23
作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。
誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。
また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。
2012/5/10:公爵→侯爵へ訂正(内容変更無し)
2012/11/25:公爵→侯爵へ訂正(↑とは別。2か所目)
「利用価値があるならお聞きしますよ!」
今ならお安くしときますまで言って、にっこり満面の笑みを披露する。伯爵様直伝のうさんくさ笑顔はしかし、盛大に引き攣っている事だろう。自分でもはっきり分かった。ブサイクだ。
それでも、リードが下手なら自力で踊るしかない。
「ほお。利用価値、とな」
違う。これが正しいステップなんだ。
驚いて私を振り仰いだのは、発言を遮られた師団長野郎と思案に暮れていた侯爵様で、伯爵様は侯爵様の背を撫でながら顔を向けもせずにそう言った。まるで、最初から用意されていたかのような口ぶりで。
その事に一瞬躊躇ったが、テンポを取り遅れたら転ぶ。それぞれの反応が死ぬほど気になったし、出来る事ならこのまま黙ってしまいたかったが、ダメだ。伯爵様はまだ、どちらの方向へも踏み出せる。嫌だ。
「嫌ですよ、伯爵様。貴方に言ったんじゃありません。貴方には未来を捧げているでしょう? ロレンシア侯爵様に申し上げたのです」
「え?」
引き攣る頬を、意図的な瞬きで押さえ付ける。今度こそちゃんと改心の笑顔が出た。それを驚いて見上げて来る真っ青な顔をした子持ち男へ向けて、同時に師団長大馬鹿野郎にも見えるように首を傾げて見せる。
「私をご利用になりませんか?侯爵様。 貴方様と、貴方様の最愛の方の為に、お役に立てる事がありませんか?私、今とっても命の危機らしいですので、とってもお安くご提供出来るかと存じますよ?」
ここでちょっと意外な事に、師団長野郎が黙った。はて、予想ではこの辺りで喚きだすかと思ってたけど、思いの外怒りんぼでも無いのか。んー、何だろう。すっごい違和感。
彼は時々、分かり易く不可解だ。
いや、今はそこに感けている場合では無い。むしろチャンスだ。この脳筋を黙らせて、伯爵様の思惑を通す。何故か絶望的なご様子になっちゃってた侯爵様が、困惑しきって私と伯爵様を見比べているのへ、少し毒を抜いた苦笑をして見せる。
「申し訳ありません、失礼な物言いでしたでしょうか。ですが、私のような立場の者からは申し上げ難いので、なにとぞお察しください」
侯爵様が私についてどこまでご存じかとか、私が状況のどこまでを理解できているかとか、そういう不安が勿論湧いた。でも、今は考えないで、ただされるがまま踊っていなくてはいけない。私に今、この操り糸を断ち切る術も勇気も無いのだ。
私を異世界人だと断定してくれた人。伯爵様の促す通りに動かなくては、今はまだ他に、生き延びる術が無い。
異世界人。
この正体不明な言葉が私の命を繋いでいて、この言葉を言い切って押し通してくれる人は恐らく、そうそう居ない。しかも、その上で最低限の人権を認めてくれるとなると、むしろ1人でも居た事が奇跡だ。
伯爵様に捨てられたら、私はきっと地獄を見る。
まず即座に拷問室とやらへ放り込まれるだろう。敵対している国のスパイと疑いを掛けられるならまだ良い方だ。最悪、王族を手に掛けようとした暗殺者として、裁判も無しにおぞましい処罰を受けると思う。果ては人間としてすら扱われず、未知の病原菌レベルまでいく可能性だってゼロでは無い。
そして遅かれ早かれ、殺されるのだ。
クリスたんが守ろうとしてくれても、恐らく、弱い。あの娘相手なら幾らでも誤魔化して、影で私を始末出来る。
どんなに戦争が怖くても、戦場に行きたくなんかなくても、伯爵様が行くと言ったら行くしかない。
どんなに事情が分からなくても、理解が及ばなくても、伯爵様が手に入れろと促したものは、手に入れるしかないのだ。
今日までの1週間で叩き込まれたバルバトリア一般常識。
穏やかな友好と、辛辣な叱咤と、強い宣言。そして、絶縁覚悟の挑発。この会食の、意味。
・・・大丈夫。
伯爵様はきっと、私の至らなさも計算済みの筈だ。でなきゃただのお馬鹿だ。私は感じたまま、思ったまま行けば良い。
「私は余所者です、侯爵様。得体の知れぬ、無知で、無価値な人間です。師団長様の匙加減一つであっさり消えてなくなる存在です。 侯爵様のお傍に、他に、私のような者が居りますでしょうか」
困惑顔のまま俯いて、黙り込んでしまった侯爵様へしつこく声をかける。その横顔は元々の顔立ちも相俟って、とてもアラサー男とは思えない透明感を見せていた。触れると崩れ落ちそうに思える程、儚い。そしてその様子はとても強く、クリスたんを思い出させる。
そう。彼女の為に。
突き詰めるとどうなのかは知らないが、伯爵様は何度も言っている。クリスたんの望む通り、戦争を止めるつもりだ。その為に必要なのはどう考えたって人だ。理解者だ。協力者だ。
闇色の魔導師は、有用な手駒をご所望であらせられる。
「・・・小賢しい。皆まで言え」
沈黙を破って剣呑に言ったのは、師団長野郎だった。それに対して伯爵様も、そして侯爵様も、一切動じる様子は無い。
んー、やっぱり普通のジェントルマンなワケないよね。
思って眺めていた儚げな横顔の侯爵様が、師団長野郎へ向けて濃い苦笑をした。伝わった手応え。私、間違えなかったかも。ちゃんと出来たかも。
「どこが小賢しいか、どこまで理解してるんだい?ゲイル。 君は昔から自己完結が酷いから、僕は心配だ」
昔から、という言葉に内心驚く私の方を見もせずに、彼らは話を進めだした。
「彼女が僕に取り入ろうとしているのでも無ければ、リヒトが彼女を使って僕を煽っているワケでも無いよ。分かってるかい?」
「・・・なら何だ」
「君は本当に、心を閉ざしてしまったね、ゲイル」
もしかして、もしかしなくても、私は巻き込まれたのでは?
