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カレン  作者: f/1
異世界
12/62

11

作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。

誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。

また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。


4/4:行頭空白挿入(内容変更無し)




 テーブルとソファセットの間を通って、その部屋の主の前へ。歩いてる間中、部屋の壁の殆どを塞いでいる書棚を眺めるフリで心臓を宥めた。怖い怖い。

 そうして眼前に、思いの外近くにまで、伯爵様は私をひっ立てた。酷い!

「おはようございます」

 彼の長い足のすぐ右に執務机へ立て掛けられたあの剣が見え、別の意味で膝が震えだすのを必死で押し留め、何とか絞り出した声は情けなくも震えていた。咳払い!咳払いで誤魔化せ!そして心の準備をしよう。次に来るのは鋭く冷たい言葉だ。

「失魔症というのは事実か」

・・・ん?

 覚悟した通りの件のバリトンが、挨拶もせず本題を切り出した。らしい。良く分からない。いきなり知らない単語を言われても、と内心びびりながら目の前の男を見上げると、違和感にうっかり首を傾げてしまった。

あれ?目が・・・。

 近くで見上げた師団長野郎の淡いブルーグレーの三白眼が、昨夜の鋭さを減らしているように見えた。が、間も無く気付く。違う。ゴミクズを見るような目の鋭さも無機質さも変わっていない。ただ単に、虹彩の色素と透明度が高過ぎる為に、彼の目は遠目だと実際以上に三白眼に見えるんだ、って事が判明しただけだ。三白眼という事実に変更はありません。怖い。

・・・・・・にしても、まさか、こやつまで美形とは。

 もしかしたら、とは思っていたけど、初めて近くで見た師団長野郎は切れ長の目の精悍な男前だった。日焼けした肌や、しっかりとした引き締まった顎、大きめの口、高い額と鼻など、所謂男らしい美形ってやつである。さっぱりと切り揃えられた短髪と、真っ直ぐな眉、意外と濃い睫毛まで同じ煌くような白金色。険しい表情が似合いそうな端正さは、好きな人には堪らないんだろう雄の色気がある。コレ、童貞ってウソでしょ、絶対。

 しかし、クリスたんを至近距離でガン見し、アンマリちゃんに股間を拭かれ、あの伯爵様を見慣れてきた私を狼狽させるほどの美貌ではない。ふふふ。

 唖然とするほど驚いたのは、その体だった。大柄なのは分かっていた。裸眼で遠目で服の上からでも分かるほど、頭が小さくて首が太くて骨格も筋肉もごつい、まさに欧米系のアスリートみたいだとは思ってたんだ。だけど2歩も無い距離で目の当たりにすると、覚悟の上でもちょっと引いた。隣に立つ、全身真っ黒の厚手のフード付きローブ姿で体の輪郭が殆ど見えない伯爵様が、単体で見た時より一回り華奢に見える。プロレスラーとかボディビルダーみたく派手なゴツさじゃないとこが怖い。これが、軍人。

 このヒトに、この体にあの仕打ちをされて、良くこの程度で済んだね私。怖っ!

「失魔症とは何でしょうか?」

 平然を装って言いながら、視線を彼の制服の首元へ落とす。私自身長身の部類に入る上に普段ハイヒールだから、見上げる事に慣れてないの。首が疲れるのよ。そしてあんまり見上げてると目眩がして、右肩も痛むのです。

 師団長野郎の低い声や体格に似合った大きめの喉仏の傍、立襟の左側、金糸の刺繍を避けるように、似た色合いの金属が嵌っているのを眺める。襟章というヤツか。生地と同色では見え難いけど、それで意味があるのかしら。1センチ×2センチ程度のサイズの襟章の、細かい意匠は裸眼では見えない。

 威圧感と圧迫感と恐怖心に負けてドキドキいう心臓のために、色々と気を逸らそうとしてみるが、なかなかどうして、難しい。そんな私をどう見たのか、師団長野郎が何か言おうとしたのだが、横から伯爵様が無視して先に喋り出した。

「魔力を失う病の事だ。 失魔症患者は世界的にも、とっても差別されていてね。この国でも、ほんの数年前まで、王侯貴族が、公然と、彼らに排斥行為をせっせと働いていた。曰く、魔力が無いのは、神の加護を捨てた所為で呪われたから、なんだそうだよ。神の加護を捨てる方法や、何に呪われたのか等、誰もご説明くださらないがね」

そもそも神の加護が、どんなもので、どのように、いつ与えられるか、誰も説明できないのにねえ。

 最後の言葉は、ため息混じりだった。伯爵様はこの話題に思う所がたっぷりおありのようだが、師団長野郎は対して黙した。他の人の反応が気になって振り返ってみたけど、扉の側に控えているアンマリちゃんの表情はやはり裸眼では見えず。侍女に徹している気配だけが読み取れた。役立たずな目ん玉である。いい加減これもうんざりなので、後で思い切って伯爵様にオネダリしてみよう。

 伯爵様に向き直って自分の考えを言いながら、足の疲れと痛みの限界を自覚しそうになったのを、軽く動かして誤魔化した。

「そうですか。では私は失魔症ではありませんね。でも魔導具が使えないのは確認しました」

 背後を振り返ったり、目を擦ったり、足をもじもじさせたりした私を、伯爵様はとても興味深そうに注視している。

「魔導具が使えないなら、魔力が無いという事で、魔力が無いという事は、失魔症という事だがね? そうではないと言い切る根拠は何かね?」

「失礼ながら、この世界で産まれる人間は大抵魔力を持っている、とご説明頂いたと記憶していますので、そもそもこの世界で産まれていない私には、当て嵌まらないかと存じます。 元より、私の産まれた場所では、魔力や魔法は空想の存在というのが一般的な認識で、魔力を持っている人間の方が特殊で変人扱いされたり、場合によっては、そうですね、排斥行為を受ける事もあったかと思います」

 この世界の事を説明してくれる予定が、私の世界を説明している。どこまでも私の立場は底辺だが、仕方ない。ちょっとイラっとしてる事がバレないよう、気を付けて微笑を心掛けたが、そういや顔中包帯だらけであんまり意味無かった。残念。でも営業スマイルは現代日本人の基本能力だ。それこそこの世界での魔力レベルと認識している。異論は受け付ける!

