、ただの噂だったのかしら。


 寝転がる私の隣に座り込み、ぐずぐずと泣き崩れる白い美少女を宥めていたのは、たぶんものの数分だったと思う。その間に私は若干落ち着きを取り戻し、自分の体の状態を把握する。あの男の存在がまだ傍に感じられるのは無視。怖い。

 右肩、たぶん脱臼か骨折寸前くらいイってた。男の膝に潰されていたのは左肩と腰だったのに、捻り上げ方が絶妙だったのだろう。一番ダメージが大きかったのは、首の右側から右肩、右手首へ渡って奔っている神経筋みたいだった。仰向けのお腹の上にただ乗っけているだけでも、千切れそうに痛い。右手の指先がピクピク痙攣する。

 それにその上にあるおっぱい。大した代物では無いが、潰されたかと思うくらい痛い。ちょっと太ってCカップたっぷりになったのに、腹の肉をそのままに乳だけ潰れて減ったら嫌過ぎる。

 後、精神的に参ったのが顔の左側の、ヒリヒリとした痛み。

 右肩に比べたら大した事のない痛みだけど、嫁入り前の女の顔よ?あ、この年だと嫁入り前じゃなくて行き遅れ、か。まあその辺は言及を避けといて、ふかふか絨毯に感謝しなくちゃ、もしフローリングとかだったら大変な事になってた筈。

ああ、きっと化粧もぐっちゃぐちゃだ。それもへこむなあ。

 来客もあるので、普段から割かしかっちりメイクだから、ちょっとでも崩れると目立つ目立つ。化粧直ししたい願望が沸いて、自然、化粧道具を置いてある事務所へ意識が走り、あの雑居ビルの4階廊下へ繋がっている筈の扉へ目を向けた。

「・・・・・・」

うん。まあ、何と言うか。ね。

 夢でのメインイベント級の激痛体験が完了したわけだけど、やっぱり御立派な扉は変わらずそびえ立っている。とてもじゃないけど、あの扉の向こうが、あの狭い廊下へ続いてるようには思えない。

 と、半分がっかり、半分困惑していると、その扉が勢い良く開かれた。あんまりな勢いだったので、左手で撫でていた少女も、寝転がったままの私も、同時にびくっと強張ってそちらを凝視する。その拍子に右腕に引き攣るような痛みが奔ったけど、私の脳みそはそれを横へ押しやり、新たな事態の認識を優先させた。


・・・廊下だ。見紛う事無き、ご立派な廊下が見えてらっしゃる。


 この部屋の壁と同じ質の石造りな廊下。逆光で少々暗いが、見間違いようが無いほど、コンクリ壁のお粗末な廊下の片鱗も無い。

「へ、陛下・・・」

 消えてしまいそうなか細い声で少女が漏らした言葉に、惰性のようなぼんやりさで、目がその人物を追った。確認していた廊下を塞ぐ形、扉を開けた人なんだろう、靴も、服も、見た事の無い光沢の素材の物を纏った、若い青年だ。長い真っ直ぐなプラチナブロンドの髪と濁りの無いエメラルドの瞳が、まるで美少女のブロンドとサファイアの対のような、白人さんベースの混血っぽい青年。年はぱっと見る限り24~5歳か。視力が良くないので定かでは無いけど。

 なんて、のんびり人間観察してる場合じゃない。

すっ・・・・・・・・・っげえ睨まれてる。

 ゴキブリを見付けた時の私以上の怒りを灯す碧眼は、真っ直ぐ私を射抜いていた。なんで初対面のガキに睨まれなきゃなんないの、と思う間も無く、大勢の人間の声と足音が迫ってきた。火急、緊急、そんな慌しさで、周囲の空気が一気に引き絞られた。

「陛下っ!妃殿下!」

「何事ですっ!?」

 あっと言う間に、だだっ広いその部屋を埋め尽くす人・人・人。誰も彼も、かっちりとした妙なデザインの服を着ている外国の方々。8割方男性で、女性は3~4人。女性は濃い茶色のマキシ丈のワンピースを着ていて、男性は皆、青地に金糸の刺繍が入ったお揃いの服・・・いや、一人だけ生地の色が濃紺だ。偉いさんか?などと考え込みそうになったけど、一層高い女性達の悲鳴にはっと我に帰った。

「妃殿下!!」

「殿下!ご無事でっ!?」

 そしてやっと私の脳が「ひでんか?」と言語を認識し出したと同時、駆け寄って来た彼女達にバシンと左手を払われた。痛みより驚きで左側を見ると、先程の美少女を庇うように私から引き離している。その彼女たちの私を見る形相ときたら厳しいの何の。

・・・この状況ってもしや・・・。

 なんて、今更。目を逸らしたのが悪かったのか、また顔面に衝撃が。激痛に悲鳴を上げそうになった口ごと、硬い何かに塞がれ、絨毯との間で頭を潰そうとしてくる。

 さっきの、手で押さえ付けられた時の、倍以上の痛み。鼻が折れる折れる!

 せっかく収まり掛けていた混乱、恐怖、痛みがまた揃ってぶり返し、反射的に顔面を潰す物を取り除こうとして上がった左手が掴んだ感触に、とうとう私の脳みそは考える事を完全放棄した。

・・・靴、だ。

 私は今、誰かに、渾身の力で、顔を踏み躙られている。

 脳裏のどこかで、銀髪碧眼の青年の、あのきつい眼差しがフラッシュバックして、何の根拠も無く、この足は彼の物じゃなかろうかと思った。確かに、憎しみ、と呼べそうな代物が、あの碧の目の奥に垣間見えた気がする。

でも、なんで・・・?

「やめてっ!!お願い!その方を傷付けないでっ!」

 遠くであの娘の悲鳴が聞こえた。


 でももう、私は何も考えられなくて。



 って言うか、鼻も口も塞がれて、単純に呼吸困難で失神した。





お読み下さった奇特な方、本当にありがとうございます。

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