表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カレン  作者: f/1
異世界
13/62

12

作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。

誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。

また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。



「そうだろうとも!」

 痛快!と、伯爵様はとうとう声を張り上げて笑い出した。分かるような分からないような、笑いのツボが微妙な方だ。それとも思惑あっての演技かな?

 その様子にうっかり苦笑した私に、一層相好を崩した美貌の魔導師は、ぐいっと腰を折って顔を寄せて来た。どこかで見たような仕種だが、この血の色の瞳が爛々と輝くのは初めて見る。幼い少年のようだ。

「その通りだ、それで良いカレン様。 いやもうカレンで良いね? そうとも。私と貴女は対等である!」

「リヒャルト!」

 堪りかねて叱咤の声を飛ばした師団長野郎の低音に、しかしビビって黙ったのは私だけだ。その私にも、もう分かる。師団長野郎のカードは先出し専用。機先を失すればただの飾りだ。あの時、この2人が医務室の中と外で言い合ってた時もやっちゃってる。

 政治的な問題か何かが関係しているのか、妃殿下は時に陛下を黙らす。

「妃殿下が客とお呼びになられたカレンと、私が対等で何がおかしい」

 完全に悪党の笑みになった伯爵様と、完全に米神に青筋立てた師団長野郎が、私を挟むように睨み合う。怖いんだけど、第三者からは私がモテてるように見えるかしらこの構図。アンマリちゃんに聞きたい衝動に駆られたが、我慢我慢。頭上で執り行われている決戦の結果は出ているが、藪蛇出さないよう大人しく見守る。数秒後、たっぷり考える時間を与えた後、伯爵様は師団長野郎へ止めを刺した。

「納得出来ぬなら、直接クリスに聞いておいで、ゲイル」

 一転、まるで誰よりも優しいお兄ちゃんみたいな笑顔で言われて、師団長野郎が心底嫌そうに顔を引き攣らせた。合掌。伯爵様だけは敵に回さないようにしようっと。

「ああ、一人で行けないなら、一緒に行ってあげようか?」

「要らん!」

 肩を怒らせてまで拒絶したゲイルたんに、お兄ちゃんは逆に擦り寄って活き活きと嫌がらせし始めた。

「遠慮は要らぬよ?私とお前の仲ではないか」

「もう良い黙れ!」

「何ならアルも誘ってみんなでクリスに会いに行こうか。久しぶりに皆が揃ったら、あの子もきっと喜ぶだろうよ」

「・・分かったからもう黙れ」

あらら、急にガックリしやがったわ。ふう~ん。

 きっととても嫌な所をズケズケ突きまくっているのだろう伯爵様の、一番の当たりはどうやら「アル」のようだ。元の世界だと男性名の略名だったと思うけど。アルバート、アルジャーノン、アレクサンダー・・・ダメだ。多過ぎて見当もつかない。でも師団長野郎をしょぼんとさせる大事な人名だ。一生忘れない。

 疲れたように眉間を揉んだ師団長野郎はとっても機嫌を損ねたようだが、私を見遣る目はやはり、ちゃんと重罪人を見る目のままだった。怖いってば!

「・・条件は」

「条件!何の話かね!」

「黙れ。譲歩してやるから」

 言いかけた師団長野郎を遮ろうとした伯爵様だったが、ポーズだったらしい。もしくは純粋な嫌がらせ。あっさり引き下がる。流石に腑抜けては居られなくなった師団長野郎が、手で伯爵様を掃う仕種をしながら私を真っ直ぐ見下ろして言った。

「条件は3つ。俺の隣の部屋で暮らす事、仕事はこの黎明棟内での従事に限る事、黎明棟の敷地から出る時は俺と導師2人の許可を取る事。 これを守れるのなら、ある程度は目溢ししてやる」

脳みそ筋肉馬鹿は本当、融通が利かない。むかつく。

 いや、言い分は理解できる。囚人扱いで監視下に置きたいんだもん。伯爵で宮廷魔導院の重役(?)のヒトが「対等」なんて言っちゃった日には、せめて四六時中目の届く所に置くしかない。軍人さんならそうそう他に手は無いだろうよ。要するに力尽く、だ。その道のプロフェッショナルなのだ。自分の専攻、自分の土俵は弁えてらっしゃる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」