「元々無い、と。なるほど。あったものを失ったのではなく、元々無い、か」

 何故か可笑しそうに笑った伯爵様が、半分独り言のように言った。仰る通りだが、続く言葉も仰る通り。

「けれど、この世界の者、特に失魔症に拘る王侯貴族は、貴女を失魔症と断じるだろうよ。 ああ、ちなみに、ここはバルバトリア王宮内で、王侯貴族の大本営だ」

「はい。そのように認識しています。 そこで、相談したい事があるんですが、聞いて頂けますか?」

「聞こうとも!」

んんっ?何故ここでテンション上がるんだ伯爵様。

 今にも「ワッハッハッ」的に笑い出しそうな、とっても良い笑顔になった伯爵様へ、ちょぴっと胡乱な眼差しを投げちゃった。

 と、眼前が陰る。

 飛び退きたい衝動を死ぬ気で抑えて振り仰いだ先には、机から腰を浮かして半歩、威圧するようにこちらへ歩み寄った師団長野郎の姿。このガタイで、更に伯爵様よりまだ5センチは背が高いらしい、立って見下ろされるだけでも酷い圧迫感を感じた。


 そして、感情の無い、氷のような瞳。


「・・相談だと? 要求、の間違いでは無いだろうな」

 否を許さない、人に命令する事に慣れたバリトン。人を罰する事、殺す事ができる人。

「・・・・まず、私に、害意や悪意が無い事をご理解頂ければ幸いです。」

 震える体も声も、捻じ伏せる。大丈夫、出来る。伊達に会社員6年もやってない。バイト時代から入れたら、高卒以来社会に揉まれて今年で13年目だ。命乞いくらい平然とした顔でやってやる!怖いけどねっ!

「私は、元の世界でいつも通りの生活をしていたところ、いつも通りの仕事部屋に入ろうとして、気付いたらこちらの正妃様の御寝室に居たのです。誓って故意ではありません。そもそも、異世界へ行く等というのは、私の世界では空想の物語でしかありませんでしたから、どうやって御寝室へ入ったのかも分かりません。 正妃様のお傍に近付いたのも、あの時の私にとっては、小さな女の子が泣いているからとりあえず声を掛けた、というだけの事で、その女の子がどのような方かも存じ上げなかったのです。他意など全くありませんでした」

 あの時、調書を取るとかぬかしながら、このヒト、結局私の言う事なんかなーんも聞いてくれなかったんだよね。まあ私の態度にも問題あったけど。

 聞かぬなら、聞かせてみせよう、師団長。殺さない方向でひとつ。

「ですので、私は身の潔白を証明したいのですが、その方法どころか、こうして言葉が通じている事情すら理解出来ていませんので、道は困難を極めると考えました。 そこで、まず私という人間を知って頂き、皆様からのある程度の信頼を得るのが先決と思ったしだいです」

あ!だあめー。

 口を開こうとした師団長野郎に気付かぬ振りをして、つらっと続ける。

「魔導具が日常生活で必須である事、私にそれが扱えない事、これを知る前までは、伯爵様のご厚意に甘えさせて頂き、お仕事をご紹介頂いて自立し、身を立てようかと。それから世界を移った原因究明と証明、帰る方法の探索にかかろうと考えておりました。 ですが、魔導具を使えないという事が、この国では水を汲む事も侭ならないほどのハンデというのでしたら、私は全くの役立たずです。 考えを変えなくてはいけません」

 続けて「そこで」と言った私の声と、鋭く「それは」と言った師団長野郎と、「そして」と言った伯爵様の独特の低音が、見事に重なった。軍配は年の功か、伯爵様に。

「ここで私が登場すると良いね」

 笑う伯爵様。ヒントめいた事を言ったのは、きっと念の為、だ。私は一段と冷ややかになった師団長野郎の空気が怖くて、愛想笑いも出来ず神妙なふりで肯いて見せた。ここまで言ったらもう、後は行けるとこまで行くだけだ。

「御察しくださり、恐縮です。 私を保護する、と仰ってくださった伯爵様と王妃様に甘えるしか、私には無くなりました。 ですからまず、私に何が出来るのか、という事を知りたいのです。その為には、この世界やこの国について、最低でも平民の子供程度の知識が必要となります。 伯爵様、どうか、お願いします」

 伯爵様に向かってぺこりと頭を下げる。足が痛くてちょっとフラ付いたけど。


「私の将来と交換に、伯爵様の知識をお分けください」




読んで下さった神々に感謝いたします。



誰かが読んでくれている、という事がこんなに嬉しいだなんて、今まで知らなかった事が悔やまれます。

とか言いながらもう既に、少しでも多くの方の暇潰しになれたら良いな、という欲が出てまいりました。

精進致します。

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