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カレン  作者: f/1
異世界
14/62

13

作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。

誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。

また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。




 美貌の魔導師は言った。

この世界の名は、エヴル。嘘か本当か、世界を創った神の名だ。

 それが苦笑だったのか、嘲笑だったのか、判別出来なかったけれど、少なくとも彼が信心深いタイプの人間じゃない事は分かった。望むところだ。私も無宗教ですよー。


 8割が皮で2割が紙みたいな質感の世界地図。恐らく地球では羊皮紙的な存在なのだと思うけれど、ナマで羊皮紙を見た事ないので良く分からない。それよりも、意外というか当然というか、その地図に書き込まれている横書きの筆記体に似たふよふよの文字、それが読めなかった事の方がよほど重要だ。ドイツ語とフランス語の違いも分からない私の知識では、これもまた判別不可能です。日本の義務教育レベルの英語でギリです。

 しかし、はっきり見えるようになった視力で注意深く観察してみれば、何の事は無い。私はこの国の言葉を理解していないのだ。彼らの口は、日本語なんて喋って無い。

 吹き替えの映画のよう。

 私が以前読んだ異世界トリップの小説では、そう表現されていた。その不思議な現象がこの身に起こっている。彼らが発している別言語を、リアルタイムで脳が勝手に日本語に訳しているのだ。しかも当て嵌まる漢字まで的確に。これが魔法なのか何なのか知らないが、何故その能力を耳だけじゃ無く目にも付与してくれなかったのかしら。不便。

 その事を訴えてみると、伯爵様は「お手上げ」と私と同じ感想を、私と全く逆の感情を込めて言った。珍しい昆虫を見付けたオトコノコのような顔だ。聞けば彼らから見た私も吹き替え映画状態らしく、彼はここまでずっとその事を面白がっていたようだ。他人事と思って!

 外面は控え目な営業スマイルのまま、続きの説明をおねだりする。そもそも昨日の時点で私に異世界授業をしてくれる約束だったし、さっきの契約染みた提案が受け入れられた時点で、私には知識を強請る権利が有る。けどもちろん表面上は控え目で丁寧にするよ?なんだかんだで伯爵様も怖いところ、無いわけじゃない。むしろ・・・

 と、手袋を嵌め直した黒い指が、私のお尻の傍にある件の地図をトントンと叩いた。見遣ると、にっこり笑まれる。幾らか見慣れた作り笑顔。誰でも偽物と気付けるように計算されて作られた、鮮明な偽物。

「文字は全て国名だよ」

 異世界エヴルの構造は地球に比べると至極単純。なんせ大陸が一つしかない。無論、この地図がどこまで精巧なのか分からないし、そもそもどこかのスパイかも知れない人物に、国の最先端の地図を馬鹿正直に見せるはずもない。でも、それにしたって酷い地図だけどね。昨夜から今朝の間に、私用に準備された間に合わせの手書きかな。手書きじゃない地図が存在するのか怪しいとこだけど。

 何せ魔法を除いたらほぼ中世ヨーロッパレベルだもの、文明とか。衛星写真は概念すら無いと思う。

 大陸の他には、地図の右下端に無理に引き延ばした紅葉みたいな形のとびきり大きな島と、一つきりの大陸の周辺に大小様々な形の島がある。文字以外に書かれているのは、大陸をごちゃごちゃと区切る線だけ。その線が国境線と聞かされて更に愕然とした。

「このエヴルには、大陸と巨島があり、全部で25カ国存在する」

 もしこれが正しい情勢で、正しい世界地図なら、この異世界エヴルは陸地がとんでもなく小さいか、1ヶ国や1地域がとんでもなく大きいかのどちらかだ。うん。この建物を見るに、後者の確率が高い。一々が恐らく、日本とは比べ物にならない規模だと思う。

 世界、惑星規模のサイズ比較はどうかしらと一瞬思ったけど、分かるわけがない。聞いても惑星という言葉自体が存在しなかった。うかつ。

 この世界の事を教えてもらう為に差し出したのは、それを得た後の私、この世界での私の未来、だ。過去、地球の知識はその範囲では無い。惑星という概念が無いなら、これ以上この話は進めない方が面倒が無くて良いと判断した。

 で、唯一の大陸の形は、中東などの南側を削いだユーラシア大陸か北アメリカみたいな、あちこち抉れた歪な長方形で、最大国の名前はバルバトリアだ。大陸を西と東に半分こして、その西の方の3分の2以上がこの国なのだとか。地図上でもそうなっている。ユーラシア説も北アメリカ説も瞬殺。てゆーか世界の西側は殆どこの国じゃないか。

「ついこの間まで世界最強の軍事国家として侵略しまくってたからねえ。あ、また侵攻開始するんだったかな?どっかの臭いそうな誰かが、向こう3年の間に世界の半分はバルバトリアにしたいー・・みたいな事を言ってたねえ」