先日伯爵様が言ったのと同じような事を言った侯爵様の姿に、脳裏に閃くものがあった。
私が現れた事が問題なのではなく、元から何か大きな問題が逼迫している最中に、たまたま私が飛び込んできたのではないだろうか。それで伯爵様がちょーどいーや的に私を使って、動きを変えようと考えた、とか。
その予感に答えるかのような、侯爵様の優しい声。
「リヒトは僕らを助けようとしているんだよ」
ん?「僕ら」?クリスたんじゃなくて?
思ってこっそり窺っても、この角度では魔導師の顔は見えなかった。師団長野郎はまた押し黙り、耳が尖るような無音が訪れる。呼吸音も忍ばれる静寂に、小さく侯爵様の声が滲む。
「やり直せるだろうか。今度は、上手く出来るだろうか。 こんな僕でも」
震えているのか、両手を強く握りしめて、独り言の様に仰った。
その向かい側の師団長野郎の無表情が、無表情というより表情を失ったようになっているのが目に付く。さっきから彼は妙に不安定だなと思った矢先に、ちょっと嫌な考えが過ぎってしまった。
さっきお食事中の雑談内でそれぞれの年齢の話になったんだけど、侯爵様が第一印象と差異の無い32歳で・・・。
・・・この男、まだ、27になったばっかなんだったわ。
厳つくて偉そうだからしっくりきて無いが、師団長野郎はなんと私より4歳も年下の若造なのだった。まだ全然若い。
いやいやいやいやいやいやいや!!同情禁物!油断したら怖いんだから!
「カレン?」
うっかり脳内に没頭してしまった私を、後ろ向いてたくせに目敏く伯爵様が気付いて、振り返ってきた。珍しい真顔だ。流石にいつもの余裕は無くなっているらしい。ちょっとほっとする。このヒトも人間なんだと思える。いや、7割方悪魔か何かだと思うけどね。
「なんでもありません。 ただ、私はどんなにやり直したくても、やり直したい場所へ帰れませんから、少し、皆様に嫉妬してしまいました」
それっぽい事をそれっぽい表情で言ってみた。もちろん誤魔化しだけど、ちょびっと本心でもある。頭の悪い私が思っても無い事をスラスラ言える筈が無い。思ってるから咄嗟に出るんだ。そして、やっぱこの流れでこの言い方は正解だった。
私、脇役させたらソコソコやるでしょ?
「ここまで言われてまだ躊躇うかね」
暗黒魔導師様ですら苦笑して、そう言い方を改めたのだ。結局のところ人が良さそうなパパ侯爵様が折れないで居られる筈も無い。
「そう言わないでくれ、リヒト。深刻なトラウマなんだから」
まだ顔は真っ青だがそう返した声は穏やかで、最初にご挨拶頂いた時の声にだいぶ戻っていた。女子供が無条件で懐きそうな、優しく透明な声だ。少しほっとして肩の力を抜くと、手足が震えを止めていた。山は越えたかしら。
たぶん、部外者な私がこれ以上この場で出来る事は無いだろう。伯爵様の誘導臭い言動も無くなってるし、後は・・・。
「カレン殿、貴女に頼みたい仕事があるんだ」
黎明の騎士は、もう何も言わなかった。
趣味全開のお恥ずかし駄文にお付き合いくださり、ありがとうございます。
ここら辺から趣味先行の恥ずかしい内容が濃度上げ始めます。ごめんなさい。
ご都合上等です。ごめんなさい。
それでも良いゼと思って下さる方、何卒宜しくお願い致します。




