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カレン  作者: f/1
異世界
23/62

22

作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。

誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。

また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。




何の符号?

やめて、私がここに居る意味を、壮大なものにしないで。


「どういう意味か、説明をしろ」

 眉間の皺が増えた師団長野郎が、不穏極まりない低音で伯爵様を嗜める。そんなんじゃダメだ、と私が思うのと同時、伯爵様が鼻で嗤った。

「今のお前にその価値は無い」

「!」

 師団長野郎までも言葉を失わせた先生は、私の方を見ないまま結論した。

「目を覚ませ愚鈍達よ。さもなくばこのまま置いて行く。 クリスの望みを叶える為に、今、私に必要なのはこの、無力で、無知で、無気力な、ただの女なのだ。寝惚けるお前達ではない。 私もカレンを連れて東へ行くぞ。黎明閣下に随行してやるとも」

「っ?!何を言うんだリヒト!」

 余りにも伯爵様の言葉に突拍子が無かった所為で、私は何を言われたのか理解し損ねた。が、付き合いの長さの差か、パパ侯爵様は即座に伯爵様へ掴み掛り、次いで師団長野郎が地を這うような声を吐く。

「冗談では無い!」

 恫喝。太く低く通りの良過ぎる声に、私は完全に呆けた。見るとその声の主の顔が、今やはっきりと怒りを示している。珍しく明確な表情だ。激レア。

 あ、私今飽和状態だ。思考が余計な方へ行きそう。待て待てー。

えーっと、何だっけ。随行?そうそう随行・・。

「随行だと?!ふざけるな!邪魔だ!」

 大きな重い音を立てて、師団長野郎がテーブルを叩いた。こっちの世界でも苛立ったヒトが机を叩く事があるのね、と頭のどこかで不思議に思いながら、別のどこかが現実へ追いつき始める。

 伯爵様に連れられて、私は師団長野郎に随行するらしい。

 この建物の、王宮の、外へ。

 日の昇る方へ。

・・・何で?

「邪魔?お前にとっては一石二鳥だろうが。戦場の混乱に乗じてカレンを始末出来る絶好のチャンスだろうよ」

 身を立てて、自立して、不法侵入は不可抗力だったと認めてもらって、日本への帰り方を探すの。

 私の心は、死はもう免れたと思って、立てた目標へ向けて準備体操してるとこなのに。何?1回目でふりだしに戻る?

 待ってよ、っつって待ってくれるワケ無いよね。諦めろ。開き直れ。拒否権どころか意見一つ言える立場に無いのは先刻承知。私にある自由は、覚悟する事と開き直る事くらいなんだから。殺される、とかそんな言葉、慣れなきゃ。


大丈夫。諦め方なんてとっくに知ってる。


「・・つまり私は近々、東にある戦争地帯へ行かれる師団長閣下に随行し、不運にも戦火に巻き込まれて死ぬというワケですね」

 自分に言い聞かせる目的で発した声は、思いの外冷たく響いた。いかん。表情も硬い。手は震えっぱなしだ。しっかりしろ。深呼吸深呼吸。

「その可能性が高いだろうね。私が頼みたいのは普通のお仕事なんだがね。随行中私の身の回りの世話をして欲しいんだ。だから正しくは、師団長閣下に随行する私に随行してもらう、だよ。 しかしまあそうすると、残念な事が起こり易い環境にも、貴女には同行して貰う事になるワケだねえ」

 そしてその「残念な事」から唯一守ろうとしてくれるのは、軍事国家内で戦争を止める為に現地で暗躍しようという人、ってワケね。普通のお仕事って、完全に嘘でしょ。

 3人が私の混乱ぶりをどう見ているのか、確認する勇気が湧かないまま何とか表情だけは取り繕う。手はまだ少し震えているけれど、声も普通に出せそうだ。

「畏まりました。尽力致します」

「結構」

「待て!」

 私の返事に満足げな伯爵様の声が返されるや否や、地獄の大魔王みたいなバリトンが轟いた。反射的に師団長野郎へ目を向けてしまう。戦場で、味方の指揮官がこの声だったら、兵士達は勇気を鼓舞されるに違いない。そして敵だったなら、今の私のように怯んで出遅れるに違いない。