聞きたくない聞きたくない。

 余計な情報をシャットアウトするように、にっこり微笑んで即行話題を逸らす。

「いっぱい島がありますが、やっぱり私の国と同じ形の島は無いです・・あ、私の母国、島国なんです。世界有数の国土の狭さで、世界有数の経済力だってのが自慢の国です」

ちなみに世界で唯一、戦争を放棄した国です。

 一瞬悩んだけど、それは言わないでおいた。軍事国家の軍人の偉いサンがこっちを睨み続けているので。

「国土が狭いのに?経済力が高いって?」

 びっくり眼で声を高めた伯爵様が、素で訝しがる表情を見せた。基本、知的好奇心が強い人なのね。是を返すと、そのまま思案顔になって黙った。目線も空へ逸れる。

 その向こう、伯爵様に遮られた位置になっていた師団長野郎が、絶対零度のバリトンを吐き捨てた。

「証言の内容の吟味は後で良い。必要な話を先に済ませろ」

 だいぶ慣れて来たとは言え、その声はともすれば右肩の痛みを思い起こさせる。間に伯爵様が居ても、気を抜いてはいけなかった。心臓がまた無駄打ちをしまくる。

「・・本当につまらない人間になったね、ゲイル。 まあ良いけどね。今私はカレンに夢中で、貴殿の事など眼中にないとだけご報告申し上げておくよ」

 私もその内、伯爵先生みたく、あの三白眼に睨み下ろされても平気になれるんだろうか。いや、なったらなったで失くしてはいけない何かをまた失くしそうだな。むつかしい。

 犯人へ世界地図を見せた時の反応を取り終えたのか、師団長つまらない野郎は長い腕を利用し、テーブル上の別の物を大きな手で掴み、すぐに地図の上へゴロンと放り投げるようにして寄越した。がっしりしたゴツい手だが、体躯同様、どこかすらりと整った感じがするのが嫌過ぎる。指も長くて、一々隙が無い。でも妙な所にペンダコみたいなのがあるのが見えた。あれが俗に言う剣ダコか。怖過ぎるって!って言うかそんなとこまで見えるこの視力の良さ。1.5超えてんじゃないの?すご!


・・・ところで、これはなにかしらん?


 さっき医務室でアンマリちゃんが手にした消毒液の入った瓶のような物。それとそっくりな透明ガラス的な入れ物に、親指の先程のサイズのお豆みたいなのがたくさん入っている。色は赤黒く、表面はつるんと陽光を反射して・・・あ!

「小豆!?」

 閃いた!と思ってドヤ顔してしまったのを咄嗟に取り繕う。

「あずき?」

 伯爵様が舌っ足らずな感じでオウム返しにしたので、どうやら違うらしい。色々言葉を並べてお豆的な物だと理解してもらった。が、途中から部屋の空気が微妙になるのを感じて見回せば、伯爵様・師団長野郎・アンマリちゃんがそれぞれ違う表情になっている。師団長野郎は変わらぬ鉄の無表情だが、伯爵様は異世界お豆事情を聞きたそうにウズウズしてる感じだし、遠く出入り口傍のアンマリちゃんは顔が青褪めていた。

「・・これ、お豆じゃないんですね。適当な事を言って申し訳ありませんでした。 では、これは一体何でしょうか?」

 間髪置かず、師団長野郎が答えた。や、答えじゃない。

「食え」

 うわ、嫌な予感。むしろ他の予感を抱かせない言い方だ。怖い超え。

 伯爵様をチラ見したが、案の定にっこり笑顔で私を見守っている。こちとら無実の証明を切望中の囚人だ。試されたら挑まなくてはいけないが、本当に大丈夫なのかなあ。

 何かもう既に尋常じゃないほど嫌気が差してきたんだけど。

 面倒臭いのダメなんだってば、と内心で愚痴りながら、顔は何とか苦笑で止めて、さっさと瓶を手に取って蓋を開ける。良かった、魔導具じゃなくて。でも触るとやっぱりガラスじゃなかった。師団長野郎が投げても平気だったからそうじゃないかと思っていたが、意外と弾力のある不思議な感触がする。ゴム質が混ざった感じ。蓋の構造も、その弾力を利用していて、引っ張るときゅぽん的な音を立てた。

 異臭も無いし、私の未来を受け取った人が目の前に居るので、躊躇う理由が見付けられなかった私は、この時、普通にそれを口に入れた。掌に瓶の口を傾けたら3粒出て来たので、そのまま全部放り込んで、結構な大きさと量と固さだったのでもちろん噛んだ。お豆の先入観あったしね。飲むって感じじゃ無かったの。


「それは『白い魔獣』だ」


 だから、口に入れた途端また虫けらを見る目でそう言われても、「変わった名称ですね」とガリガリ噛みながら答えるくらいしか出来なかった。固いから凄い音だ。ちょっとはしたないかしら。しかも味がまた微妙な氷砂糖みたいで、超絶薄味で刺激も何も無いから、特にリアクションもせず暫く噛み続けてから飲み込んでみたのだけど、それもよろしく無かったみたい。

 もうちょっと慎重に、深刻な感じで挑むべきだった。




お読み下さった方々へ、心からお礼申し上げます。



この作品は恋愛物です。こってこてです。ご注意ください。のはずです。

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