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カレン  作者: f/1
異世界
22/62

21

作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。

誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。

また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。




 お食事姿は三者三様でした。

 伯爵様はイメージ通り過剰なほど優美な仕種で、やたら軽いホワイトゴールドみたいな金属のナイフレンゲを器用に操り、租借音等一切立てず、お残しもおかわりも余計な要求は一切せず、それはそれは美しくお召し上がりになった。

 お父上侯爵様は、伯爵様から過剰さを綺麗に抜き取ったような、絵に描いたような完璧な食事姿を披露なさった。ダイニングテーブルではなくソファテーブルという食べ難さを物ともせず、流石上級貴族と言ったところ。しかもそれを、こちらの世界ではこれが当たり前なのかと勘違いしてしまいそうなくらいの自然さで、さらりとやってのけていらっしゃった辺り、非常に器用な人物なのかも知れない。マンツーマンで給仕をするアンマリちゃんとの組み合わせが、まるで絵画のようにぴったりで心底感心してしまった。

 師団長野郎のお食事風景はもう見慣れた通り。元来伯爵家嫡男としてお生まれになったと聞いていた通り、基本的にこの男、軍人という言葉が持つ荒々しさが所作に無い。例えば扉の開閉やグラスを置く時とか、殆ど生活音を立てなかった。もっと言えば、実はすぐ傍に居ても足音や衣摺れ音も聞こえないほど静かな立ち居振る舞いをしていたりする。

 顔や体が威圧的過ぎて最初気付かなかったよ。てゆーか、あの大きな体を捌き切る鍛え方って、正直ゾッとする。

ゴツイくせに鈍く無いんだよ?!要らないよアレに機敏性とか!怖い!

 しかも、食べる量は軍人らしく凄まじく、朝食と同様、何度かお代わりをなさった結果、伯爵様の3倍はお召しになった。静かに黙々と、スルスルと、あっという間に3人前。

 大食いで、気配が静かで、躍動的な体で、顔が厳つい・・・モロ猛獣系。怖いっつーの!

 ちなみにこの国の食事にコースなどは無く、1人1枚大皿がでーんと配られ、その大皿に前菜からメインまでずらりと盛られており、スープだけが別の器である。なので足りなかったら給仕にお代わりを要求するのだが、その合図が目配せだけという、給仕側からすると結構な難易度のもの。私はまだ慣れないのでかなり気を配って無いと見落としそうです。

 そして悲しい事にデザートはありません。囚人の私だけが雑な食事を与えられているのかとも思ってたんだけど、この度正式に判明しました。

 この国、良く言えば大らか、悪く言えば大雑把だ。盛り付け然り、ナイフスプーン然り、石鹸然り・・・。

 流石元傭兵、とか何とか観察しつつ考えている内に、「いただきます」も無くさらりと始まった会食は、あっさり終盤に差し掛かっていた。会話は極自然な日常会話的なものばかりで、時には沈黙もあったが、不快感どころか違和感すら感じぬほど至極穏やかな食事風景だった。

 怖ろしいのは、給仕の為に傍で控えている私を、その会話に参加させようとする事。嫌過ぎるので受け流していたが、どうやらここに来て本題に入るらしい。何かのムニエル的な物の最後の一欠けを嚥下した伯爵様に、あの独特の声音で名前を呼ばれた。

「カレン」

「はい」

 あれ何だろう。色がペンキで塗ったみたいな真っ黄色でかなりエグいが、匂いが白身魚っぽいあっさり系。

「そこでどうだろう。貴女に頼むつもりなのだがね」

・・・・・・は?

 いけない!嫌過ぎるからって聞いてなかった!

 うっかり地で「はぁ?」って言っちゃいそうになったけど、何とか踏ん張って微笑を保つ。すぐ傍に座る真っ黒魔導師の顔を珍しく見下ろす角度で、浅く頷いて見せた。内心に噴き出した冷や汗は微塵も悟らせまい。

「畏まりました。ですが、何にしろ、ご期待に添えるかどうかはお答えし兼ねます」

 何をさせられるにしろ、冤罪を主張中の囚人に拒否権など無い。精々やりますとも。開き直りに近いが他に選択肢は無いので、言い終えた後一層営業スマイルをしてやった。ら、案の定魔導師先生は嘲笑うような笑顔を返してきた。

「予防線のつもりかね」

 呟きは聞こえなかったフリをしとく。

「急に何の話だい?僕も混ぜてくれないか?」

 クリスたんパパ侯爵様が伯爵様の向こう隣りから言いながら顔を覗かせた。見れば師団長野郎が警戒心剥き出しで伯爵様を睨んでいる。なるほど、どうやら何の事か分からなかったのは私だけじゃ無いらしい。

 侯爵様の柔らかい苦笑が意味深な気がしないでも無いが、この人物自体はほぼ無害だと思う。

 だってご挨拶からこっち、クリスたんの話題が全く出ず、彼らの食事中の雑談を聞く限り私に関しては「地図にも載らぬ遠い小さな島から救いを求めてやって来た失魔症患者」的な扱いらしく、実に表面的な会話と空気しか無かったのだが、その中で彼は実に紳士極まる言動で、件の2人しかエヴル男性を知らなかった私を心底安心させてくれていたのである。

