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カレン  作者: f/1
異世界
21/62

20

作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。

誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。

また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。




・・・・・・うーわぁ。すっごい怖い言い回し。

 ドン引きしかけたが、勿論態度には出さず、即答くらいの速さでにっこり返しておいた。

「もちろんです。この世界での私の未来は、貴方のものです。伯爵様」

「この世界での、ね」

 この回答は満点だったらしい。とっても満足そうな改心の笑みをくださった。なんてどす黒い笑顔。すっかり見慣れてしまったけれどきっと、私の中の美形基準も腹黒基準も跳ね上がって崩壊している気がする。最早ちょっと美人だと思っていたミキちゃんが凡人レベルへ移動済みだ。あ、でもそうなると自分がとんでもないレベルに・・・。

 いやいやいや、それどころじゃないよ。またこちらの内心を見透かしたようなこの言い草はきっと、たぶん、警告だ。

「今後何かあるのでしたら、予告して頂けると助かりますが?」

 話題を逸らされぬ様、間を置かずストレートに突っ込んでみる。すると伯爵先生は、私が同じ表情を真似ている事は綺麗に無視し、炭クレヨンを握っている私の手をまた見詰めて嗤った。

「貴女が才女なのか、貴女の母国の教育水準が高いのか、何れにしろ、貴女はとても半端に利口だね。稚拙な暗愚であったなら無条件で可愛がってやれたのに」

 超同感!とは流石に言えなかったので、苦笑だけ返しておいた。察している事を察せられている感じの不快な会話は苦手だ。背筋がぞわぞわする。

 不気味な警告の詳細を教えてくれる気は無いらしく、その後はいつも通りの楽しい雑談で終始した。私が若くて可愛くて美人で愛嬌があって素直な甘え上手だったなら、きっと手取り足取り、何をするつもりにしても丁寧にゼロから見せてくれたんだろうと思う。

 企んでいる事が有る。

 準備をしている、もしくは始めようとしている。

 それを事前に臭わせて覚悟を促してはくれるけど、半端な私ではそれ以上はしてくれないようだ。私如きが察する事が出来る範囲を、恐らくほぼ把握しているだろう魔導師の内心は、逆立ちしたって片鱗も見えない。どういうヒトなのかも、全然分からない。

 ヒントはこの1週間で詰め込まれた一般常識。

 特に今日、彼が「良く覚えておけ」と言った軍事階級のややこしさと、つまらなさそうに説明した現状は重要な気がする。その直後に、この警告があったのだから。

 複雑な軍事事情は必須知識。

 師団長野郎の立場に関する話は、はたして予備知識か、それとも・・・。


 簡単な昼食もそこそこにぶっ続けでお勉強会の後、4隔に切り替わる頃、午後6時頃に私は伯爵先生からアンマリちゃんへ引き渡され、鮮やかな夕焼けの中、自室に戻り夕食を頂く。夕焼けの色がほぼ地球と変わらない事に、少し胸が焦がれるような気持ちになりはじめたのは昨日の事。

 今日もまたその気分を味わって、微妙な味の異世界食を掻き込んだ。夕食は少し急がなくてはいけない。毎日同じメニューで飽きるなあ、とか感想してる時間は無い。食べ終わったらすぐ食器を洗い、アンマリちゃんが用意してくれているお貴族様用の夕食を、お隣さんへお届けしなくてはならないのだ。

 そう、おっかない給仕の時間だ。

 が、この日、ワゴンを見ると、偉いサン用の陶器っぽい美しい食器が3人分乗っていて、私は言うまでも無く死ぬほど嫌な予感を抱いた。けどこれまた言うまでも無くとっととしろと無言で侍女様に急かされて、師団長野郎の元へお勤めに行った。今夜は執務室の方らしい。

 このお勤めが始まって以来、初めて執務室でのお夕食。お客を2名、お招きで。

あああああ・・嫌過ぎる・・・。

 アンマリちゃんにノックしてもらうと、自室の方と違って部屋の主の師団長野郎では無く、さっき別れたばかりの真っ黒先生がドアを開けてくれた。あらなんだかデジャヴ。

 驚きを隠せなかった私にひょいと顔を寄せて目線を合わせた魔導師は、すぐ隣に居るアンマリちゃんにも聞こえないような極小の声で囁く。骨髄に直撃する魅惑のテノールと、とーっても優しげな笑顔で。

「最初のダンスは単調なテンポと相場は決まっている」

 踊り易いから安心しろ、とでも仰られているつもりでいやがるのかコンチキショー。

 このヒトきっと踊らされる側に立つ事、無いんだろう。入室を促しながら見詰めて来る赤い目にはっきりと、支配する側の威圧感が込められていた。・・・怖い。

 もうヤんなるくらい怖いので、いつも通り笑んで、彼の傍を通り過ぎる時に囁き返してやった。

「リードが下手だと足を踏みますよ?」

 言いながら入った師団長執務室には、見知らぬ男性が1人、ソファセットに座っていた。

 背後から肩に手を回してきた伯爵様に押されるまま近付きながら、読めない微笑でこちらを見ているその男性と、その向かいに横柄な感じで座っている師団長野郎と、周囲をざっと見渡す。伯爵様が鼻で笑う様子が伝わって来たけど無視!嫌い!

