↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カレン  作者: f/1
異世界
27/62

26

作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。

誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。

また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。




 会食騒ぎと伯爵様の気遣いで、お掃除の時間がいつもより遅くなってしまった。それが良かったのかどうか、執務室にも自室にも、師団長英雄野郎は居なかった。やり易い事この上無い。

・・・でも、居ても良かったかな。

 会食の時、途中から少し不安定な感じで、様子がおかしかった。それが気になってたんだ。あの時、師団長野郎が何か言おうとしたのを遮った時、私、彼に対しては上手に出来なかったから。


・・・・・・傷付けた?


「っ・・・」

いやいやいやいやいやいやいや!まさか!そんなばかな!

 自分の思考にぎょっとしてしまい、うっかり箒を握り締めて止まってしまった。箒と言ってもモップと半々くらいの形なんだけどね。ゴミを掃くっていうより巻き取る感じなんだけどね。素材は見当もつかないです。木?布?ビニール??

 すぐ気を逸らして掃除再開したのだけど、アンマリちゃんはとうとうここで我慢できなくなったらしい。薄暗い長大な廊下の真ん中で、少し尖った声で話しかけて来た。

「貴女に何かあれば、妃殿下が哀しまれます。無謀はお避け下さい」

無謀、ね。

 堪え切れず苦笑が出た。アンマリちゃんが思うより、もっとずっと無謀なのだ。日本人の私にとっては。

 でも、他に選択肢は無いんだってば。

 極論含めれば、伯爵様は暗に幾つか選択肢を与えてくれたんだろう。けど、私からすればどれも同じ。結局、明日にも殺されるかも知れない、という現実は残るんだから。それでも、何もしなければ拷問の末処刑が確定する。知ってるでしょう?

 今日の死より、明日の死を。100パーセントの死より、99パーセントの死を。

 私は、自分の生存確率を少しでも上げてくれる選択肢を、兎に角掴むしかないのだ。

 実際はそこまで逼迫していない、筈だけど。どうだろう。伯爵様との契約の効果も、どこまで有効かあまり判断できていない。本当に確実な保証はまだ、ひとつも無い。選り好みしている余裕は欠片も無いんだ。

「・・・殿下はお元気ですか?」

 嫌味に聞こえないよう、ちゃんと手を止めて目を見て、真っ直ぐ訊ねた。受け答えが成り立って無いけど、思った通り、律儀なアンナマリア嬢は冷静に答えてくれる。

 深い茶色の瞳は理知的で、曇りが無い。

「妃殿下はお心を痛められておいでです」

 本当にこの娘は慎重だ。迂闊な発言を聞いた事が無い。どんな訓練をすればこの年でこうなるのか、ちょっとゾッとする。そしてこういうところを再認識するたびに、アンマリちゃんも気を抜いて接する事が出来る人物では無いと思い知る。

あー・・・マズいな。ストレスが処理し切れて無いや。


 この1週間、どんなに寝ても、どんなに覚めても、この世界だった。


 毎日、食事もトイレも身形も家事も、全部、何一つ、私の思い通りにはならなかった。その事を嫌な顔一つせず受け入れて見せても事態は一向に好転せず、今夜とうとう、またしても予想の斜め上を行く事態となった。

 正直、へこむ。暗い言葉が脳裏から離れない。

 夢オチ?そんなの、もう、期待してない。

「・・私、誤解してました」

 だからだと思う。重く、徐々に、胸に喰い込んで来ている。

「軍事国家の国民は皆、戦争に対して誇りや希望を持っているのかと思っていました」

クリスティーナ。今この瞬間も泣いてるの?

「違うんですね。やっぱり、泣く人が居るんですね」

 軍事国家の王妃様が泣き暮らす理由。痛むその御心に、戦争の無い国から来た私が出来る事、脇役だからこそ出来る事、彼女に面と向かって「無い」って言い切れるだろうか。

 怖いからヤだ。何もしたくない。関わりたくない。そう誰の目の前でもはっきり言ってやれる。

 それくらい逃げ腰なのに、怖いのに、なんだろう、がっぷり喰い込んで外れない、迷い。それは蹲る少女の形をしている。

「私、戦争から縁遠い環境で生まれ育ったので、たぶん、現地に着いたら怖がるばかりで何も出来ないと思います。逃げ回って過ごすと思います。だから、ご心配要りません。 って、お伝えください」

 珍しく探る様に目の奥まで見詰めて来るアンマリちゃんに、そこまで言って笑って見せる。丁寧な微苦笑を意識して、読まれないように閉ざした。

 どう足掻いたって利用される諦めならある。命を賭けなければ重罪人のままだという開き直りもある。

 でも、それ以外、何も無い。

 この身でさえ、私の自由にはならない。こんな状態で、他人様の事情まで慮ってなんか居られない。そんな包容力も責任感も持ち合わせて無い。

「・・・・・・畏まりました。その様にお伝え致します」

 他人は自分を映す鏡、とは良く言ったもので、そう答えたアンマリちゃんは読ませない真顔だった。事務的な口調に戻り、眼差しも鋭さが無くなる。

あ、睫毛長い。良いなあ。

 やっぱ改めて見ても美人だなあ。メイクを派手にすれば相当華やかな美女になると思う。くっきりと濃い二重の目と、左右対称の頬骨と、すらりと高い鼻筋の配置が黄金比だ。仕事柄最低限の地味メイクしかしないみたいだが、貴族なのだから夜会的なものに出席する時はあろうし、そういった場では間違い無く引っ張りだこだろう。