 とても普通の微笑で、とても間を置いて返事をした私の肩に、ぽむっと黒い手袋の手が乗る。見上げれば伯爵様が、楽しそうに笑っていた。

「大丈夫。私も同じ部屋で寝起きするから」

「するな!」

気付いたんだけど、師団長野郎ってツッコミ気質・・・。

 間髪入れずの鋭い否定に、伯爵様は気持ち良さそうに目を細めた。こっちは完全なボケ気質。

「それは我々の自由だろう、黎明の。オトナなんだから」

「あ、じゃあお願いします」

「貴様!意味が分かっているのか!」

 当たり前だ。この年ですよ?私なんかを、と思うと悪趣味だとは思うけど、別にセックスくらいで保身が得られるなら構わない。好きな人とか居たら違ってくるけど、もうここ数年とんと恋愛から離れてるから問題無い・・・いや、待てよ?

「分かってます。 ただ伯爵様、もしかするとお手数をおかけするかも知れません」

「ん?」

「私、この世界のセックスを知りません。私の知っているものとは違うかも。頑張って覚えますから、最初の内はご容赦頂ければ幸いです」

 瞬間、伯爵様まで目を見開いて黙った。あれ?方向性間違った?って不安になったのは一瞬、すぐに伯爵様が満面の笑顔に、師団長野郎が痛恨のしかめっ面になったので、思いの外ハマっただけだと知った。

「堪らない!是非とも私で覚えてくれたまえ!」

「黙れリヒト! 貴様も恥を知れ!」

怒鳴られた!軽蔑の眼差しで!

 でも私の立場に身を置かれたら誰だってそうだろう。ス○トロやハード○Mを要求されたら舌噛んで死ぬが、普通のS○くらいまでなら頑張ってみるに決まっている。身に覚えの無い罪で斬り捨てゴメンねされるより僅かでもマシだと思う事は、根こそぎやる所存だ。今のところ。ええ、予定は未定ですとも。

 怖くて師団長野郎の顔を見れないから、俯きついでに伯爵様へ擦り寄ってみた。

「申し訳ありませんが伯爵様、私、足が限界です。地面でも良いので座らせて頂けないでしょうか」

 途端、とても高い位置から低い舌打ちが聞こえて、肩が跳ねそうになるのをぐっと堪えた。してる間に、伯爵様ったら「おや、それはいけない」とか何とか言って、私の腰をひょいと掴み上げる。えっ、っと思う間もなく、赤ん坊にするように、そのまま背後へ運ばれた。あまりの高さと不安定さに身を強張らせたが、すぐに色んな物が乗っていた大きなテーブルの端へ座らされる。お尻の下に何も無くて良かったあ。器物損壊はせずに済んだよ。

 てゆーか伯爵様、意外と力持ち。魔法で腕力UP中か?それか細マッチョなのか?脱ぐと凄いのか?

「ありがとうございます。 それと、私の持ち物の中で、眼鏡だけは何とか返して頂きたいのですが、可能でしょうか。アレが無いと殆ど見えなくて」

「視力が悪いのかね?」

 立て続けに我儘言っても、伯爵様のご機嫌は崩れる様子が無い。上々。

「はい。乱視がきつくて、この距離で漸くはっきり見える程度です」

 私の足を診ようとしたのか、中腰になった伯爵様の顔が良い位置にあったので、鼻先15センチくらいの距離まで顔を寄せて言った。

「何をするにも、眼鏡が無いと覚束無くて」

 と言い切るより先に、師団長野郎が伯爵様の腕を掴んで、私から引き離した。結構な不意打ちにして結構な勢いだったらしく、離れた伯爵様の眉間にくっきりと皺が寄る。変な姿勢になってしまったのを正し、横目で師団長野郎をねめつけた。


