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作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。
誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。
また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。
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アンマリちゃんを待っている間に窓の外を観察してやろうと企んでたのだが、やはりというか、彼女は出て行く前の片付けで窓とカーテンをぴったり元通り閉めて行った。ちょっとだけ開けて覗いてやろうかとも思ったけど、そんなアンマリちゃんの姿を思い出し、好奇心猫を殺す、と脳裏に浮かんだので止めておいた。小心者なんだってば。もしすぐ外に誰か居て、目が合ったら死ねる。
この空き時間どう使うかなあ、とリハビリがてらそのまま薄暗くなった室内をうろうろ歩きつつのんびり考える。木製の床はフローリングばりに磨かれていて、樹脂か何かでコーティングされており、裸足でも何の心配も無く歩けた。むしろ日本人的には土足で歩く方が気を使う質感だ。しかしバルバトリアはがっつり土足文化のご様子。
裸足に屈辱を覚えなくてごめんなさい。たぶん下着等が与えられない事にイマイチ精神的苦痛を感じられないのも、フローリングの床だと自宅で寛いでる状態に近い所為だ。ノーパンは無いが、ノーブラは慣れています。このワンピ、ざっくりゆったりで生地が余ってるから乳首も浮かないし、股間が見える丈でもないし、問題ありません。
異世界とやらの不思議や今後の不安については、これ以上あまり考えたくない。もう方針は決めたので、無駄に考え込むと無駄に落ち込むだけだ。後は習うより慣れろ的にやってく腹積もりである。
「・・・」
ふと思い付いて、アンマリちゃんの所作を思い出し、細かいとこまで真似してみる。ただ歩くだけでも、旋毛・顎・首・肩・背筋・ヘソ・尻・膝・爪先と、全身の神経という神経を意識して、アンナマリアになりきった。最初はグラ付いたり、目線がうろついたりみっともなかったが、軽く息が上がりだした頃には何とかコツみたいなのを掴んだ。流石に右肩に響いて痛いし、軽く目眩もして、ちょっと汗ばんでしまったけど。さっき拭いてもらったばっかなのに。まあいっか。萎えるよりは。
これが思いの外ヒマ潰しリハビリに適した思い付きだったので、モノマネに更なる磨きをかけるべく壁の燭台へ歩み寄り、その動作の流れのまま先端へそうっと息を吹きかけてみる。あの時観察していた彼女を、指先まで意識して。だけど、アンマリちゃんの時と違って、燭台には何も起こらなかった。無念。
ピンクゴールドを濁らせたような色合いの、普通に蝋燭をぶっ刺して使えそうな燭台は少し傷や汚れがあり、装飾一つ無く極めてシンプルな造りだ。食器や桶もそうだった。基本、ここにある物はみな、木製も金属製もツルンとしててドの付くシンプル構造。そして使い古した跡がある。
まあでもここは騎士団の為の建物、軍人さんの為の施設だ。こ洒落ている方が嫌だ。実用性重視で結構。にしたって質素過ぎる気がしないでもないけど。
思いながら諦めきれずに何度も、燭台へ向けて色んな息を吹きかけてみる。溜息・吐息・鼻息、強弱付けて、最後にはくしゃみまでやった。それでも光が灯る気配はちらとも無く、あんまりな扱いにジト目になって睨む。無機質な金属の煌きが、カーテンを透かす陽光を反射して、睨み返された気分になった。怖い!
それにしても、これほんとに魔法の道具なのかしら。魔法が掛けられている様子は、肉眼では一切見えないから不思議。アンマリちゃんの手鏡は彫り物の装飾がいかにもだったが、指輪も桶も他と同じシンプル組だった。装飾は関係無いのか。左手の親指を目の高さ、燭台の前に翳して見比べてみても、やっぱりどちらもただの金属の塊にしか見えなかった。感触もそう。指輪は見た目の割に軽いかな?程度の違和感しか無い。
でも、この世界の人の目には、私に見えていない何かが見えているのかも知れなかった。
・・・私は、魔導具を使えない。私は、ほんの一欠けらも魔力を持ってない。
当たり前だ。思わず溜め息が出る。私、日本人!魔法なんてそんな欧州っぽいものは無縁極まります!かと言って霊媒師とかにも全く縁無いけどね。
私のこの、映画や小説やメディア等で得た中途半端な雑学知識が、今後吉と出るか凶と出るか、微妙な気がしてきた。何一つ察する事も出来ずに怯える小動物を演じて他者の同情を誘うには、私は年齢的にも身長体重的にも成長し過ぎている。むしろ成長しきって老化が始まっ・・・まだだっ!まだやらせんよっ!