 じゃなかったら最悪だよ。このレベルの美人がゴロゴロしてるとか、嫌過ぎる。

 思考がダークサイドへ行こうとする疲労感を、何とか余計な事を考えて跳ね除ける。廊下掃除はまだ半分残ってるんだ。その後、当たり前にお風呂に入れないので、部屋で大きな魔導桶に湯を入れて貰い、いや、出して貰い、簡易風呂と洒落込むのである。いつかまっとうな風呂に入りたいがそれはさて置き、つまり、まだ休めないのだ。

 誰も居ない独りの安心空間は、まだ先。

「はい。よろしくお願いします」

 会話を切り上げる言葉を言いながら、しっかりしなくてはと箒モップを握り直し、掃除出来て無い方へ振り向いた、瞬間。


「っ!」


 魔法の燭台の明りが足りない、薄暗い廊下の壁。2メートルも無い距離。

 背を預けて腕を組む、あの医務室で目を覚ました時と同じ姿勢で、師団長野郎がじっと私を眺めていた。鉄の無表情に、感情の無い眼差しで。

 酷い既視感。

 心底驚愕し、大袈裟なくらい肩が跳ねて息を飲んでしまった。でも、心臓が驚きの余りドクドクしまくって、視点を彼の首元へ定めるのも、表情を取り繕うのも、2~3回生唾飲んでからようやっと出来た。

 その間、師団長野郎が口を開く事は無かった。私の様子を、ただ黙って監視している。

「・・・・・・お疲れ様です。お部屋の掃除は済んでおります」

 我ながら白々しい。でも他に言う事、無いよね?あんまり冷静に考えられないから、自分が当たり障り無い対応出来てるか、すっごい不安だ。それがまた心臓に負担を与えている気がする。あ、胃もシクシクしてきた。うーん、怖いよー。

「お前は何も分かっていない。後悔するぞ」

 もう幾らか見慣れた無表情も、少しは聞き慣れたバリトンも、これまでと違う暗さのようなものを内包しているように感じて、ちょっと躊躇いが湧いた。さっき考えてた所為か、ここで、このタイミングで向き合うのは、何故か自然な事のような気もした。

 光源が足りなくてお互いの表情がはっきり見えないのが、良かったのかも知れない。でなきゃ、ただでさえ他人嫌いの私が、自分を重罪人扱いしている相手と向き合うだなんて有り得ない。

 ついさっき、はっきりと、「今ここで殺す」まで言われた相手なのに。

 疲れてて、頭ん中も整理できてなくて、考えるのが嫌になってたのもあるかも。うん。きっとその所為だ。うっかり本心が口を衝いて出たのは。

「ありがとうございます」

「・・何?」

 至極剣呑な声が返った。嫌味と思われたか。背後となったアンマリちゃんまでも、軽い溜息みたいなのを聞かせる。

違う違う、そんな気力もう無いって。

 顔の筋肉ももう端っこの方は力が入らない。眉尻が下がって情けない顔になってる気がする。

「私が何も分かっていない、後悔しそうな状態だと、知っていてくださってありがとうございます。知ってくださっている、という事を伝えてくださって、ありがとうございました。 少し、気が楽になりました」

 暗くて見辛いのを良い事に、ちゃんと小さな感謝が届くように真っ直ぐ顔を見上げて・・・嘘です。チラ見しか出来ませんでした。なんだかんだで視界の端にずっとお腰の剣が見えてんだもん。やっぱ怖い。

「・・・・・・」

「・・・?」

・・・ん?あれ?なんか、あんまり・・・。

「・・・お前は」

「はい?」

 彼の掘りの深い目元に、一層暗い影が降りる。

「・・目の前で、人が人を殺すのを見た事があるか」


・・・・・・ああ、このヒトは・・・・・・。


 驚きは意外と少なかった。私はきっと、この時既にもう、殆ど確信していたのだと思う。気付かずに居れば楽だから、無視してただけで。

 師団長野郎は、損な役回りを、憎まれ役を、引き受けちゃうヒトなのだ。

 自身は報われないと、知った上で。

「・・・ありません。私の母国は、世界有数の治安の良さを誇る国ですから」

 だろうな、と、私の手指へ視線を渡しながら返された。そう言えば伯爵様も私の手を良く見る。この世界へ来て少し荒れてしまったけれど、苦労を知らない手なのは誰が見ても分かるだろう。

 不意に今、どんな表情してるのかちゃんと見たくなった。けど、私が顔を上げるより先に、師団長野郎は背を向けて自室へ向かってしまった。

 大きな背中はその分、出来る影も大きい。


 今の私にとって最も身近な危険であるゲルハルト・ベーレンドルフ。感情の無い眼差しも、冷徹な言動も、常に漂わせている威圧感も、彼の一面にしか過ぎないと、この夜初めてそう納得した。

 この世界の人間もやっぱり、他者へ見せているのは一側面でしかないのだ、と。



 その時、頭ではなく、体でもなく、心が、この世界を現実のものとして感じ取った気がした。






 稚拙な妄想小説をお読み下さって、本当にありがとうございました。



以下小ネタ・小話

 本作は1年前くらいから構想しており(それでこの駄文っぷり!恥!)、世界地図のみならず、王宮地図や重要な場所の地域地図まで存在します。ペイントでマウス書きですが(笑)

 更にエヴル世界史は、創世記から近代までを大まかに、バルバトリア関係の歴史は主要キャラが生まれる少し前辺りから詳細に書いてたりします。

 王様君でさえ生い立ちが細かく決まっています。

 本編には殆ど関係有りませんが、数本の長編作品が出来る設定の量です。馬鹿です。

 いつか番外編としてでも良いので、こちらで書かせて頂けたらなあと思ってます。

 そして、一番キャラが掴み難いのは、実は主人公という現象が発生中。。。

 彼女もちゃんと生い立ち設定あるのに、何故なんだぜ?一人称だから?

 猛省。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。