 心臓を直に鷲掴む様な、そういう声をこの人はしている。

「承諾し兼ねる! それは承諾出来んぞリヒト。無理だ。前回の演習とは違うんだぞ。状況が悪過ぎるっ」

 地球にもあった。時々ニュース番組とかで見聞きした。軍事演習と言う名の威嚇行為。その演習がもう済んでいて、最高幹部クラスのこの男が、特攻隊の流れを組む黎明師団が出向くのなら、それはもう戦争だ。


・・・戦争?・・・本物の?


 ああ、ダメだ。どうしてもここで思考が止まる。

 無理はこっちだよ。無理だよ。本当無理。私、日本人だよ。戦争なんてほぼフィクションとしてしか認識してないよ。テレビの向こうの話だよ。

 でも、そんな事、この人達は知ったこっちゃないんだ。

「・・・私にとっては、その演習とやらも戦争ですよ、師団長様」

 分かってる。ここは日本じゃ無い。

「民間人にとっては、軍隊が生活圏の傍で殺気立てばそれは、もう十分戦争です」

 うっかり、ほんとうっかり喋ってしまった。がっつり三白眼を睨み付けながら。私、頭悪過ぎ。怖い。分かってる。でも。

「子供たちがいつもと同じように遊べなくなる。おばちゃん達の井戸端会議から笑い声がなくなる。田畑が、農園が、果樹園が、工場が、お店が、勤め先が、委縮していつもと同じ仕事が出来なくなる。戦争と呼ばなくても、それはもう戦争です」

怖いよ。

本当に、怖いんだよ。


 考えないようにしていた、日本への思いが少し込み上げた。

 夢オチじゃなかったら、今頃、元の世界の私の周囲はどうなっているのかな。

 時間の流れが違いそうだけど、どうなんだろう。

 会社、無断退社に無断欠勤。

 行方不明で捜索されてるのかしらね。その場合勝手に部屋入られて、根こそぎ見られちゃうんだろうか。恥ずかしい物は置いて無いけど、独り身で豊富な下着類はちょっと痛いヤツと思われそうで嫌だなあ。

 何より、両親や弟がどんな思いをしているのかが、気がかりだ。

 心配してるだろうか。探し回ってるかな。一親等の家族に行方不明者が出たら、周りにどんな目で見られるかと考えると、私に非は無い筈だが申し訳無い気持ちになってくる。

・・・ああ、ここだな。ここが一番怖いんだ。

『私のせいでこうなったの?』

 誰にも聞けない、誰かに聞きたい、一番奥にある不安。

 理不尽な何かが起こって、不運にもこの状況になっている、と勝手に解釈している。私は何も悪い事してないって、被害者だって、信じ切ってる。

 けど、証拠は無い。

 もしこの事態が、親不孝者の私への罰だったら。知らぬ内に誰かを酷く傷付けていて、その罰なのだったら。受け止め難い苦痛に、乗り越え難い理不尽に、私は今後もっともっと遭遇するということだ。

 そしてこの不安が的中した場合はきっと、帰れない。ただで帰る事は、ほぼ確実に出来ないだろう。

 その事実を認めるのが、何より怖いのに。


 睨み付けている淡い青灰色の瞳が、不意に存在感を増した・・・ような気がしてびっくり。慌てて逸らして給仕に戻る。大盛りの嫌味を付け足しながら。

「・・なので、一般民間人で異文化人で失魔症の私は何れにしても足手纏いで、殺すチャンスはきっとすぐに来ますよ。邪魔になる前に消せますから安心してお連れください」

やっちゃった!

 死ぬ?死ぬよね?拷問の末袈裟掛け的に殺害だよね?戦場でこっそり殺られるのとどっちが怖いかな?