「君は何を守りたいのかね」


 彼らにとってそれは、とても辛辣な言葉だったらしい。

 おふざけの範囲を超えた空気が一瞬、無表情になった2人を凍り付かせたように感じられた。が、すぐに調子を取り直し、伯爵様は私へにっこりと笑いかける。

「貴女の持ち物は返せないらしいのだが、視力を補う魔導具はすぐにでも造ってやれる。それで我慢できるかい?」

「もちろんです。お願いします」

「では少し待っておいで」

 そう言いながら伯爵は、フードを外した。予想外の行動にびっくりしたが、彼の動作はオーバーで人の興味を引くので、うっかりがっつり観察してしまいがちだ。色素の抜け落ちた肌にそぐわぬ豊かな漆黒の髪は、横髪以外は長めで肩ほどまであり毛先までつやっつや。30代半ばの男性とくれば、半分くらいの人はハゲ初めて加齢臭との戦が始まっているものだが、このヒトは何か、そういう人間的なものを超越してる。魔法使いって皆そうなのかしら。

 見られる事に何の感慨も無いのか、単に慣れているのか、それともわざと人の目を惹いているのか。伯爵様は私に見えるように、顔の左側の髪をかき上げた。現れた白い耳にはズラリ、様々な形のピアスが嵌っている。指輪にしろピアスにしろ、伯爵様・・・というより魔導師は、装飾品を魔導具にして大量に持ち歩いているらしい。

 そのピアスの一つを外して手に取り、伯爵様はすっと無表情になって動作を止めた。一切、何の動きもしない。呼吸してるかも怪しいくらいに。突然のその変調に驚いて見開いてしまった目をぱちぱちしてみるが、他に何が起こるでも無い。

・・・もしかしなくても、今、魔導師様が魔法中?意外と地味!

 その後も何も無く、数秒後にすっと表情と呼吸を取り戻した伯爵様は、ピアスが乗っていない方の手袋を口で噛んで外し、指輪が並ぶ素肌の指で件のピアスを摘んだ。白い指先できらりと光るリングピアスは、クリスたんの瞳のような鮮やかな青色に輝いている。サファイアにしか見えないけど、どうなんだろう。リング状のサファイア?ピンとこない。

「右耳をかしてごらん」

 見入っている内に顎先を手袋をしている方の手で捕えられ、右耳を差し出す形に動かされた。丁寧な仕種だが、色っぽい感じでは無い。連想したのは医者だ。研究者や、職人に近いのかも。そのまま消毒も無しにいきなり刺されたが、ちゃんと元からあるピアスホールにストライクしているので痛くないし、怖いから従順にしておく。どうせ未知の金属(石?)だろうから慌てたってどうしようもない。痒みとかが出てくるまではほっとこう。

 とか何とか考えている内に、みるみる焦点が合ってくる。

「! 凄いです!」

うおああ!見えるー!

 試しに視線の先に居た師団長野郎を眺めてみると、まるでメガネ有りで至近距離で見るように、細部までくっきり見えた。襟の細かい刺繍の1本1本まで、眉間の縦皺の1筋1筋まではっきりと。ひっ!怖さ倍増!

 コンタクトってこんな感じなのかしら?した事無いから分からないが、眼球に何の負担も無いコンタクトレンズを入れたようだ。

「良いようだね。 外したい時は私に言いなさい。基本、私から直接装着させられた魔導具は、絶対に私以外の手で着け外ししないように。良いね?」

「はい。分かりました。 ありがとうございます」

 正直言うならメガネ派の私にとって、コンタクトレンズは邪道で、メガネ自体に意味がある。極論、私の本体はメガネで、私自身はメガネの付属品だと言っても過言では無い。うそです。

 だがしかし、視力が回復するという事態は全く別の次元の話だ。ビバ魔導具!リっちゃん最高!テンション上がって勝手に愛称呼びだ。脳内だけだけどね!

 伊達メガネの入手法は後々考えるとして。

「・・・あ、もしかして、コレ、バルバトリアの地図ですか?」

 尻の傍に在った、布か紙か分からない物が見えて問うと、苦笑した伯爵が教えてくれた。

「いや、世界地図だよ。 貴女は本当に異世界人なのだね」




読み難い駄文をお読み下さって、本当にありがとうございます。



少しでも読み易くなるよう思考錯誤中につき、今後何度か改稿入りそうです。すみません。

お話の内容は変更しない予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