思考に元ネタを知らないせいであやふやな名言が飛び交いだした頃、漸くアンマリちゃんが戻って来た。扉を開け、まず目をやったベッドが空な事に驚きもせず、実に静かに速やかに反対側の壁に居た私へ顔を向ける。裸眼だとこの距離じゃ表情が読めないが、さっきの焦燥はすっかり嚥下したらしく、気配も声も超事務的なものに戻っていた。
「お待たせ致しました。 歩く事が出来るようなら移動願います」
おや、伯爵様が異世界説明に訪ねてくれる予定が、なんだかとっても緊張する展開に。
「分かりました。 伯爵様は?」
こちらも動揺は見せないよう取り繕い、尋ねてみる。質問の答えはたぶん後回しにされるだろうと思ったが、意外にも彼女はすんなり律儀に答えてくれ・・ながらさっさと寄ってきて私の背中を押した。はいはいはい、はよ歩けってことね。
「状況を鑑みて、予定を変更なさいました。 行き先にてお待ちになっておられます」
「行き先はどこか伺っても?」
「この上階、黎明様の執務室です」
ぎゃあっ!!
この世界で初めて、自分の足で歩いて行く場所が、その目的地が、よりにもよって師団長汚物野郎の元とは・・・・・・あら?汚物は無かったかしら?ふんっ。
裸足のままだったけど、緊張しながら扉を出て暫くは何も感じなかった。それよりも、私を殺す指示を受けているという軍人さんの姿が真っ先に視界に入ったので、嫌な緊張と汗が噴き出してまっとうな神経はまた成りを潜める事に。しかも当然着いてくる。あの医務室を見張っていた職業衛兵なのではなく、私を見張って着け狙って殺そうと窺ってい・・・おーちーつーけー。
アンマリちゃんにグイグイ背中を押され、ハイペース気味に歩かされながら何とか気を静める。気休めに周囲を観察すると、あの医務室から想像していたのよりずっと幅広の廊下は、意外な事に濃灰色の石造りだった。進行方向左へ緩いカーブを描いているその廊下の、両側に幾つも並んでいる部屋は、石造りや木造が入り乱れているようで、扉の材質が統一されていない。大きさもバラバラ。一緒なのはデザインだけだ。
明り取りの窓も無く、薄暗い。設置されている燭台は全部灯っているが、間隔が広く、最低限の光源しか無かった。
それにしても天井が高い。この世界基準かこの王宮基準かは不明だが、天井の高さは以前の私の日常生活では滅多にお目に掛れないものだ。4~5メートルあるかしら。1階分の高さがこれだけあったら、3階くらいで確実に死ねそうだ。今のところ飛び降り自殺の予定はありません。
そして、かなり大きな建物のようで。
ようやっと端っこに来たと思ったら、そこから先、廊下がそのまま階段に繋がっていて、見上げた折り返しの踊り場壁際には、結構な大きさの長椅子が設置されていた。階段も1段毎が大きく、流石にゼーハー言い出した私だったが、アンマリちゃんは容赦無くペースを落とさない。鬼!
でも、まあ、理由は分からんでもない。
広いその踊り場には、突き当りに大きな窓があって、その向こうに新緑の木々広がっていて、その緑達の天辺からどーんと生えたみたいに、真っ白な大きな壁がそびえ立っているのが見えた。白亜とくれば、王城だ。バルバトリア王宮本宮。
その窓を横目に眺める位置にある木製の長椅子に、2人の軍人さんが座っていた。私付きの軍人さんと同じ、そして師団長野郎と同じ、紺青色の生地に華美では無い金色の刺繍が美しい軍服を着ている。そして腰に長い刀剣が。形や大きさはどうやら様々あるらしく、その3人の何れも、師団長野郎の物ほど大きくはなかった。まあそんな事は何の慰めにもならない。武器は武器だ。彼らが好意的とまでは行かずとも、せめて私に無関心なら慰められるけどね。
しかしてそんな都合の良い話は無い。彼らの様子から感じ取れるのは警戒心と敵意のみ。
メガネが無くて本当に良かった。彼らの敵意に満ちた表情がはっきり見えてたら、きっとこうして何事も無かったような素振りは出来なかった。この辺りは大きな窓からの陽光で明るく、メガネをしてたらさぞかし細部まで見えていただろう。こっわー。
アンマリちゃんが急かす理由を好意的に解釈すると、私が敵意に晒されて心痛を増やさぬように、だ。普通に考えたら、異世界人なんて意味不明な犯罪者は極力人目に触れさせず無用の混乱を避けたい、だ。間違い無く後者ですとも、ええ。
で、結局、その階段を5階まで登らされ、足の裏に小石とか刺さるのも膝が笑い転げるのも無視され、更に超長い廊下を1階の時とは反対方向へ延々歩かされた。この建物の大きさを侮っていた。その辺のショッピングモールの3倍以上は軽くあるよ。狭い日本で培った感覚は封印した方がよさそう。
こんな事ならアンマリちゃんのモノマネとかしてないで、極少になっちゃってる体力、ちゃんと温存しときゃよかった。映画とかで、腕利きの軍人役が「休める内に休んでおけ」的なお約束セリフを言うのが、今更頭の隅っこを過ぎる。おせえよ。
そうしてある扉の前で止まるよう促された時には、私は汗だくで肩で息をしていた。血の気も完全に下がっている。怪我が無くとも、完全なインドア趣味の一般事務員は万年運動不足に決まってるじゃないか。ばかめ!