 誰とも目を合わせないようさり気無く目線を動かしながら、伯爵様と師団長野郎のコップへ食後のお茶を入れに行く。美しく輝く金属のピッチャーみたいなのから、さらさらとコバルトブルーの液体が流れ落ちる。匂いは渋みが尋常じゃないアールグレイみたいな感じ。後味が悪そうなそれを注いでる間、沈黙が痛かった。

 だからって、師団長嫌な奴野郎のコップに注ぎ終わる瞬間を狙って、態々タイミング見計らって言う事無いと思う。怖い!

「いざとなったらリヒトに守って貰えるとでも思っているのか」

思ってるよ!てゆーかそれしか無いよ!

 この野郎ほんっとに嫌いだ。という私の内心以上に熾烈な、ウジ虫でも見るような眼で、吐き捨てるように言われた。

「それとも騎士は女子供を殺さないとでも思うか」

思わないよ!そんなポジティブな性格ならこんな事態になってねえよ!

あーっ!もうっ!!

「もちろん、甘えた考えが無いとは申しません。ですが、他にありませんので」


私には、何も無いんだよっ・・・。


「将来を捧げたヴァレンティヌス様のご決定は、全て承諾するしかないのです」

 言語は通じてる。でも、私の言葉は師団長わからず屋野郎に全く届いていない。そんな気がする。全部の会話が、分厚い何か越しにしているような感覚だ。

 彼は私に言うべきでは無い事を言わせたにも関わらず、一切の反応を示さなかった。至極不機嫌な表情のまま、埒が明かないとでも言いたげに伯爵様へ視線を流す。

「導師、しつこいようなら出立前にここで殺すぞ。それでも良いのか」

 対する伯爵様は、何故か侯爵様の肩へ手を置いて答えた。

・・・あれ?侯爵様?

「何をそんなに警戒する。たかが素人の女一人。恥ずかしい。 まあ良い。そんなに殺したいなら殺すが良い。今ならふてぶてしさも手伝って殺し易かろう」

はははっ、何言ってんだリっちゃんめ。

 侯爵様の様子に気を取られた隙に、頼みの綱がぽいってされた。信じられない。唖然通り越して呆れてしまった私と、顔色を失って愕然と師団長を見詰める侯爵様を横目に、伯爵様から真っ黒な意思が放たれる。

「だがその時はゲイル、今辛うじて失われていないもの全てを失うと思え」

 何度も言わせるな、目を覚まさないのなら、置いて行く。

 そう言い足した伯爵様の言葉に、侯爵様がとうとう両手で顔を覆ってしまわれた。そのまま蹲る様に義足の膝へ伏せる姿に、やっと気付いた。この3人、さっきからずっと、水面下で話をしているのだ。私が考えてる以上にずっと深く、ずっと逼迫した話を。

 もしかしなくても、この後の師団長野郎の言動しだいで、決裂がある。

 いやだ。足まで震えて来た。

 だって、身分社会の国の中枢で、上流で、階級無視して愛称で呼び合う仲なのに。年齢差も無いかの様に、襟元を緩め、ソファにゆったりと背を預け、同じお茶を飲み干して、具体的な言葉を使わずに意思の疎通が出来るほど、気を許せる間柄なのに。


そんなにも、戦争って、そういうことなの?


・・っ!!

 変わらぬしかめっ面の師団長馬鹿野郎が口を開き掛けた時、なんでかダメだと思った。雰囲気かな。絶対コイツ間違える、そう思った。



 取り返しが付かない言葉を吐く、そのバリトンを遮ったのは衝動だった。




根気良くお付き合いくださり、ありがとうございます。



評価ポイントやお気に入り件数に一喜一憂すべきでないと分かっていても、増えると凄く嬉しいし、減るととっても哀しいです。

どちらの場合も、モチベに繋がる様な解釈を無理やりするようにしてますが。

でもやっぱりお気に入りに入れて下さった方、ポイント入れて下さった方には、心の底から感謝の限りでございます。ありがとうございます!

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