 それに侯爵様でありながら、失魔症差別をする気配が微塵も無い。むしろ至極同情的で、励ましのお言葉を頂いてしまったくらいだ。紳士と言うか、良識人かも。

 すっごいレベルのタヌキ、って可能性も全くのゼロって訳じゃないけど。

 どことなく漂う、このヒトの持つ柔らかい雰囲気、高過ぎる透明感が、どうにも悪人とは程遠く見えた。真っ黒魔導師が隣に座っているから尚の事引き立つ儚さが、ある種の油断を誘う。

 まあもちろん、その伯爵様が何か企んでる場で本気で油断なんてしませんとも。空気とか読まないってゆーか読んだ挙句でぶっ壊すの平気なヒトですもんね。ええ。

 そしてその事を、パパ侯爵様もきっと良くご存じなのだろう雰囲気。

「今度はどんな悪戯を? リヒト」

 成人男性のくせに髭が生え無さそうな細面で微笑んで、伯爵様と愛称で呼び合う彼はナイフレンゲを置いて食事を終了した。すぐにアンマリちゃんが食器を下げ、お茶の支度に掛る。ソファセットの反対側で淀み無く動く彼女を横目に、魔法のテノールが唄った。

「悪戯とは失敬な。私はただ、妃殿下のお望みを叶えて差し上げたいだけだよ」

「「何だと?」」

 即座に全く違う質の声が2つ、全く同じ不穏さで、全く同じ言葉を吐いた。

 驚いた。師団長野郎は予想通りのリアクションだが、まさか、紳士代表の優しいアルトがオクターブ下がって切れ味倍増するとは。

 やっばいこのパパ、愛娘が関わると人が変わるタイプだったらどうしよう!おっかない!私のエヴル登場秘話を知ったら師団長野郎並みに、いや、あの国王様並みに私を疎む可能性があるじゃないの。

 と、無駄に怯む私に構ってくれるような伯爵様では無かった。

「何、と言われてもね。妃殿下はずう~っと以前より、たった一つの事をお望みだ。他の何もお望みになった事は無い、と言い切って相違なかろうよ。 故に私はその為に尽力すると決意を新たに」

「リヒト、頼むから分かる様に話してくれ。 僕はあの子の願いが、望みが何なのか分からないんだよ」

 いつもの伯爵様の独壇場を、縋る様な声で遮ったのはパパ侯爵様だ。

 その繊細な面立ちに浮かぶのは、悲痛な、何か。その表情に、あの時の美少女の涙を思い出す。


 我が子のたった一つの望みが分からない、なんて言葉を、口に出して言う痛みはどれほどだろう。


 子供をつくりたいと思った事すら無い私には想像も付かない。

 でも、流石の伯爵様も、知己の絞り出した訴えには少し揺らいだらしい。珍しく少し言い淀んで、深い溜息と共にナイフレンゲを置いた。同時、背をソファへ預けて、高く足を組む。イヤンな感じだ。

「まったく・・・呆れる。 分からない訳が無い。分かっている筈だよ、ウィルも、ゲイルも。あの娘はずっと言っている。同じ事を、たった一つの事だけを、ずっと血反吐を吐くような思いを込めて訴えているだろう」

 ほぼ無意識、給仕として伯爵様の食器を下げようと体が動いた。深刻で沈鬱な空気が場を覆い始めているのを感じながら、何気無く大皿を手に取った瞬間。


「戦争をやめて」


え・・・・・・。

「王妃はずっとそれを望んでいる」

 息が、止まるかと思った。

 いや、実際に止まってしまった。息も、手も。1秒以上たっぷり凝固してしまった私を、伯爵様と師団長野郎の目が鋭く捉える気配がして、慌てて動作を再開する。相当不自然。でも、私が取り繕うより先に、苦悩に満ちた低いアルトが彼らの気を引いた。

「そんな事は知っているっ。だが今はそれどころでは・・」

「それはお前の都合だろうよ、ウィル」

 ぴしゃりと打ち据える音が聞こえそうなほど、先生は容赦無く言った。

「クリスの『他の』願いを全て叶えてやりたい、というのは完全に貴公の都合だ。我々にとってその方が都合が良い、という話だ。愚か者め。いい加減に目を覚ませ。それでは永遠にあの可哀想な娘は救われない」

・・・なんということを。

 何て言い方をするのだ、この暗黒魔導師め。悄然と色を失った侯爵様の様子を横目に、伯爵様の食器をワゴンへ下げ、食後のお茶の準備をする。その手の震えを止められる気はしなかった。

 軍事国家の中枢で、戦争を否定する少女。

 だだっ広い王妃の部屋で、ひとりぽっちで、声を殺して震え泣く彼女の前に、突如現れたのは・・・。

「私はもう目が覚めた。諸君。私はもう、とうに実行している。あの娘の、クリスの本当の望みを叶えてやるために、私はもう実行しているぞ」

 トントン、黒い手袋の指が叩いたのは、茶器を置いた瞬間の、私の震える手の、すぐ傍。


 戦争を憂う王妃様の前に現れたのは、戦争を放棄した国からやってきた人間。




当愚作にお付き合い下さって、まことにありがとうございます。



漸く少し物語として動き始めました。が、残念ながらまだぐずぐずします。

せっかちな方はここから読み始めても、まだイライラするでしょう。

ここまで焦らしといて、皆様の嫌いな展開が待っていたらごめんなさい。。。

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