内心悪態出るほど疲れ切っていたけど、無論アンマリちゃんには関係の無い事。さっさと目の前の大きくて重厚な焦げ茶色の木の扉をノックした。ノック、だよね?私のおヘソくらいの位置、その扉の表面に施された彫刻の少し出っ張った一部へ、彼女はそっと手を置いた。それだけ。それがこの世界のノックであるらしい。覚えとこ。あ、でもこれ魔法かも。
数秒後、扉が音も無く、内側から開かれた。
記憶に新しい独特の香りと共に現れたのは、伯爵様だった。
「お、はようございます」
うっかり、驚いて声を出してしまって、誤魔化しついでで挨拶しといた。想像より一回りくらいたっぷり、背が高かったのだ。そういや私、ずっとメガネ無かったし、立った状態で至近距離に対面した事無いや。アンマリちゃんは目算通り160センチくらいだったから、その事をさっぱり気にしてなかったのだ。小顔で細身な伯爵様は、167センチの私より7~8センチくらい長身だろうと思っていたけど、実際は更に数センチ上でした。確か181って言ってた我が愚弟より、まだ目線が高い。184~5くらいあるんじゃなかろうか。
「おはよう。 おいで」
上から覗き込むように言って笑った赤い瞳のヒトは、早朝でも変わらぬ濃厚な低音を頭上から降らせてきた。あまり経験の無い角度にある美顔を眺めていたいのは山々だが、首が痛くなりそうなのでさっさと促されるのに随った。
室内へ入った途端、鼻腔が伯爵様とは別の穏やかな匂いを察知する。反射的に出所を目が探したが、メガネが無いので全てが霞んで見える事を一瞬で思い出し、諦めた。それくらいその部屋は広く、色んな物が沢山あった。
日本の一般人の広さ感覚では、結構な会議室に見える師団長野郎の執務室。基調は扉と同じ材質の木造。家具も窓枠もそれで統一されているので、不愉快にもとても落ち着く色調だ。扉の向こう正面は壁が無く全て窓になっていて、焦げ茶色のカーテンが開かれている今、その窓いっぱいに白壁のお城が見えている。が、ほんと、どんだけデカいお城なのか、全貌どころか外壁の一面すらその大きな窓でも足りてなかった。間に見える木々からして、結構離れてると思うんだけど。や、乱視の遠近感は信じちゃダメ。事故るよ?
師団長野郎はその窓の手前にある大きな執務机に座っていた。椅子じゃなくてね。待ち構えてました的に、机のこちら側に軽く腰掛け、両腕組んでじっとこっちを睨んでます。白城を背景にした視覚効果か、とんでもない威圧感だ。足が竦む。
伯爵様がもう一度、今度は最初より少し強めに「おいで」と言って促してきたので、恐怖心がちょっと漏れちゃってたのを自覚した。すぐに体裁取り繕って、伯爵様についていく。
執務机の前、少し距離をとって大きなダイニングテーブルみたいなのが置いてあり、長方形のそれには色んな物が無造作に乗せてあった。テーブルには椅子が無く、部屋の左端に大きなソファセット、廊下への扉の両脇に長椅子がある。無性に椅子へ目が行く。座りたーい。足がボロボロだ。でも、部屋の主が許しそうにないので、諦めて腹を括る。
さあ!我慢大会スタートですっ!けっ!
拙い文章・構成で、大変お目汚し致しました。
なのにお読み下さった方々、お疲れ様です。本当にありがとうございます。
10話目なのにまだ冒頭部分・・・。