 燭台は全て煌々と灯り室内は明るく、カーテンは全開で快晴の夜空と、小さいのにやたら明るい半月に照らされて、ほの白く輝く王宮本宮がくっきりと見えている。師団長野郎とお客様は首元のホック(?)を外しているようだ。伯爵様はフード付き丸首ローブだから除外。

 ティーカップは3セットで、中身は3つとも空。私が来るまで、伯爵先生はこの男性の手前隣に座っていたらしい。師団長野郎はソファの背にその長身をゆったりと預け、いつも通り私を睨・・監視している。怖っ。

 柔らかい上品なベージュ色の長衣を完璧に着こなしているこの男性は、彼らにとって緊張を強いるような存在では無いようで、思ったより暗い密会的な空気も無い。

 とまで考えたところで、伯爵様が触れ合う距離で言った。

「まず紹介しよう。 ウィル、こちらが先ほど話したカレン・コーサカだ。 カレン、彼はウィルトール・ディル・ロレンシア卿だ」

ディル?ってことは・・・・・侯爵?!

 一瞬顔が引き攣ってしまったが、何とか堪えて礼を取る。はじめましてくらいは言えたが、傍まで来た事で目や耳が続々と拾う情報に目を回しそうで、肩に乗り続けている伯爵様の手にビビる余裕すら無かった。

 私と同い年くらいの外見年齢の彼は、如何にも上品で上質な会釈をして見せる。目尻の下がったサファイアの瞳を柔らかく細め、それに似合った柔らかい透明な声質で言った。

「はじめまして、カレン殿。足が悪いので、座ったままで失礼するよ」

 ポンと自身の右足を叩いて、彼は「よろしく」的な事を続けて言った。それへ反射的に返しながら、引き攣る頬を何とか宥めようと苦心する。

 印象的な真っ青な瞳がもうアレだが、全体的な顔立ちが疑う余地も無いくらいそっくり過ぎる。挙句ロレンシアときた。

 顔だけなら凛々しい美女で通りそうな伯爵様の美貌とは違い、黙って立ってるだけで子供を泣かしそうな師団長野郎の厳つい端正さでも無い。また別の種類の美形だ。男性なのにどこか儚さのような、線の細いこの美青年さんは、王妃クリスたん殿下の血縁者に違いない。

 胸元まである茶色の髪だけが、クリスたんと似ていない要素だ。他はもう問答無用でそっくり似ている。年の離れた兄か、下手したら・・・。

「侯爵閣下は妃殿下のお父上様であらせられる。失礼の無いように」

 考えるまでも無く、頭のすぐ近くでテノールがたっぷり意味を含ませて囀った。内心舌打ちし、日本人のお家芸、営業スマイルを全力で披露しながらもう一度礼をしておく。

「存じ上げず失礼を致しました。お目にかかれて光栄です。 お許し頂けるようでしたら、ご夕食の準備に取り掛からせて頂きたいのですが、宜しいでしょうか」

 極めて控え目に、至極丁寧に、お伺いを立てる。ちらりと部屋の主へ目配せする事も忘れない。案の定、試すように私の言動をガン見している師団長野郎は、無反応で睨み続けて来る。が、それも怖いとか感じられないほど混乱中です。やっばい。

 私の事について、何をどう話していたのか。分からないから迂闊な言動が取れない。最悪の場合、彼にとって私は、愛娘に危害を加えようとした極悪人なのだ。

何が単調なテンポよ!いきなりハードロックじゃないの!

 いや待て落ち着け私。伯爵様にとってこれが小手調べレベルなら、今後はもっとえっぐい展開になるのだ。出だしで愚図ってる場合じゃない。勢いでリズムに乗ってしまわなければ、私の性格上、絶対超後ろ向きに投げ出してしまうに決まってる。

「それではお願いしようかな。丁度お腹が空いてきたとこだったんだよ」

「畏まりました」

 都合の良い事にすぐ許可が出たので、私は出入り口付近で待機しているアンマリちゃんの元へあっさり取って返す事が出来た。その隙に気を取り直そうとするが、そのアンマリちゃんが緊張を隠しきれない表情になっていて、何かもう、逆にちょっと救われた気分になった。

 苦笑して、無表情のまま頬に力が入っている彼女へ耳打ちする。

「侯爵様への給仕をお任せできませんか?私の付け焼刃の作法では粗相があってはいけません」

「・・・はい」

 更に頬を引き攣らせたアンマリちゃんだったが、流石プロ。瞬き1回で切り替えて、完璧侍女へ。

 案外この娘が精神的なセーフティになってるのよね。

 私も、意図的な瞬きを1回する事で、苦い笑みを引っ込めた。




ここまでお付き合い下さった皆様に、心から感謝を申し上げます。



記念すべき20話目です。言うまでも無く、まだ斜め読み推奨範囲です。

本当にごめんなさい。趣味なんです。色々と。

でも結構、猛省中です。

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