ムカつくオンナ
翌日、俺はやるべき仕事もせずずっと部屋にいた。昨日の事でイライラが続き、仕事をしてる場合じゃなかった。そんな俺の様子を加賀が見に来た。
「どうしたんだい?時間過ぎても来ないから、見に来たんだけど。」
壁の方を見て寝ていた俺に、加賀は何かと声を掛けてきたが俺はずっと無視していた。しかし、加賀も負けじと声を掛けてくる・・。
「佐山のおばあちゃんも“有也クン”をずっと探しているんだけど。」
そんな事、俺の知ったことじゃない・・
「いいの?おばあちゃんに会わなくて。」
しつこい・・。何も言わず寝ていると、観念したのか加賀はやっと部屋を出て行った。ドアの向こうで、ガキ共の
「お兄ちゃんどうしたの?」
という声が聞こえる。加賀は、
「お兄ちゃん今日は具合が悪くてお休みしているの」
そう答えていた。おせっかいな奴・・本当に苛立たしい。他人におせっかいをやける程、余裕を見せる奴が俺にとっては腹立たしい・・。
ふと枕元を見ると、昨日屋上から帰ってきた時に置いた煙草があった。それに手をやると、1本・・2,3本吸い始めた。
“あなたの煙草は、毒になる・・”
昨日の葉山美岬の言葉はもちろん忘れてはいなかった。しかし、今の俺にはそんな事どうでもよかった。むしろ、この毒を世界中に撒き散らしたかった・・。
しばらくして、ドアを少し開けてみたが廊下には人の気配がなかった。そっか・・今は昼すぎだからみんな部屋で休んでいるか。そしてもう一度誰もいないのを確認すると、ジャケットを持ち出し、屋上へと向かった。途中、誰かと会わないか気にしながら・・。
屋上の重い扉を開けると、まぶしい陽射しが俺の顔を照らした。手で陽射しをさえぎり前を見ると、そこにはあの“葉山美岬”がいた。ドアが開いた音で、奴もこっちに気がついていた。しばらく、2人とも目を合わせたまま何も言わず止まっていたが、やがて俺の方が先にニコッと笑い目を反らすと、来た方を振り返り、
「失礼しました〜」
と、扉を閉めようとしたが、
「暖かいよ!こっち来なよ。」
と、いう声がしたのでもう一度扉を開け、ガキの方に足を進めた。葉山美岬はパジャマ姿でフェンスにもたれかかっていた。俺もフェンスにもたれると、1回ため息をついた。はいた息は11月だったというせいもあって、ほんのり白く見えた。
「今日は具合が悪くて、寝てたんじゃないの?」
・・・どこまで知れ渡ってんだよ・・。
「ああ、具合が悪かった。けどもういいんだよ。お前は?部屋で寝てなくていいのかよ」
そう聞くと、ガキはただ頷くだけであった。
“口があるなら、しゃべれや!おいっ。”
口に出そうとしたが、留めておいた。少し沈黙が続いたが、やがてガキが何度かくしゃみをし始めた。そりゃ少し暖かいとはいえ、11月の寒空の中パジャマでいたらくしゃみもするわな。ガキは少しずつ俺から遠ざかり、くしゃみ、またくしゃみと繰り返していた。
俺から遠ざかったのは、それなりに気を遣っていたのか・・。それなら、さっさと部屋に戻ってくれたらいいのに。しかしそんな思いとはうらはらに、俺は持っていたジャケットをガキの背中に羽織った。ガキは驚いた顔で俺の方を振り返ると、
「ありがと・・」
と、小さくつぶやいた。そして俺の方をジッと見ていた。何でここにいる奴は俺のことをジッと見るのかねぇ・・。ババァといい、このガキといい・・。
「たばこ、吸わないんだ。」
ああ、そういう事か。それで俺の方ジッと見ていた訳ね。
「吸っているよ、自分の部屋で。さっきも1箱吸ってきた。悪い人デショ?」
そう言うと、ここで吸おうと思っていたタバコを、ポケットから出してガキに見せた。俺はこいつが怒ると思っていたが、ガキは怒るどころか少し笑って、
「うん、そう思った、吸っているんじゃないかって。ホントに悪い奴だねぇ」
と、言った。その時、俺はこのガキに対して少しだったが苛立ちを覚えた。
“ウソついてんじゃねぇよ”
“思ってる事言えよ”
“ホントは俺の事責めたいんだろ”
など色々頭に浮かんでいた。それをすべてガキにぶつけてやりたい気持ちだった。
「ホント、悪い奴。テメーの親泣いているんじゃないのかっての。」
俺はずっと黙っていても、ガキはしゃべり続けた。それがとてもウザかった。
「少年院出たばっかりなんでしょ?お父さんとお母さんここにいるって知ってるの?」
うるさい…。
「せっかくおりこうさんになったんだから、たばこなんて吸っちゃだめだよ。」
ウルサイ…。
「友達は?いないの?」
う・る・さ・い・だ・ま・れ
「どんな人?あなたと同じように不良さんが…」
ガシャンッ
ガキが言うのを最後まで聞かずに、俺はガキがもたれていたフェンスに拳をぶつけていた。ガキはただ驚くだけで、また俺の方を見ていた。そんなガキに俺は鋭く睨み付けると、
「何も知らないくせに・・」
そう言い放ち、その場を走り去った。ガキにジャケットを渡したまま・・。
部屋に戻りドアを閉めると、そのままベッドに飛び込んだ。
「何も知らないくせに勝手なこと言うなよっ」
再びつぶやいた・・。そして起き上がると、そばにあった灰皿を掴み鏡に向かって投げつけた。割れた鏡に映る俺の顔は惨めな“相田真夜”だった。
屋上になんか行かなければよかった・・。いや、それよりも人と馴れ合うこと自体間違ってたんだ。
“何も知らないくせに・・”
別に知ってもらおうとも思わない・・知られてたまるか。俺は決して自分の気持ちを外に吐き出したりしない。少しでも表に出してみろ・・。返ってくる言葉は、
「わあっ大変だったんだね」
「大丈夫?色々大変でしょう?かわいそう」
こんなものだ。同情なんかされたくない、惨めになるだけだ。だから決して表に出さない・・そう決めたんだ。“あの時”から・・。
「サイアク・・」
そう呟くと投げつけた灰皿を再び掴み、残ったかけらでまだ自分の姿を映してやがる鏡を粉々に砕いた。
−惨めな姿をした俺を消し去りたかったー
こんにちは。初めまして。山口維音です。
“君が僕にくれたもの”を読んで頂きありがとうございます!初めての小説なので、読みにくい点もあるかと思いますが、頑張りますのでよろしくお願いします!感想等たくさんお待ちしています。